短編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
大正時代ー……
後世にも多くは語られて来なかったが、人を喰らう鬼との間で、それはそれは大きな戦いがあったという。
その戦いでは多くの者が命を落とし、生きながらえた者たちも、その根源を討ち取ることと引き換えに大きな代償を支払った。
視力を失った者や、体に痺れを残した者。思い通りに動けなくなった者まで、その代償は様々で。
「実弥さん、よくぞご無事で……っ」
「名前、すまねェ……俺はァ……お前と一緒になる事は出来ねェ」
「え?………そんな、どうして?鬼舞辻を倒したら、一緒になろうって言ってくれたのに…もし、…もしも、私に何か至らぬところがあるなら……」
「名前は何も悪くねェ!!全部俺のせいだァ……俺に全て責任がある」
その中には最愛の人を悲しませぬようにと、彼の様に大切な人に別れを切り出した者もいた。
「俺はもう長くは生きられない、もってあと数年らしい…… 名前に悲しい思いをさせるのが目に見えている。俺じゃァ、名前を幸せにしてやれない」
命懸けの戦いだった。
命を削ることさえ覚悟の上で、人々が……最愛の人が鬼によって悲しい思いもせぬように、彼は必死で戦った。戦い抜いた。
だから、結果として短命になった事を彼は少しも後悔していない。
ただー……
「ねえ、実弥さん。私はもう充分過ぎるほど幸せなんですよ?貴方がまたこうして私の元へ帰って来てくれた。それだけでどんなに幸せか」
「……名前」
本当は一つだけ、彼には心残りがあった。
「もし本当に私の幸せを思ってくれるなら……私を今も好いて下さるなら、最期まで実弥さんのお側に居させてく下さい。それだけで私はこんなにも幸せなんですから」
そこにある筈の指が無くなっても、気味悪がりもせず優しく包み込んでくれる暖かい手。
顔をあげれば全てを受け入れて嬉しそうに笑う恋人の姿に胸が締め付けられる。
「戦いは終わったんです。誰かの為に自分の幸せを諦めなくていいんですよ?」
「っ、……」
「大丈夫、一緒に戦った隊士の方たちも……きっと残された方々の幸せを願っています。実弥さんは、幸せになってもいいんですよ?」
陽だまりのような優しさで、いつも心に寄り添ってくれる恋人を……
一等幸せにしてやりたいと思っていた最愛の人を、一人残して死にゆくのが彼には大きな心残りだった。
******
******
そして時は流れ、現代ー……
「なぁ、良いだろ?ちょっとお茶するだけだから!」
「えっ、と……私急いでいるので……」
「え〜?俺たちと遊んでくれるんじゃないの〜?淋しくて泣いちゃうぜ〜?」
ゲラゲラと笑う二人組の男に囲まれて、名前は困り果てていた。
先日ホームルームで、不審者の目撃情報が出ている為夜道は特に気をつけるようにと担任からも言われていた筈なのに。
塾の帰りに近道をしようだなんて、人通りのない道を選んだ数分前の自分を恨めしく思う。
しかし、そんな事を悔やんだところで事態が変わる訳でもないと、名前は必死で口を開くが……
「私、まだ高校生ですし……その、親が厳しくてっ、……もう門限の時間なので…」
「大丈夫、大丈夫!門限なんて破ってなんぼだから!!なんなら、親に一緒に謝ってやろうか?」
「そうそう!!お兄さん達が楽しい大人の遊びを教えてやるからさっ!このまま帰るなんてつまんない事言わないでよ!ねえ?」
ニヤニヤと笑いながら男に肩を抱き寄せられ、名前はびくりと肩を揺らす。
「くくっ、可愛い〜!!そんなに期待されるとお兄さん困っちゃうな〜!!優しく出来るかな〜?」
「ぶはっ!おい、やめろって!!腹痛い!!」
そんな彼女にはお構いなしで、男達はゲラゲラと下品な笑い声を上げ続ける。
頭では男を突き飛ばして逃げなければと思うのに、体が恐怖で動かない。
