第一章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
後輩の隊士が負った傷に簡単な処置を施した茜は、その後、鬼の攻撃から彼を守る為に刀を振るい続けていた。
「風の呼吸 肆ノ型
自分を中心に、嵐のような細かい斬撃を巻き起こした茜は、同じ顔をした鬼の頸を、瞬く間に斬り落としていく。
………だが
「そんな攻撃に意味はないよっ?」
「しつこいなぁ、……もうっ!!その顔見飽きたわよっ!」
ニタニタとした笑みを浮かべる鬼がまた飛び出してきて、茜は瞬時に刃を振るった。
先程からずっとそうだ。
実弥と二手に別れた途端、鬼は攻撃の手を強めてきた。斬っても、斬っても、うじゃうじゃと湧いて出てくる鬼に、いい加減茜も苛々していた。大方、柱を相手にする前に此方を叩こうと言う魂胆だろうが……
茜は舐められたものだな、と思わず眉間に皺を寄せる。
それと同時に〝早く首を斬ってよね〟と、必死に本体を探し回っている実弥に向かって悪態をつけば、突然迫ってきていた鬼が呻き声を上げ、ボロボロと崩れ落ちていく。
それを呆然と眺めている隊士を他所に、茜が辺りの気配を窺えば、あんなにあった筈の鬼の気配が一切なくなっている事に気づく。
〝どうやら斬り落としたみたいね……〟
やっと終わった戦いに、ほっと肩を撫で下ろした茜は、くるりと向きを変え、隊士に向かって微笑みかけた。
「どうやら風柱様が、本体の首を切り落としたようなので、ここはあの人に任せて、蝶屋敷へと行きましょう」
「えっ?……あ、あの。待ってなくても、大丈夫……なのでしょうか?」
困ったように眉を下げた隊士に、ふむと顎に手を当てた茜は、「では」と改めて口を開く。
「鴉に伝言を託すから大丈夫!それにその怪我、早く治療を受けたほうがいい……と言う事で、さあ行きますよ〜」
そう言って隊士の手を取り歩き出した茜に
〝鴉、でいいのか………、柱に挨拶すらせずに後処理を任せるなんて、大丈夫なのだろうか……〟
と後輩の隊士は不安を覚えた。
******
槙野 茜、彼女は鬼殺隊の中でも異質な存在であった。
鬼殺隊に所属する隊士は、身内や親しい友人、恋人を鬼に殺された経験がある者が殆どである。その恨みを晴らす為、悲しみの連鎖を無くす為に、命をかけて鬼に立ち向かうのだ。まあ、中には代々鬼殺隊士を受け継いでいるような名家出身者という者もいるのだが……
茜はそのどちらにも該当しない。
彼女は藤の花の家紋を掲げる、謂わば鬼殺隊を支える側の家の出身であった。
茜は幼少期から、両親や祖母に〝鬼〟や、それと戦う〝鬼狩り様〟について言い聞かせられてきた。
普通の子供ならば、人を食らう化け物を恐れてしまう所だが、当時の彼女の頭には〝そんな化け物と戦うなんて鬼狩り様はかっこいいな〟と言う憧れがあった。
だから隊士が泊まりにくるたび、せかせかと世話を焼きながら話を聞かせて貰ったし、強くなるための鍛錬も冗談めかして教えて貰ったりもしていたが、その当時は憧れ程度。まさか本当に鬼殺隊を目指すとは、誰も……本人ですら思ってもみなかった。
そんな茜に転機が訪れたのは、彼女が12歳の時だった。
******
その日、祖母のお使いに出かけていた茜は、夕暮れ時の帰宅になってしまい慌てていた。
〝夜になると鬼が出ちゃう……近道して帰ろう!〟
そう思って、普段滅多に通る事もない林道に歩みを向けた。その道をまっすぐ行けば、自宅に通ずる一本道に抜ける為、今いる道を行くよりずっと近道なのである。
だが唯一、当時の茜が見落としていたのは、林道は薄暗く〝日の光が届かない〟と言うこと。いくら夕暮れで太陽がまだ出ていようが、光が届かぬこの暗闇を行けば……
「ヒヒッ!旨そうなご馳走がいるなっ!!」
