第一章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
茜が本部を去ってから暫くーー、
「私の
「「「御意」」」
お館様の言葉を最後に、今回の柱合会議も無事に終わりを迎えていた。
しかし、
今だって…会議中だって……裁判の時からずっと、実弥の機嫌はもう最悪だった。
いや……、よく考えれば、柱合会議の前に〝鬼を連れた隊士とそれを庇い立てした隊士の裁判を行う〟と鎹鴉から伝達があった時からずっと、実弥は心底機嫌が悪かった。
それが実際に蓋を開けてみれば、どうだろう……
いざ本部へと訪れてみれば、庇い立てした隊士は戦いから遠ざけたいと思っていた筈の妹弟子であったし、
何故、こんな面倒事に首を突っ込んだのかと問われれば、冨岡なんかの言葉を信じたと吐かしやがる。
それに対して、無表情で茜を見つめる冨岡にも腹が立ったし、
お館様に問われても、最後の最後まで冨岡を庇い立てした茜に対しても苛ついた。
挙げ句の果てには、知らない間に下弦の鬼と対峙して頸を斬り落としていただと……
〝クソッ、茜の奴……なんでそんな肝心な事を黙っていやがったァ〟
その事実に、思わず刀を持つ腕にも力が入る。
勿論、鬼の少女の頸を斬れなかった事も、
あんな乳臭い餓鬼に頭突きを食らわせられた事も腹立たしさを増した要因でもある。
それから会議前に、わざわざお館様の前で治療をすると言ってのけた胡蝶にも。
「あァ?そんなもん要らねェよ……」
「そう言われるとは思っていましたが、茜さんにお願いされてしまったので、仕方がありません……それより、不死川さん。さっさと腕を出していただけますか?柱合会議を始められないじゃないですか」
笑顔ではあるものの、こめかみに青筋を浮かべた胡蝶に小言を言われ、それに同調するかのようにお館様に微笑まれれば手当てを受ける他、選択肢はない。
「チッ、……早くしろォ」
「全く、素直じゃありませんね」
そう言って手際よく手当てをしていく胡蝶の手元を眺めながら、実弥は眉間に皺を寄せた。
******
その後、会議を終えた柱達は、庭へと出た所で解散となった。
「おい、胡蝶……さっきは悪かったなァ」
先程、胡蝶には散々小言を言われもしたが、手当てをして貰った事も確かである為、実弥は彼女へと礼を告げた。
「それから、茜が暫く世話になる……すまないが宜しく頼むわァ」
「そんなに心配であれば、直接茜さんに伝えてあげればいいのではないですか?」
そう言ってコテンと小首を傾げたしのぶを無視して、宜しく頼むともう一度口を開けば、それ以上彼女は口を開く事はなかった。
だがその代わりに、何か言いたそうにじっと見つめるその視線に、実弥は堪らず退散する事を選んだ。
じゃあなァ、と呟くや否や、足早に本部を後にする。
しかし、本部の敷地を跨いだ所で、今度は別の同僚に呼び止められる
「不死川!!少しいいだろうか!!」
「……何か用かァ?」
それは裁判の間、茜を制御していてくれた煉獄の声で、わざわざ追いかけてまで何の用だと実弥は足を止めて振り返る。
「槙野の事だ」
「…… 茜の件なら、もう決まった事だろうがァ……俺は、お館様のご判断に従うまでだァ」
予想はしていたが煉獄の口から出るのも、やはり茜の名前かと、眉間に皺を寄せながらも返事を返す。
だが、そんな実弥に再び口を開いた煉獄は、いつもの大声ではなく、静かな声で問いかけた。
「……その事だが、彼女はこうと決めると多少の無茶も厭わない所がある。そろそろ柱を転々とする稽古は辞めて、しっかりとした師を持つべきではないだろうか?」
「あ"?何が言いたい」
「俺は回りくどい言い方が苦手だからな、単刀直入に言おう!昨日、槙野に稽古をつけてやった際、継ぐ子にならないかと彼女に告げた。呼吸の派生こそ違えど、やはり槙野は師を持つべきだと思う!!」
……は?
全く思いもしていなかった話に、実弥は一瞬動きを止めた。
確かに以前、柱合会議でそのような話題が出た事もあったが、あの時は冨岡がそれをぶち壊しにした為、結局茜は相変わらず誰の下にも付いていない。
だが、面倒見のいい煉獄の事だ。
あれから度々稽古をつけてやっていたのだろう……
なんとか思考を呼び起こした実弥は、ガシガシと頭を掻きながら口を開いた。
「前にも言ったが……それはアイツが決める事だァ。俺には別に関係ねェよ」
そう言って背中を向けて、今度こそ本部を後にしようとすれば、そうだろうかと声がかかる。
そして煉獄は振り返りもしていないその背に、構う事なく言葉を続けた。
「彼女が他の柱の継ぐ子になれば、今のように不死川と任務に着く事は格段に減るだろう。槙野が傷付かぬようにと守ってやる事も出来ない……人知れず涙を流す事にも気づかないだろう……現に、彼女が下弦を討ち取ったなど初耳だった!」
「………」
「もしかしたら、我らは今日にも命を散らすかも知れないのだぞ?もしも彼女の命に危機迫る時、……君はそれすらも知る事が出来ぬかも知れないという事を、きちんと理解しているのか?」
「なっ、………!」
頭を金槌で殴られたかのような衝撃に、実弥は思わず振り返る。煉獄の問いかけに、びたりと思考も停止する。
そんな実弥の肩に手を置いた煉獄は、真剣な目つきをしていた。
「……不死川、よく考えるといい!!」
そう言い残した煉獄は、実弥を追い越し颯爽と帰路に着くのであった。
******
煉獄が去った後も、実弥は暫く動きを止めたままだった。
いつ死ぬか分からぬ鬼殺隊で、他の柱の下に着くという意味……理解しているつもりでいたが、煉獄に言われるまで気づきもしなかった。
……分かっている。
なら、自分の継ぐ子にすればいい。
茜が死なないように強く鍛えて、俺が守ってやればいい。
……だが
実弥は拳を強く握りしめた。
もしも茜を継ぐ子にすれば、彼女は喜んで何処までも着いてくるだろう。
それこそ、命を落とすかも知れない危険な死戦をも……
巻き込みたくない。
出来る事なら、彼女を戦いから遠ざけたいのだ……
「糞がァ……、どうすりゃいいんだァっ、……」
苦しそうに吐き捨てられた言葉は、実弥の心情そのものだったーー。