その絶望的な状況に、名前の目には無意識に涙が溜まっていく。
そんな時ー……
「オイ、うちの生徒に何してる」
「「……はァ?」」
突然背後からかかった声に、男達は面倒臭そうに振り返る。
「チッ、何してるかって聞いてんだよォ」
「何って……見れば分かんだろ?この子と楽しく遊んでんだよ、部外者はどっか行けよ」
聞き覚えのある声に名前がゆっくりと顔を上げれば、そこには眉間に皺を寄せる担任の実弥が立っていて。
それを確認したと同時に、堪えきれなくなった滴が名前の頬を伝っていく。
「何処が楽しくだァ、怯えてんじゃ……」
その瞬間、不自然に止まった実弥に男達は首を傾げた。
「テメェ……今すぐその汚い手を離せェ……」
「あ?なんだって?」
「名前に汚い手で触ってんじゃねェ……」
ドスの効いた声が響き、その場の空気が凍りつく。
あまりの迫力に男が反応すら出来ずにいれば、実弥はズカズカと男に近づき、名前に触れていたその手を手加減なしで捻りあげた。
「オイ、聞こえねェのかァ!!」
「……ギャーっ!!痛タタタッ!!分かった、分かったから!!」
先程まで悪ノリしていた男も堪らず悲鳴を上げるが、それに構わず実弥は睨みをきかせて口を開く。
「今度こいつに近づいてみろォ……テメェら、ただじゃおかねェからなァァ……」
「「ひっ、…すんませんでした」」
顔を青ざめた男達の様子に漸く男の手を解放した実弥は、走り去る男達には目もくれず名前の顔を覗き込む。
「大丈夫かァ?」
「……あ、…はい。ありがとうございます」
だが、目尻には涙が残っているものの、ポカンとした表情でこちらを見つめる名前に、実弥は小言を口にする。
「馬鹿野郎ォ……こんな暗い道歩きやがって。夜道は気をつけろっつたばかりだろうがァ」
「………すみません」
すると今度はバツが悪そうに視線を泳がせ初めた名前に、漸く安堵の息を吐いた実弥は、彼女の頭にぽんと手を置き目尻を下げた。
「たまたま俺が来たから良かったがァ、お前に何かあったらと思うと……心臓に悪ィだろうがァ」
「……ぁ、…」
「たくっ、…あんまり心配かけんじゃねェ」
優しい手つきに名前が思わず頬を染めると、最後にぽんと頭を撫でて彼の手は離れていった。
「おら、行くぞォ」
「………え?」
「ア?家は確かこっちだっただろォ?」
そう言ってくるりと背を向け歩き出した実弥の背中を、名前は慌てて追いかけた。
******
二人で並んで歩く間、実弥は先程の光景を思い出し人知れずため息を漏らした。
たまたま帰宅途中でうちの制服を着た生徒が、男達に絡まれているのを目撃して。
勿論助けるつもりで声を掛けたが、その生徒が名前だと分かった瞬間、頭に血が昇った。
教師が手をあげるのは良くないと頭では分かってはいたが、気づけば行動に移していたし……
それに加えて普段は決して名前でなど呼ばないのに、咄嗟にあの頃のように名を叫んでしまった。
「不死川先生はいつもこんなに帰りが遅いんですか?」
「……ん?まぁ、そうだなァ」
「そうなんですね。先生って大変なんですね」
まぁ、当の本人はそんな事にも気づいてないのかもしれないが。
呑気に笑う名前の横顔を眺めていれば、昔の二人に戻ったようで、無意識に口角も吊り上がる。
恐らく名前には前世の記憶はないのだろうが、実弥はしっかりと覚えている。
鬼殺隊として日夜鬼と戦っていた頃、たまたま任務の合間に立ち寄った藤の家で彼女に出会った。
その家で生まれ育った名前は身なりもよく美しい顔をした少女で鬼なんてものとは無縁の生活を送っているのだと思った。
だが、その数日後ー……
町で見かけた彼女は、大きな花束を手に何故か隠と並んで歩いていて。
その異様な光景に思わず二人を呼び止めると、昨晩、あの藤の家を頻繁に利用していた隊士が任務で命を落としたのだと名前は悲しそうに目を伏せた。
