第一章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
昼間、煉獄による稽古を受けていた茜は、早々に鬼の首を切り落とし、とぼとぼと帰路に着いていた。
『槙野、よければ俺の継ぐ子にならないか?』
歩みを進めながら、煉獄から言われた言葉を思い出す。
煉獄に稽古をつけて貰うのは、何も今回が初めてではない。
もう数え切れない程、彼には鍛えて貰っていたし、兄弟子への愚痴やら思いの丈を度々聞いて貰ったりもしている。
元々後輩思いの熱い志を持った彼は「いつでも鍛えてやろう!」とよく茜に笑っていたが……
その思いを知るからこそ、それ以上踏み入った話をしてこなかった彼が、まさか自身を継ぐ子にと誘ってくるなんて思っても見なかった。
答えは初めから決まっている様なものだが、彼には今まで散々世話になってきた恩もある。
……どうしたものか。
茜は一人頭を悩ませ、重苦しいため息を吐いた。
そんな時だった。
遥か後方から微かに鎹鴉の声が聞こえた。
「緊急要請ッ!!緊急要請ッ!!」
その声に茜が勢いよく振り返れば、見たこともない鴉が必死で此方へと飛んできていた。それに気づいた茜が其方へと急いで駆け出せば、鴉の慌てた声が響く。
「那谷蜘蛛山ニテ、鬼ノ被害ガ拡大!!死傷者多数ッ!!緊急要請ッ!!」
「……っ、すぐに向かう!案内して」
そう呟いた茜は、鎹鴉の後を追って全速力で駆け出すのだった。
******
それから数十分走り続け、鴉の案内の元、山の中へと足を踏み入れた茜は、数名の隊士が事切れている現場に辿り着いていた。
その中に、必死で要請を伝えた鴉の相棒もいた様で、そのすぐ横にある大木に止まって、鴉は静かに目を伏せた。
「……貴方の相棒の仇は必ず取るから」
その姿が余りにも寂しそうに見えた為、茜はそう一言呟いて、再び気配を辿って走り出した。
暫く走り続ければ、前方に木々が薙ぎ倒された様なぽっかりとした空間が目に入る。
そこから微かに聞こえた誰かの叫ぶ様な声に、茜は更にスピードを増した。
そこには此方に背を向ける様に折れた刀で鬼と対峙する隊士の姿と、その鬼の頭上に蜘蛛の糸に捕われたかの様な少女の姿をした鬼がいた。
〝縄張り争い、か?……〟
頭上でぐったりしている鬼に一瞬首を傾げるが、なんにしても2対1では不利な状況だと判断し、茜は顔を歪め、必死で彼へと足を進めた。
だが、茜が隊士の背中を確認した時には、既に鬼が攻撃を放った後で……
刀を強く構え直すが、この距離では彼を守る事は到底叶わない。
思わず茜が隊士の背中に届く筈のない手を伸ばした時、
「…………なに、……っいまの……」
彼女はその異様な光景に目を見開いた。
駆け出した隊士に、確かに鬼は攻撃を仕掛けた。
だが、確実に彼の頭に伸びた
隊士諸共、少女が放った炎に包まれた筈だったのだが、その攻撃は確実に鬼の
まるで彼を守るかのように……
〝鬼が………人を助けた?〟
自分の目の前で起きた出来事が理解できず、茜の足は歩みを止めた。
「俺と禰󠄀豆子の絆は誰にも引き裂けない!!」
だが、そんな彼女の耳に隊士の叫び声が届き、茜はハッとして動き出す。
既に対峙していた鬼は彼の攻撃により首を落とされているし、隊士は最後の一撃を放ってその場に倒れてしまっている。
「……っ君、大丈夫!?それにその鬼……」
茜が隊士に駆け寄れば、彼はまだあどけなさを残す少年で、必死に少女の鬼へと手を伸ばしていた。
「………っ禰󠄀豆子、」
禰󠄀豆子?あの鬼の名前だろうか?
茜は眉間に皺を寄せて少年を見つめていたが、
「僕に勝ったと思ったの?可哀想に哀れな妄想をして幸せだった?」
背後からかかった声に、慌てて茜は刀を構えた。
〝しまった……先程の出来事に気を取られて、状況把握が遅れた……〟
今更悔やんでも遅いのだが、茜が振り返った先には、完全に間合いを詰めた鬼がいた。
「……なんで動けるの?彼に斬られていなかった?」
「僕は自分の糸で、頸を切ったんだよ。お前に頸を斬られるより先に」
茜を無視して話し出した鬼は、ゆっくりと彼らに近づいていく。
良く見れば、その目には確かに刻まれた〝下弦の伍〟の文字。それを確認した茜は、少年を守る様に刀を構えた。
「もういい、お前も妹も殺してやる。こんなに 腹が立ったのは久しぶりだよ。不快だ、本当に不快だ。……前に同じくらい腹が立ったけど、ずっと昔だよ。憶えてないほど」
鬼は無表情で呟くと、あやとりのように鋼糸を両手で広げて見せた。
「血鬼術
「風ノ呼吸 肆ノ型
それに対抗するかの様に細かい砂を巻き上げながら、無数の斬撃を放てば、互いの技は相殺される。
〝硬いな……〟
全て完全に受け切ったと思ったが、ちらりと見た自身の刀はところどころ刃こぼれしていた。
〝これは長期戦になるとまずいな……一瞬で片をつけないと〟
そんな事を思いながら、再び鬼へと視線を移せば
「君、さっきから邪魔だな。僕は今彼に話してるんだ。………だから、死んでよ」
そう言って今度こそ茜を視界に捉えた鬼は、彼女に向かって更に細かく糸を張り巡らせた。
深く息を吸い、肺に酸素を取り込んで……
それに茜が大技を繰り出そうとした瞬間、
「俺が来るまでよく堪えた。あとは任せろ」
「………冨岡さん」
聞き覚えのある声と共に、半々羽織を身につけた頼もしい背中が目の前に降りたった。