宇髄によって甘味処に置き去りにされた名前はというとー……


「あの、煉獄さん。……こんな事で呼び出してしまって、すみませんでした」


普段と打って変わった様子の煉獄に、慌てて頭を下げていた。

それに真顔で考え込むように腕を組んだ煉獄は、暫くすると小さな声で呟いた。


「………先日顔を合わせたと言うのに、俺には何も相談しないのだな」

「え？いえ、あの……相談と言う程のものでは……」

「だが、宇髄には相談したのだろう？」

「うっ、……相談したと言うか、気づかれたと言うか……」


眉を下げ困った表情を浮かべた名前に、煉獄はスッと目を細めた。　


「ほう。……ではその話、俺にも聞かせてくれないか？」


そう言って、名前の手を掴んだ煉獄は、ぐいっとその手を手繰り寄せた。


「わっ、……煉獄さん？」


それに名前が驚く暇も無く、流れるように会計を済ませた彼は、まだ来たばかりだと言うのに名前の手を引き、甘味処を後にした。



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無言で歩く煉獄に手を引かれ、名前は後ろをただただ黙って着いていく。

だが、大好きな彼に手を握られているというのに、名前の頭に過るのは、彼を怒らせてしまったのではないかという不安ばかりである。




やはり今日のところはきちんと謝罪をしよう。忙しい彼の時間を、こんな自分のために無駄にしてしまっては申し訳ない……

そう結論付けた名前が遠慮がちに口を開けば
、彼はピタリと歩みを止めた。

当然、その後ろを歩いていた名前もそれに従い、ゆっくりと歩みを止めたのだが……



彼が振り返ったと思った次の瞬間には、さっと路地裏に連れ込まれ、背中を壁に押し付けられた。


「ぐぅ……っ、」


突然背中を打ち付けた事で痛みに声を漏らした名前は、恐る恐る彼を見上げて息を呑んだ。

至近距離で見つめ合うその瞳は、まるで獲物を捕らえたかのように怪しく細められていて、視線を逸らそうと目を泳がせれば、逃げることは許さないとでもいうように顔の両脇に置かれた彼の腕が目に入る。

あまりの事態に、声すら出せずに固まる名前に、彼は静かに口を開いた。


「………俺は駄目で、宇髄なら良いのか。はは……本当に君たちは仲が良いのだな」

「え？……い、いえ！！そんな仲が良いだなんて……宇髄さんにはただ揶揄われているだけでっ、」

「それでも仲が良い事には変わりないだろう……君は気づいていないだろうが……頬を染めて、宇髄を見上げる君を見るたび、俺がどんな気持ちでいるかなんて知らないだろう」

「……ど、どんな気持ち？」


戸惑いながらゆっくりと彼を見上げた名前に、煉獄は更に距離を詰めて耳元でそっと囁いた。


「……いっそのこと君を奪って、誰の目にも触れないように、隠してしまいたい」


そう言って耳朶をぱくりと口にした煉獄に、名前はびくっと肩を震わせた。



何故彼がこんな事をしているのかーー…

彼が口にした言葉の意味は何なのかーー…


クチュりと耳を犯していく音に耐えながら、必死に考えを巡らせていれば、


「んっ……煉獄さんも……好き、なのっ？」


とんでもない馬鹿げた答えが、知らず知らずのうちに口からこぼれ落ちていた。


まさか、そんな訳はないだろう。頭の中で何度も自分の考えを否定するが、では何故彼がこんな事をするのかが説明できない。

それにこんな形で自分の想いを告げるなんて……いや、正確には告げたわけではないが、煉獄さんもと口にしてしまった時点で、確実にバレてしまっただろう想いに、名前は恐る恐る彼の反応を伺った。

しかし、それにビタっと動きを止めた彼が、ゆっくりと顔を上げ

「よもや……君に想いを伝えたつもりでいたのだが」

と困ったように眉を下げた事により、名前は驚きで目を見開いた。


「………へ？」


まるで自分の事を想っていてくれたような口ぶりに、思わず彼を凝視していれば、珍しく頬を染めた彼がぽりぽりと頬を掻きながら、小さな声で呟いた。


「名前も好いてくれていたのだろう？」

「え、ぇえっ！！何で知って……」


そこまで口を開いた名前は、今更ながら恥ずかしそうに頬を赤く染めたのだが、脳裏にあの男の言葉が蘇る。


〝煉獄も男だからな、こうなったら色仕掛けだ……いざとなりゃ、無理矢理唇を奪ってやれ〟


普段ならそんな大胆な行動はしないに、この状況に浮かれてしまっていたのだろう。

気づけば、衝動的に彼の唇に自分のそれを重ねていた……触れるだけの子供じみた接吻だが、驚き固まる彼に、今更ながら恥ずかしさが増していく。

「……えっと、煉獄さん。お慕いしていま……っ、」


頬を染めながら名前が口にした告白の台詞は、再び塞がれた彼からの熱い口づけによって飲み込まれた。



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ミユキ様、キリ番リクエストありがとうございます。

設定：柱の夢主。夢主と仲が良い音柱へ嫉妬する両片想いの煉獄さん。※勢いで裏になるようなお話。
宜しくお願いします！

楽しくなってしまい、お話しが長くなってしまいました。次話、裏夢を書き上げる予定ですが、プライベートが忙しく時間を少しいただいてしまいそうなので、とりあえず書き上げた2話だけアップさせていただきます。数日中には完結させる予定ですので、続きはもう少々お待ちくださいませ。

　　　　　　　　　　　　2021/11/5 おもち