「彼女、私と同じ年だったんです。本当は普通の女の子に憧れていたと打ち明けてくれて……身内がいないと仰っていたので、せめて最期は綺麗なお花で送ってあげたくて……」
彼女がその隊士とどれほどの仲だったのかは知らないが、他の者の為に心を痛める彼女の優しさに胸が熱くなったのを覚えている。
それからだ。
任務の時は、時折藤の家へ顔を出すようになったし、時間がある時は甘味処へ一緒に出かける事もあった。
気づけば名前の優しさに支えられ、彼女の傍で生きていきたいと思うようになった。
それは彼女も同じだったようで、戦いが終わった後、二人は夫婦になったのだ。
いつも傍で笑いかけ沢山の幸せをくれた最愛の人。
だからこそ再び巡り会えた時は柄にもなく泣きそうになったし、再び想いが通じ合えるなら今度こそ自分が守っていくと思ったりもしているのだが。
しかし彼女に記憶がない以上、この想いは自分だけの一方的なものでしかない。
前世で二人が夫婦だった事を知るもの達は、遠慮することなんてないと度々口を挟んでくるが、今世では彼女の思うままに……幸せになって欲しいと思っているのだから、先程の怒りに身を任せた自分の行動はそれとは矛盾しているのだろう。
〝チッ、……こうも余裕がないんじゃァ、格好もつかねェな〟
そんな事を思いながら歩みを進めていた実弥だが、自宅が見えてきた所で名前がふと足を止めた為、どうかしたのかと振り返る。
「さっきは助けてくれてありがとうございました」
「あ?ああ、まァ……生徒を守るのが俺らの役目だしなァ」
「ふふっ、本当にヒーローみたいで格好良かったです!それじゃあ、先生また明日〜!!」
そう言って、自宅へと走り去る名前の姿に実弥は驚き目を見開く。
『ふふっ、実弥さんは私のヒーローですから。いつも守ってくれて、ありがとうございます』
昔の名前と重なって見えたその笑顔に、実弥は思わず俯いて。
赤くなった頬を誤魔化すように、頭をガシガシと掻きむしった。
******
「ただいま〜」
家に着くなり靴も揃えずバタバタと階段を駆け上がる。
下からは手を洗いなさい、と母の小言が聞こえるが今の名前にはそんな余裕はない。
自室に飛び込み、そのままベッドへと顔を埋めると名前は小さく呻き声を上げた。
「……う〜、…どうしよう」
そのまま暫くゴロゴロと布団の上を転がって、名前は思い出したように頭へと手を伸ばした。
絶体絶命の危機に駆けつけてくれたその姿も、
初めて呼んでくれた私の名前も、
頭を撫でてくれた手も、
へにゃりと笑った優しい笑顔も……
頭にこびりついて離れない。
そりゃあ、あんなに格好いい姿を見せつけられれば恋にも落ちるというもので。
「……先生の手、大きくて優しかったな」
そう一言呟いてぽっと頬を染めた名前は、再びベッドに顔を埋めると小さな声で呟いた。
「明日から、先生を直視出来ないかも」
時は流れ、出会い方はあの頃とは違えども……
「……チッ、あんなの反則じゃねェかァァ」
「もう!あんなの反則だよぉ〜」
二人はきっと惹かれ合う運命なのかもしれない。
******
匿名様、リクエストありがとうございました。
そしてそして、大っ変、お待たせしてしまい申し訳ありませんでしたm(_ _)m
お話はリクエストに添えてますでしょうか?
優しいが故に自分の幸せを我慢してしまう実弥さんと、そんな彼に惹かれていく夢主ちゃん。
両片思いのお話を目ざして書かさせていただきました。
もし変更して欲しい箇所などございましたら、またお教え下さい。
楽しんで頂けたら幸いです( ˶˙ᵕ˙˶ )おもち
『リクエスト内容』
時間軸はきめつ学園設定。
きめつ学園の生徒の夢主ちゃんが、塾の帰りに半グレ集団に襲われそうになり、実弥先生が蹴散らして助けるお話。
前世二人は夫婦(藤の家の子と風柱の組み合わせ)で実弥さんは今でも夢主ちゃんが好き(夢主ちゃんに記憶はない)