第一章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
声を上げた柱達を宥めるように、お館様は優しい口調で説明を続けた。
彼らの為に二人の命がかけられていること
禰󠄀豆子が人を襲わないという保証や証明はできないが、その逆も然り……人を襲わないということも証明ができないということ
炭治郎は一度鬼舞辻無惨と接触していること
その際、奴が炭治郎に向けて追っ手を放ったこと
それらを説明し終えたお館様は
「私は初めて鬼舞辻が見せた尻尾を掴んで離したくない」
そう言って優しく微笑んだ。
その言葉に皆は口を噤んが、すぐに険しい表情を浮かべた実弥が荒々しく声を上げた。
「分かりません、お館様……人間なら生かしおいてもいいが、鬼は駄目です。承知できない」
その言葉と共に強く刀を握りしめた兄弟子の姿に、茜はいち早く動きを見せた。
「風柱様っ、……!」
彼に呼びかけ、自身を傷つけようとしている
「槙野まで暴れては制御出来ない。君は大人しくしていなさい!」
「……っ、」
煉獄によって肩を押さえ込まれた茜が、泣きそうな表情で実弥を見つめれば、そんな視線を気にする素振りすらも見せず、実弥は自身の腕を斬りつけた。
彼の腕からは止めどなく血が流れ出し、自然と足元が赤く染まる。その光景に茜が顔を歪ませていれば、実弥は高々と言い放つ。
「お館様……!!証明しますよ、俺が!!鬼という物の醜さを!!」
そして、食事だと鬼を嘲笑うように口を開いた実弥は、木箱の上へと腕を差し出した。
ボタッ、ボタッ……と腕からは血が滴り落ち、木箱が赤く染まっていく。次第に血の匂いに釣られて、箱の中から鬼の呻き声が聞こえ出す。
「不死川、日なたでは駄目だ…… 日陰に行かねば鬼は出て来ない」
「お館様、失礼仕る!!」
伊黒の助言を受け、一瞬で部屋の中へと移動した実弥は、またしても木箱に向かって刀を構えた。
「やめろーっ!!」
それを阻止するように炭治郎が暴れ出せば、すかさず伊黒によって彼は地に押さえ込まれた。余りの圧に炭治郎は息もできぬ苦しさに顔を歪ませる。
そんな炭治郎の目の前で、実弥は何度も木箱を突き刺し、挑発するように口を開いた。
「出て来い鬼ィィ!お前の大好きな人間の血だァ」
その叫び声と共に、箱から苦しそうな禰豆子が顔を出せば、実弥は惜しげもなく血だらけの腕を差し出した。
涎を垂らしながらその腕を睨みつける禰󠄀豆子の姿に、その場の者も息を呑んで見守るが、炭治郎が再び暴れ出した為、しのぶが彼を宥めようと口を開く。それに数名の柱が反応を見せれば、炭治郎は彼らを気に止めることなく、縄を引きちぎり叫び声を上げた。最終的には押さえ付ける伊黒の腕を冨岡が掴み上げたことにより、
「禰󠄀豆子っ!!」
なんとか拘束から抜け出して、鬼のいる方向に向かって駆け寄った。
その瞬間……
兄の声が届いたように、目の前の血だらけの腕から禰󠄀豆子はプイッと顔を背けた。
相変わらず涎はポタポタと口元から溢れているし、荒い呼吸を繰り返してはいるが、あれ程までに体を貫かれた後で、稀血の中でもかなり稀少な実弥の血に、禰󠄀豆子は自分の意思で争ったのだ。
それに皆が驚きを隠せないでいれば、お館様が落ち着いた声で問いかけた。
「どうしたのかな?」
「鬼の女の子はそっぽを向きました。不死川様に三度刺されていましたが、目の前に血塗れの腕を突き出されても我慢して噛まなかったです」
少女が淡々と状況を説明すれば、お館様は穏やかな笑みを浮かべて話し出した。
「ではこれで、禰豆子が人を襲わないことの証明ができたね。炭治郎……、それでもまだ禰豆子のことを快く思わない者もいるだろう。証明しなければならない。これから炭治郎と禰豆子が鬼殺隊として戦えること、役に立てること。十二鬼月を倒しておいで?そうしたら皆に認められる、炭治郎の言葉の重みが変わってくる」
「は、はいっ……俺と禰豆子は鬼舞辻無惨を倒します!!俺と禰豆子が必ず、悲しみの連鎖を断ち切る刃を振るう!!」
それに意気込んだ炭治郎だが、お館様から「今の炭治郎にはできないからまず十二鬼月を一人倒そうね」と諭されると、恥ずかしそうに頬を染めた。
そんな炭治郎にもう一度ふわりと微笑みかけたお館様は、再び優しい声色で口を開いた。
「ところで茜、久しぶりだね?」
「「「……?」」」
その一言に柱達は驚いたように茜へと視線を移した。それに気がついた茜は、オロオロと視線を泳がせた後、
「……ご無沙汰しております」
小さな声で呟いた。
そんな茜に向かって「元気そうで安心したよ」と笑うお館様に、しのぶが不思議そうに首を傾げた。
「お館様。つかぬ事をお伺いしますが…… 茜さんとは、前にお会いした事があるのですか?」
「ああ、皆には言っていなかったかな?茜には以前本部へと来てもらっているんだ」
「そう、…なのですか……」
そう言って顎に手を当て考えはじめたしのぶに、お館様はふわりと笑ってみせた。
「茜は以前、下弦の鬼を倒しているからね。……あの時は、柱への勧誘は断られてしまったけど、ね?」
「お、お館様っ……!!」
それに茜が、何とも頼りない声を上げれば、お館様は「すまない。秘密にする約束だったね」と笑みを浮かべた。
「……下弦の鬼を?……茜が倒したァ?」
何も聞かされていない実弥が、驚いたように声を上げ、そのまま茜を睨みつければ、彼女は罰が悪そうに視線を逸らした。
「実弥、あまり茜を責めないでやって欲しい。あの任務は茜にとって、過酷な任務だったからね……私がそれを許したんだ」
お館様にそう言われてしまってはと、実弥が思わず口を噤めば、お館様は再び茜に問いかけた。
「炭治郎と禰󠄀豆子を実際に見ている茜からも、私は話を聞きたいんだが…… 茜、どうだろう?」
〝どう、と言われましても……〟
茜は眉を下げながら、兄弟子の顔をチラリと伺い………
これでもかという程に顔を青ざめるのだった。