鬼に出会うのは、今の茜ならば考えなくてもわかる事だ。だが、当時の茜はまだ12歳……生まれて初めて見る鬼に脅えて、御守りとして持っていた藤の花の匂い袋まで、鬼に向かって投げつけてしまう始末である。
「ギャーー!!何すんだッこのガキ!!」
流石に匂い袋には悲鳴をあげた鬼だったが、御守りを手放した少女に口角を上げる。
「馬鹿だな〜、自分からあの花を遠ざけてくれるなんてな〜」
ニヤニヤとしながら近寄る鬼に、腰を抜かしてその場にへたり込んだ茜は、絶望感から涙を流し〝もう駄目だ……〟と思わず固く目を瞑ったが………
「ギャーーー」
先程とは比べ物にならない、耳を塞ぎたくなるような鬼の悲鳴が辺りに響き、茜は恐る恐る瞼を開けた。
そこには、鬼が首がない状態で座り込んでおり、その背後には刀を持った鬼殺隊の少年が立っていた。ボロボロと崩れ落ちていく鬼の体には目も暮れず、茜に駆け寄った少年は心配そうに口を開いた。
「君、大丈夫!?怪我はっ!?」
……これが少年隊士、中山との出会いだった。
鬼に襲われた茜を家まで送ってくれると言った帰り道、中山から沢山の話を聞いた。
匂い袋は肌身離さず持ち歩く事。日が高い時間でも暗闇には鬼がいる事。鬼は日輪刀と日の光でないと死なない事。
それから自分にも、茜くらいの妹が
……そう。彼もまた、鬼により家族を奪われ刀を持った隊士であった。
そこまで聞いて、茜も自分の事を話しだした。
まずは命を助けて貰った事へのお礼。それから自分は藤の家紋の家の娘だと言う事。鬼殺隊に憧れている事。どうしたら隊士になれるのか、と問いかけた。
「…… 茜ちゃんには、隊士になって欲しくないな」
そう言った中山は「俺が代わりに鬼を倒すからさっ」と眉を下げて笑いかけた。
それからと言うもの、中山は任務で近くに来るたび茜の家へと顔を出していた。きっと茜を亡くなった妹に重ねていたのだろう……
そんな茜もまた、彼にとても懐いていた。
顔を合わせれば「任務の話を聞かせて!」と強請り、あれ以来隊士になりたいとは口には出さなかったが体を鍛える為にと、時折り稽古をつけて貰っていた。
勿論、女がそんな
そんな風に過ごすようになって2年ほど経ち、茜が14歳になった頃だ……中山が鬼から少女を守る為に命を落としたと、聞いたのは。
それを聞いた茜は、初めはその言葉を信じられなかった。
だが、その事実を受け入れた時、不思議と〝彼のように戦わなければ〟と使命感に駆られたのだ。
鬼がいる。
悲しむ人がいる。
それに立ち向かう人がいる。
私は見てるだけでいいの?……と。
そこからの茜の行動は早かった。
両親に思いを打ち明け、中山の死を伝えてくれた隊士に育てを紹介してくれと泣きついた。
勿論、両親も隊士もそれには首を横に振ったのだが「反対するなら家を出る」と喚き出した茜に、結局は折れて育ての元へと送り込んだのだ。
まぁ、そこから色々な経験を経て、今の茜に至るわけだが、その育ての元で出会ったのが、今でこそ風柱にまで上り詰めた〝不死川実弥〟だったのだ。
******
そんな茜の兄弟子。
実弥はと言うと……
『カァッ茜カラノ言伝!伝言!ッカァ〜〜』
「は?伝言だとォ?」
一人残された山の中、近づいてきた茜の鎹鴉に眉を寄せていた。
「蝶屋敷ニ向カウ!茜ハ、蝶屋敷〜ッ!」
鴉から告げられたその一言に、実弥は大きく目を見開いた。
「なっ!まさか……あの馬鹿は本当に怪我したんじゃねぇだろうなァ?」
「シテナイ、シテナイッ、落チ着ケ!!」
そして鴉は実弥の頭上をぐるりと回りながら、小馬鹿にしたように口を開き
「実弥ニ後処理マカセタ〜ッ!茜ハ忙シイッ!マタナ実弥ッ!カァァァ〜」
飛びたって行った。
それを見送った実弥はプルプルと地を見て震え出し
「ブチ殺してやらァァァ!」
奇声を発するのだった。