短編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
任務を無事にこなし、師範が待つであろう屋敷へと帰宅途中ー……
名前は、遠くで月の光に反射する煌びやかな光に、首を傾げた。
それは段々と此方へと近づいてきて、はっきりとその姿を確認できた頃には、その装飾は重たくはないのかと思わず呆れたように見上げてしまった。
『苗字 名前!苗字 名前!』
「あーーはい、はい。名前は私ですけど、何かご用ですか?」
ド派手な装飾をつけた鎹鴉に心覚はないのだが……何故だかあの派手好きな上官が頭をよぎり、名前は怪訝そうな表情を浮かべた。
『音柱様ガ呼ンデルーッ!!緊急招集!緊急招集!』
「……音柱様からの…緊急招集?」
その言葉に思わず眉を顰めた名前は、むむっとその場で考え込む。
音柱……といえば、つい先日、師範について行った柱合会議で、初めて顔を合わしたあの派手な大男だろう。
あの時は、少し言葉を交わしただけ。地味だなんだと馬鹿にされた筈なのに、まさか名指しで招集がかかるなど、一体どういう風の吹き回しだ……
考えれば考えるほど謎は増すばかりだが、上官からの命令、しかも緊急ときたものだから、
『……音柱様のところまで案内して貰える?』
名前は結局、大人しくその指令に従うのだった。
******
え、ここ?……本当にあってる?
名前は一件の居酒屋の前で足を止め、不安そうに鴉を見上げた。
しかし、鴉は早くしろとでも言うかのように、此方をじっと見つめて、店に向かって首をくいっと動かした。
それには名前も、諦めたようにため息を落とし、ゆっくりと扉に手をかけた。
「いらっしゃい……あー、あのにいちゃん達の連れかい?ほら、奥の座敷にいるよ」
「……ど、どうも」
店に足を踏み入れれば、恐らく同じような隊服姿にピンときたのだろう。店主の男性に案内されるまま、店の奥へと歩みを進めた名前は、ひょこっと座敷を覗き込む。
「おおっ、来たかー!!遅かったなー!!」
そう言って、酒をぐびっと呑み干した音柱に、思わず名前は頬を引き攣らせた。
しかし次の瞬間には、その向かいで机に突っ伏している特徴的な髪色に、驚きのあまり大声で問いかける。
「し、師範!?…え、ぇえ!!?音柱様、これは一体……どういう状況ですか?」
「うるせーな、騒ぐんじゃねーよ。まぁ、あれだ!見ての通り、煉獄が酔い潰れて困っているとこだな!!」
「……えぇーー………」
普段見たことない師範の姿に慌てれば、それを目にした音柱は、至極楽しそうに笑い声を上げ、ことの成り行きを話し始めた。
彼が言うには、師範から悩みがあるから相談に乗ってくれとの誘いを受けて、二人で居酒屋に来たのが、日を跨いで直ぐの事。
それからずっと二人で呑み続け、先に師範が酔い潰れた……というものだった。
「え、っとー……担当地区の警備は「終わらせたに決まってんだろうが!!」ですよねー…ははは」
……忙しい筈の柱二人が、こんな所で何をしているのか?そんな考えが頭をよぎり、思わず呆れたような視線を送る。
しかし、ふと……自分はなぜ呼ばれたのかという疑問が浮かび、音柱へと問いかけた。
「あ?煉獄が苗字に会いたいっつーから呼んだ」
「………成る程」
当然のように言いのけた音柱に、名前は何とか頷いた。
師範には悪いが……普通、酔っ払いの言葉を鵜呑みにはしないだろう。この人も酔いが回って……いなさそうだ。ぐびぐび酒を呑んではいるが、先日彼から受けた印象と全く変わらない。
それに人知れずため息を吐き、チラリと師範を伺えば、ほんのりと赤い顔でぐっすりと眠りについていた。その普段からは、想像もつかないような弱りきった師範の姿に、名前は思わず眉を下げた。
酔っていたとは言え、自分に会いたいと言ってくれていたとは……師範に想いを寄せている身としては、素直に嬉しい所ではあるが、同時に、師範をここまで追い込んだ悩みとやらが気になってしまう。
しかし、どんなに訪ねても音柱は「本人から聞け」としか言わないし、果たして自分に話してくれるのだろうか……
そんな事を名前が必死で考えていれば、酒をあおるのを止めた音柱が身を乗り出し、あろうことか師範の頬をペチペチと叩き始めた。
「おい煉獄っ、待ち焦がれた苗字が来たぞー?」
「ちょっ、音柱様……」
その痛そうな音に、名前が慌てて止めに入れば
「… 名前?」
「……師範、大丈夫ですか?って、…ぎゃぁー!!」
むくりと起きた師範から名前を呼ばれ、そのまま体を抱き寄せられる。あまりに突然の事で、驚きのあまり、色気も何もない叫び声が自然と上がる。
それに、音柱がゲラゲラと腹を抱えて笑っているが、今は全くそれどころではない。
「師範!師範!!起きてください!!……音柱様、助けて下さいっ!!」
