短編
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遠目に師範と女性隊士のやり取りを眺める私は、きっと可愛くない顔をしている。
「煉獄さ〜ん!さっきの技、見てくれました?」
「ああ、先程の起点はなかなか良い判断だった!」
「えへへ、ありがとうございます。煉獄さんに褒めて貰いたくて、私頑張ったんですよ?」
任務が終わるや否や、事後処理もそこそこに師範を見つけて駆け寄ってきた女性隊士。
以前から度々任務で顔を合わせていたが、彼女が師範に好意を持っているのは側から見ていても明らかで。
顔よし、スタイルよし。
おまけに素直で明るい彼女は、女の私から見てもとても可愛らしいと思う。
師範に向ける熱量を、もう少し任務にも向けてくれれば隊士としても申し分ないだろう。
〝あの子は凄いなぁ……褒めてもらいたくて頑張っただなんて、私は本人に直接言う勇気だってないのに〟
にこにこと楽しそうに会話を交わす二人の声に、胸の奥がぎゅっと締め付けられる。
「やっぱり煉獄さんとの任務はやりやすいです!はぁ……もっと任務で御一緒できたらいいのに……」
「やりやすいかどうかは別として、俺がいない任務でも手は抜かないようにしてくれ!!鬼の被害が無くなれば、それだけ悲しい思いをする人も居なくなる」
「む〜……分かってますよ〜」
だけどきっと、あの子に夢中になっている師範が私のこの恋心に気づく事はないのだろう。
煉獄さんに憧れて弟子にして貰ってから半年。
初めは彼の様な隊士になりたくて無我夢中で稽古に食らいついていた筈が……
時折見せる優しい笑顔や彼の言葉達に支えられ、何時しか憧れ以外の感情が芽生えるようになった。
だから、こうして他の女性と仲睦まじく会話をする師範の姿は、出来ることなら見たくはないが……
そもそも継ぐ子にして傍に置いて貰えているだけで感謝しなければならないのだ。
この恋を実らせようだなんて考える事自体が馬鹿げている。
だからこそ、せめて自慢の継ぐ子だと思って貰えるように頑張らないと。
そう自分に言い聞かせ、怪我人の手当てに没頭する。
******
「……あの、すみません。苗字様」
「ん?ああ、お疲れ様です。隠の方ですね?任務の報告でしょうか?」
「そうなんです!良かった、誰から報告を受ければいいか分からなかったもので」
一通り応急処置をし終えた所で、応援に駆け付けた隠の男性に肩を叩かれ振り返る。
すると困ったように眉を下げた彼が見つめる先が、師範とあの隊士であることに気づき、私も思わず苦笑いを浮かべてしまう。
しかし、すぐ気を取り直して報告をし始めた所で……
「鬼は既に師範が頸を斬り落としていますので安心して「何をしている!!」
突然響いた師範の声に、隠の彼と二人でびくりと肩を跳ねさせる。
何と言われても…、ただ報告をしているだけで怒られる様なことは何もしていない筈。
「あ、あの炎柱様……」
「師範、どうされたんですか?」
ズカズカとこちらに近づいて来る師範の様子に慌てて言葉を投げかけるも、師範は無言で歩みを進めるのみ。
そうして目の前まで来た師範は、私たちを見下ろすとカッとその大きな瞳を見開いた。
それには何を叱られるのかと思わず身構えてしまったわけだが、私の耳に届いたのは予想もしていない言葉だった。
「この子にあまり触らないでくれ!!名前、すぐに離れなさい」
「「………え?」」
それは隠の彼も同じようで。
驚きで固まる私たちを他所に、師範はさらに言葉を続けた。
「二人の距離が近すぎるように思うが、君たちは知り合いか何かか?」
「いや、……」
「では名前からでなくても…他の隊士からの報告で構わないな?」
「え、…ああ、……はい………報告の引き継ぎさえ出来れば……誰でも……」
師範に睨まれオロオロと返事をする隠を首を傾げながら見つめていれば、急に師範に手を握られ、驚く間もなく引っ張られる。
そうして隠に背を向けるようにして歩き出した所で、師範は思い出したように振り返る。
「任務の報告はそこにいる女性隊士から聞くといい」
「ぇえ!!煉獄さん!?」
振り向きざまに先程まで話をしていた女性隊士を指さした師範に、指をさされた本人も思わず反論の声を上げるが……
「後は頼んだぞ!」
それをものともせず、にこりと口元を吊り上げた師範は戸惑いの声を上げる隊士をそのままに、ズンズンと山道を降り始める。
******
足早に帰路に着く師範は、何処かやっぱりおかしくて。
未だに握られたままの左手も、心臓が耐えられる自信がない為、恐る恐る声をかける。
「し、師範……あの……どうされたんですか?」
すると師範はピタリと歩みを止めたが、やっぱりこちらを振り返る事はなくて。
本当に何をしてしまったのかと本格的に悩み始める。
だが言葉にして貰えないことには何が原因かも分からない為、とりあえず思いつく限りで今回の任務の反省点を上げていく。
「私、いつも師範の足を引っ張ってばかりで…」
「……いや、名前は何も悪くない」
「で、でも…私がもっと上手く立ち回れれば、怪我人を出さずに済んだかもしれません。それに、任務の報告も隠に声をかけられる前に気づくべきでした」
「すまん。違うんだ……」
だが謝罪を口にする前に、何故だか師範に謝られる。
戸惑いながら師範を見上げれば、やっぱり此方には振り向いてくれなくて。
何が何だか本当に分からなくて、ただただ師範を見つめ続ける。
するとその視線に気づいたのか、大きくため息を吐いた師範はポツリと随分小さな声で話し始めた。
「名前はちゃんと任務をこなしている。それにあの場面…君が攻撃を防いでいなければ、今頃あの村人は死んでいたかもしれない。もっと名前は自分に自信を持っていい」
「え?……では、どうして」
師範の言動がますます分からなくて思わず戸惑いの声を漏らせば、師範は更に声を小さくして何やらごにょごにょと呟いた。
「……いる………を…………かった」
「へ?すみません師範。ちょっと聞き取れなくて」
すると、何故か口元を押えた師範は、いや……あれはだな……と何やら言葉を紡いだ後、観念したように続きを話し出した。
「…… 名前が他の男と話しているを見ていられなかった」
「………へ?私が?」
「すまない。 名前は真剣に任務をこなしていたというのに……あの隠に嫉妬するなんて、俺がどうかしていた」
そう言って再び私の手を引き歩き出した師範は、やっぱり此方を見てくれない。
だけど後ろからでも見えてしまった師範の耳は、何だか真っ赤に染まっていて。
師範の言葉を理解した私も、恐らく真っ赤になっていることだろう。
「「………」」
帰路に着く間、私たちの間には会話は一切なかったが……
繋いだその手は、山道を降りた後でも決して離されることはなかった。