第一章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
お館様に説明を促された茜は、その後ろで片膝をついた実弥に睨まれ、顔を真っ青にしていた。
「いえ、これと言って………、ありません……」
そう呟いて俯いてしまった茜に、お館様は優しく笑いかける。
「では質問を変えようか。何故炭治郎と禰󠄀豆子を助けてくれたのかな?」
「それはっ、……」
「ゆっくりでいいから話してごらん?」
ぎゅっと拳を握りしめ下を向いていた茜だったが、お館様の言葉に後押しされるかのように、ポツリポツリと話し出す。
「……確かにその少年が言うように、少女の姿をした鬼が、一緒に戦う瞬間を目撃しました」
その一言に、勢いよく炭治郎が振り向いたが、茜はそんな彼に困ったように眉を下げた。
「私が駆けつけた際、下弦の鬼と対峙する炭治郎君は満身創痍な状態でした。きっと相打ちになる覚悟だったのだと……思います。鬼へと突っ込んでいくその背中にっ、……正直、彼は助からないと思いました。」
茜の説明を聞く柱の面々は、その状況を思い浮かべ神妙な面持ちで彼女を見つめた。
「ですが……彼を助けるように、鬼だけを焼き払うように……その少女が攻撃をして、文字通り彼らは一緒に鬼と戦っているように、私の目には映りました。」
その言葉に、実弥が顔を歪めるのを視界の端に捉えながらも茜はそのまま言葉を続けた。
「でも、あの状況では少女が害を及ぼすかどうか……私には到底判断ができませんでした。それよりも怪我を負った炭治郎君の方が心配だったし、そんな彼をもしも少女が襲ったらと思ったら……
その首を斬るしかないと思いました」
そう言ってチラリと炭治郎を見た茜は、ごめんなさい……と呟いた。
「でも茜は結果的に禰󠄀豆子の首を斬らなかったね。それどころか、炭治郎達を逃す為に隊律違反まで犯したのは、どうしてかな?」
「それは私の独断で……勿論、罰則は受けるつもりです」
「私は別に茜を責めているわけではないよ?茜の判断があったからこそ、炭治郎や禰󠄀豆子は今も生きているのだからね?」
「い、いえ……私はそんな大それた事は……」
「ああ、分かっているよ。ただ私は確認したいんだ」
覚悟を決めたように、目を逸らさずお館様を見つめる茜に、お館様はまるで彼女の表情が見えているかのように視線を合わせて微笑んだ。
「どうして禰󠄀豆子を助けてくれたのか、茜の言葉で聞かせてくれないかな?」
「…………」
優しく笑いかけるお館様に、茜はぐっと息を呑んだ。先程まで〝罰則を受け入れる〟とあんなにハッキリ答えた彼女が、いきなり狼狽出した事で、その場の者は皆、一様に首を傾げた。
そんな彼らの視線を感じながら、少しの間オロオロと視線を彷徨わせた彼女は、戸惑いながらも小さな声で話し出した。
「……私はあの時、彼らに同情したわけでも………ましてや誰かに命令されたわけでもありません。」
そこまで言って、茜はチラリと視線を移した。
その先で相変わらずの無表情を浮かべる男の姿に、静かに目を伏せ小さく息を吐いた。
「ただ、冨岡さん……水柱様だけは彼らのことを知っているようでした。あの時は、説明すらまともに聞けない状況でしたが……彼らの戦いをこの目で見ていた私より、後から駆けつけた蟲柱様より、………水柱様が一番状況を把握していたように思いました。」
その言葉と共にゆっくりと目を開けた茜は、すっとお館様へと視線を戻し口を開いた。
「あの時水柱様は〝妹を連れて逃げろ〟と炭治郎君へと声をかけていました。………たったそれだけ、その一言でしたが…………尊敬する、信頼する仲間のその言葉を、その判断を信じた……それだけです。
………ですが、これは私が勝手に判断し、行動に移したまでです。
……ただ
仲間を信じたことに関しては悔いてはいません!!」
そう言い切った茜の言葉に、冨岡は驚いたように顔を上げた。そしてそれは、その場に居合わせた他の柱達も同じだった。
そんな中お館様だけは初めから分かっていたかのように笑みを深め、嬉しそうに頷いた。
「そうだね、その答えが聞けて安心したよ」
「……でも、それと同時に蟲柱様に楯突いたのも確かです」
「確かに、それは変わることのない事実だね。だけど、本当にしのぶへと牙を向いた訳ではないだろう?
仲間を信じるということは、時に自分の力を信じることよりもずっと難しい選択となるだろうね。
だからこそ、私は茜にこれ以上の罰則は不要だと考えている。きっとここいる皆も分かってくれる筈だよ?」
お館様のその言葉に、皆が異論はないと口を閉ざせば
「恐れ入りますが…」
一人険しい表情を浮かべた実弥が口を開いた。
「もしも此処で槙野の今回の行動を許せば、今後他の隊士達の士気にも関わります」
「実弥」
「……それ相応の罰を与えるべきです」
お館様に咎められるように名を呼ばれても、実弥は茜に処罰をと言葉を続けた。
「でしたら茜さんには罰として、蝶屋敷の手伝いをお願いしたいのですが宜しいですか?」
それをじっと聞いていたしのぶが、徐に手を上げて満面の笑みで問いかけた。
「那谷蜘蛛山の一件で患者が溢れていますので、今は猫の手も借りたい状況なのですよ」
と言っても本物の猫は御免ですが……と苦笑を浮かべたしのぶに、お館様も笑みを浮かべる。
「しのぶ本人もああ言っている事だし、茜には蝶屋敷で怪我人の手当てをお願いするとしよう。実弥もそれで納得してくれるかな?」
そう言って笑いかけるお館様に、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた実弥は頭を下げた。
「…………っ、御意」
なんとも重苦しい空気が兄妹弟子である二人の間に流れたが、
「では話しもまとまった事だし、柱合会議を始めようか?」
お館様の一言で此度の裁判は終わりを迎えるのだった。