必死な私の叫びを他所に、師範はぎゅーと抱きついたまま、どんどん体重をかけてくる。元々、体格差もあるものだから、遂には重みに耐えきれず、押し倒されるようにして、二人で床へと倒れ込む。
「し、師範〜……」
半泣きになりながら声をかければ、へにゃりと笑いかけてきた師範に、心臓が大きく脈打った。
〝‥‥死ぬ。このままでは、確実に心臓が爆発してしまう〟
パニック寸前の頭でそんな事を考えていれば、無意識に口から出ていたのだろう。
「心臓が爆発?いいねー、響き派手でっ!!」と楽しそうに笑った音柱が、最も簡単に師範を引き離してくれた。
ゼー…、ハー……、
荒い息を吐きながら、音柱へとお礼を言えば、ニカッと笑みを浮かべた彼に、ポンと肩を叩かれる。
「んじゃ、まー俺は帰るわ!嫁達も待ってるだろうしな!!」
「えっ!?帰るんですか!!?」
「悪りぃーな苗字!後は頼んだ!!会計は済ましておくからよー!!」
「えー……待っ、て」
名前の静止も虚しく、風のように座敷を飛び出して行った音柱に、名前は呆然と座り込む。
しかし、すぐに我に帰り、疲れ切った頭で振り返れば、再び眠りにつこうとしている師範の姿に、名前は慌てて駆け寄った。
「師範、家に帰りましょう?」
「む……」
「師範〜……」
しかし、酔っ払いの師範はそのままフヨフヨと夢の中……名前は思わず泣きそうになった。
******
あの後、なんとか師範を揺すり起こし、店を出ることに成功した名前は、
〝……こんな為に、全集中の呼吸を極めているわけじゃないのにっ、……音柱様、許すまじ……〟
脳内でブツブツと恨み言を唱えながら、必死で家を目指していた。
肩を貸すように……半ば引きずるような形で、師範をなんとか連れ出して、名前が炎柱邸へと辿り着いた頃には、すっかり朝日も登っていて。
「あーー……疲れた……、」
どっと疲労感が増した体に鞭打って、師範を部屋へと運び入れる。
入り口の壁にもたれ掛かるように座らせて、その間に急いで布団を床に敷く。皺になってはまずいから、留め具を外した炎柱の象徴の羽織は、衣桁にそっと掛けておき、再び師範を揺すり起こす。
「師範、お布団まで行きましょう。立てますか?」
「むう、……名前?」
「ふふっ、はい。名前はここにおりますよ」
寝ぼけ目のまま見上げられ、思わず小さく笑みを溢す。
そのまま伸ばされた腕を掴もうとすれば、逆にその手に引っ張り込まれた。
「わぁっ、師範…「名前、好きだ!!」
「へっ!?」
突然の抱擁に、突然の告白。
それに思わず動きを止めれば、チュッと軽い響きと共に、唇に感じた柔らかい感触。
〝………師範に口付けられた〟
そう気がついた時には、ボンッと一気に全身が赤く染まり、師範にケタケタと笑いかけられる。
「ククッ……あぁ、愛いなぁ……」
「ちょ、師範……待って、」
そのまま、後ろへと押し倒されて、名前が慌てて声を上げれば、
すー…すー……
再び耳元に聞こえ始めた寝息に、名前は全身の力が抜けたように、はぁー……と大きく息を吐く。
そうだ、師範は寝惚けていたんだ。
そもそも酔っ払いなんだった。
……先程の出来事は当分忘れられそうもないが、とりあえず、師範を布団で寝かせる事が先決だ。
そうやって、何とか自分に言い聞かせ、体を捩る名前だったが、下から這い出た瞬間に、今度は横抱きで抱え込まれて、小さく悲鳴をあげてしまう。
それどころか、後ろから回された師範の腕は、本当に寝ているのか疑うほどに、びくともしない。
〝ああ……この流れ、既視感あるなぁ……〟
そんな事を思いながら、今度こそ名前は頭を抱えてしまうのだった。
******
それから数時間ー……
「すまない名前、この通りだ!!」
「い、いえ。……あの…顔を上げて下さい」
酔いとは別の意味で、真っ赤な顔をした師範に謝り倒された名前は、困ったように眉を下げていた。
結局あの後、何をしても抜け出せない状況に、名前も遂に抵抗を辞めた。
思えば任務明けで、この重労働……
体力も当に限界を迎えていた。
それ加えて、師範の体から伝わる温もりに、布団にすら辿り着けぬまま、結局名前もそのまま寝こけてしまった訳である。
「……酒に呑まれるなど不甲斐ない!!穴があったら入りたい」
師範は師範で、昨日の記憶があるらしく、起きてからというもの、弟子である私に向かって、何度も謝り倒しているのだ。
「い、いえ…師範、もう気にしないでください」
「だが安心してくれ!」
「……へ?」
そう言って顔を上げた師範の瞳が、名前の瞳を捉えた瞬間、ガシッと両手を包み込まれる。
「責任は取る!!俺の妻になってくれ!!」
そう高らかに言い放つ師範に、名前は真っ赤な顔で固まった。
…‥のちに、「煉獄と苗字の仲をド派手に取り持ってやったのは俺だ!」と言い回る音柱の姿が、あったとか、なかったとかー……