第一章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
暗闇の中、物凄い勢いで木々の間を駆け抜ける二つの人影。
それに遅れをとりながらも必死に追いかける少年は、目の前で繰り広げられる言い合いに冷や汗を流していた。
「茜、テメェ……あんな攻撃も満足に避けられねェなら、鬼殺隊なんざ辞めちまえェ!!」
「何言ってるんですか!!私一人で充分だったのに、風柱様が勝手に突っ込んできたんでしょ!?」
「あァ"?なんだと?お前誰に向かって口聞いてんだァ?」
「……頭、大丈夫です?風柱様に決まってるじゃないですか」
テメェと低い声で唸った男に、けろっとした様子で視線を逸らした女は、辺りに散らばる鬼の気配に意識を集中させる。
〝数が多いな……くそ、本体は何処よっ!?〟
険しい表情を浮かべた女は、刀を強く握りしめた。
******
〝鬼〟
……人を食らう化け物
そんな得体の知れない存在が、人知れず人々の生活を脅かしている、この時代。
そんな化け物と日夜、命懸けの戦いを繰り広げる組織があった。それが彼女らが属する〝鬼殺隊〟なるものである。
常に命の危険と隣り合わせ。昨日まで笑いあっていた仲間が冷たくなって帰って来るなんて、よくあること……
そんな身命を賭して戦う鬼殺隊士として、今日も刀を振るうのが、
この女、槙野 茜である。
男性隊士が多いこの鬼殺隊に置いて、柱に継ぐ実力の持ち主として、彼女に憧れる隊士も少なくない。
普段は温厚な性格で、ニコニコとしていることが多い彼女だが、唯一そんな茜が自ら突っかかりにいくのが
「チッ……キリがねェなァ」
隣で恐ろしい目つきで辺りを伺うこの男、不死川実弥である。
実弥は鬼殺隊を支える柱の一人で、茜の上官に価する。そして隊士たちに一番恐れられている程、自分にも他人にも厳しい男なのである。
そんな実弥に怒鳴りつけられても、全く怖気付くこともせず、寧ろ口喧嘩を始めてしまうものだから、合同で任務に当たった者はいつも驚きを隠せない。
今日だってそんな二人の様子を目にした仲間の少年は、終始苦笑いを浮かべている。
そんな中、鬼の気配にいち早く気づいた茜が慌てて少年隊士の元へと駆け出した瞬間。
暗闇から鬼が突然飛び出し、少年に向かって鋭い爪を振り下ろした。
「ぐぁっ、……っ!」
刀を構える余裕すらなく、右腕を斬りつけられた少年を、今度こそ仕留めようと、再び鬼が腕を振り上げれば
「風の呼吸 参ノ型
凛とした声が響き、茜の放った無数の刃が鬼の首を下から上へと斬りつけた。ごろん、と転がった首は一瞬で消え去り〝これも偽物か〟と茜は眉間に皺を寄せる。
辺りにはまだ無数の気配がちらばっているが、きっと全て偽物で。本体は安全な場所で、自分の分身に指示を出しているのだろう……
そう考えを巡らせながら、茜はゆっくりと振り返る。
腕を押さえ、顔を歪めた少年に近づき、その場に膝をついた茜の背後から苛立った様な声がかかる。
「あんな攻撃も受け切れねェとは……最近の隊士はどうなってやがるっ!」
「す、すみません……」
「チッ……茜、手当てしてやれェ。俺は本体を探しに行く」
それに「はいはい」と軽く返事をした茜に、実弥は眉間に皺を寄せた。
「茜、怪我でもしてみろォ……今度こそ鬼殺隊を追い出すからなァァ」
「……そう思うなら、ちゃっちゃっと本体の首を斬り落として来てください。こっちは今忙しんですから」
そう言って、少年隊士の傷の具合を見始めた茜を確認し、実弥は今度こそ木々の奥へと消えていった。
それを振り返る事なく、気配で感じ取った茜は小さくため息を漏らし、再び少年に向き直る。
「とりあえずすぐに、傷の手当てをしましょう。鬼の気配があちこちにあるから、その後は私から離れないように」
そう言って優しく笑いかける茜の姿に、少年はキョトンとした表情を浮かべる。
さっきまで、あの風柱相手に口答えしていた様子から、足手纏いになったこの状況を罵倒されると思ったのに……当の本人は、眉を下げながら「助太刀、間に合わなくてごめんなさい」と謝罪を口にし、テキパキと処置を行なっている。
その余りの変わりように、聞かない方がいいのではと思いつつも、知らぬ間に少年は問いかけていた。
「あ、あの……風柱様とは、いつもああなのですか?」
それに目をパチクリとした茜は、苦笑いを浮かべて口を開く。
「驚かせてしまったわね?……ごめんなさい」
「い、いえ。あの、はい……」
素直に驚いたと返事をした少年に、クスクスと可愛らしい笑みを漏らした茜は、再び少年へと口を開く。
「あの人、私の兄弟子なの!本当は……とっても優しくて、不器用な人なのよ」
そう言ってふわりと笑った茜は、何処か誇らしげで……
先程まで口喧嘩をしていたのが嘘のようだと、
少年は彼女を見つめるのだった。
1/27ページ