第一章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
それまで無表情で淡々と言葉を紡いでいた鬼も、茜に続き、彼らを守るようにして現れた冨岡に顔を顰めて呟いた。
「次から次に……僕の邪魔をする屑共め!!」
その怒りを表すように、鬼の手からは全方位に鋼糸が散りばめられていく。
「血鬼術
ギュル、ギュルと歪な音を立て、不気味な血の色をした
「水の呼吸 拾壱ノ型 凪」
冨岡はポツリと呟いた。
無表情で特に構えもしない彼目掛け、鬼の容赦のない攻撃が伸びていく。
………だが
彼の元へと届く前に、鬼の放った無数の鋼糸はプツン、プツンと消えていく。
あんなにも固く、一度受け止めただけで刃こぼれを起こすような攻撃を、冨岡は無駄のない動作で斬り捨てた。
……彼の間合いに入ったその全てを、だ。
それは彼の強さを知る茜ですら、目を見張る程の剣術で、その事実に少年からも驚きの声が上がる。
「っ…… 拾壱ノ型?」
だが少年のその反応に、鬼はそれがなんだと目つきを更に鋭くし、再び攻撃を繰り出そうとした。
その瞬間……
ゴロリと鬼の首は地を転がっていた。
「っ、……」
あまりの速さに、首を斬られた鬼でさえ何が起きたのか理解できずに目を見張る。
それを呆然と見つめていた茜は、冨岡との実力の差を見せつけられ、思わず苦笑を浮かべてしまう。
「……冨岡さん、お見事です」
「茜も来ていたのか」
茜がぽつりと呟けば冨岡は彼女に声を掛けながら、その後方……今しがた首を斬り落とした鬼へと手を伸ばす隊士へと視線を向けた。
******
灰となって今にも消えようとしている鬼の背中を優しく撫でてやる隊士の姿に、冨岡はゆっくりと足を向ける。
それに続く様に、茜も隊士へと歩み寄る。
「人を喰った鬼に情けをかけるな。子供の姿をしていても関係ない……何十年、何百年生きている醜い化け物だ」
鬼が着ていた着物を踏みつける様にして、冨岡が静かにいい捨てれば、少年は彼を睨みつける。
「殺された人たちの無念を晴らすため、これ以上被害者を出さないため……勿論俺は容赦なく鬼の首に刃を振るいます」
顔を歪ませた少年は、冨岡を見上げる様にして必死に言葉を紡いでいく。
「だけど鬼であることに苦しみ、自らの行いを悔いている者を踏みつけにはしない……鬼は人間だったんだから、俺と同じ人間だったんだから……足を退けて下さい」
鬼は醜い化け物ではない。虚しい、悲しい生き物だ。
そう言って目を伏せた少年に、茜は困った様に眉を下げた。
確かに少年の言う様に、元々人だった
きっとなりたくて鬼になった訳ではないだろう。
もしかしたら、最後に人を殺めた事を悔いることもあるのかもしれない。
だけど、無惨にも奪われてしまった命を……死んでいった仲間達を思うと、鬼に対し情けをかけるなど、とんだお人好しだと思えてしまう。
〝この子は優しすぎる……鬼にまで優しさを見せていては、いつか心が悲鳴を上げる……〟
そんな不安を覚えながら茜が少年を見つめていれば、その腕の中に先程の少女の鬼が抱えられている事に気がついた。
「………その鬼」
茜は先程の光景を思い出し、ぽつりと声を漏らしたが、すぐに思考を巡らせる。
〝少年を庇ったように見えたあの攻撃……もしも本当にそうだとしても、人を襲う前に斬らなければ……今この瞬間にも少年を襲うかもしれない〟
優しい心を持つ少年には酷だと思ったが、茜は刀を強く握りしめ、少年へと口を開いた。
「君の腕の中にいるのは、立派な鬼でしょう?……人を襲う前に首を斬らないと」
「……っ、禰󠄀豆子は俺の妹なんです!!妹は人を襲わない」
「…いもうと……?」
少年が必死に庇おうとしている鬼が、彼の身内である事実に一瞬心が揺れてしまうが、それでも人を襲わないと言う判断が出来ない今、この鬼を見逃す事は出来ない。
「……ごめんね、君の言葉だけでは判断が出来ないの……」
その意味を理解した少年が、ぐっと妹を抱え込んだ時、それまで事の成り行きを見届けていた冨岡が、驚いた様に声を上げた。
「……お前、まさかあの時の……」
その声に、茜が思わず振り返れば、それと同時、
後方から鋭い殺気を感じた冨岡が
ガキュイン……
刃同士がぶつかり合う甲高い音が響いた後、
「あら?どうして邪魔するんです?冨岡さん」
いきなり斬りかかったしのぶが、可愛らしく首を傾げた。
それに応える事もせず冨岡が無言を貫けば、しのぶはニコリと微笑んだ。
「鬼とは仲良くできないって言ってたくせに、何なんでしょうか?そんなんだから、みんなに嫌われるんですよ」