短編
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合同任務が終わり、数名の隊士が隠に事後報告をこなす中、こちらに背を向け帰路に着く上官を見つけ走り寄る。
「風柱様お疲れ様でした!目にも止まらぬ身のこなし、鬼の頸を一刀両断したあの太刀筋、本当に凄かったです!流石です!尊敬しています!」
思いの外大きな声が出てしまったようで、その場に居合わせた隊士達からは突き刺さるような視線を感じる。
しかし、今の私にはそれらを気にする余裕はない。
ビシッと背筋を正し風柱様へと頭を下げると、もう何回目か分からないお願いを口にした。
「風柱様、今日こそ弟子にして下さい!!」
一瞬、しん……とその場が静まり返る。
隊士達がたたずを飲んで見守る中、ピタリと歩みを止めた風柱様は私を見下ろしため息を吐いた。
「ったく、しつけーなァァ……弟子は取らないっつってんじゃねェか!何度言えば理解すんだ、テメェはァ」
「そこを何とか…」
「大体テメェは炎の呼吸を使うだろうがァァ……継ぐ子なら煉獄に頼めェ」
案の定、何回目かのお願いにも風柱様の首は縦に動く事はない。
それどころか落ち込む暇すら与えてはくれないようで。
「わ、わ、わ!ちょっと待ってください」
「チッ、うっせぇなァ……着いてくんじゃねェ」
適当にあしらわれたと思った次の瞬間には、もうスタスタと歩き始めた風柱様に、慌てて私も駆け出すのだった。
******
単独の任務で風柱様に命の危機を救われてから数ヶ月。
事あるごとに風柱様に弟子入りを志願して来た。
それこそ合同任務明けの時もあれば、たまたま街中でお見かけして声を掛けた事もある。
屋敷までおしかけて稽古をつけてもらった事まであるのだ。
先日稽古をつけてくれた炎柱様曰く、風柱様の管轄地区で任務が頻繁に入るという事は、それだけ風柱様が私を気にかけてくれている証拠……らしい。
何だかんだと冷たい言葉を並べる癖に、食事を奢ってくれたり、炎柱様に鍛えてやって欲しいと口添えをしてくれていたり、風柱様は意外とお優しいのだ。
それに颯爽と現れ、瞬く間に鬼の頸を斬り落としたあの姿。
あんなものを見せられたら、彼に憧れを抱かない筈がないじゃないか。
今日も今日とて弟子入りには失敗してしまったが、私が追いつける速度で前を歩く風柱様に、自然と小さく笑みが溢れる。
「風柱様!お腹すきませんか?帰りに甘味休憩していきましょう?」
「……一人で行けばいいだろうがァ」
「えー、そんなつれない事言わないでくださいよ」
この後、何だかんだで甘味処にまでご一緒させて頂いた私は、まさか数日後にあんな辱めを晒すことになろうとは思ってもみなかったのだ。
******
その日はたまたま月のものが重い日で、万全とは言いがたい体調のまま任務に当たっていた。
そういう時に限って厄介な鬼と遭遇してしまうもので、ちょこまかと動き回る鬼に時間だけが過ぎていく。
そんな中、先にガタが来たのは自分の体だった。
貧血でふらついたその瞬間に、鬼の爪が利き足を抉ったのだ。
だがそれと引き換えに、やっと目の前にやって来た鬼の頸へと刀を振り抜いて……
次に目を覚ました時には、蝶屋敷へと運び込まれた後だった。
しのぶさんの説明では、あの後駆けつけた隠によって蝶屋敷へと運び込まれたそうだ。
その時には鬼は既に頸を斬り落とされ、灰に変わっていく姿を隠が確認してくれている。
敵を前にして意識を失うなど情けない事この上ないが、最後に振り抜いた一撃で鬼を仕留められて本当に良かったと深く息を吐く。
「足は痛むでしょうが、呼吸で上手く止血なさっていましたので大事には至らないでしょう」
「ご迷惑おかけしました」
「いえいえ。ですが、体調が悪いのに無理をした事は、決して褒められませんよ?」
「す、すみません……」
「ふふっ、まあ随分と反省している様ですし、今回はこれくらいにしておきましょう。おかげで被害も少なく済みましたからね。ああ、それから……」
肩を落とす私に、ふわりと笑いかけたしのぶさんは当然のように言葉を続けた。
「不死川さんにも鴉を飛ばしておきました」
「ええ!!?な、なんで!?」
驚きのあまり敬語も忘れて聞き返す。
まさか体調管理も碌にできず、それどころかこんな怪我を負ってしまうなんて……
こんな情け無い姿を見られたら、一生弟子入り出来ないのではないだろうか。
そんな考えが頭をよぎり思わず頭を抱えていれば、病室の外から此方へと近づいてくる足音に気がついた。
その足音は部屋の前までやってくると、ピタリとその足を止める。
それに顔を青ざめていれば、ガラリと開いた扉から風柱様が飛び込んできた。
「胡蝶、苗字は……」
しかし、すぐさま起き上がる私に気づいた風柱様は目を見開いて固まった。
勿論、心の準備ができていない私も突然の風柱様の登場で、思わずオロオロと視線を彷徨わせる。
「あらあら、随分お早い到着ですね?」
そんな静まり返った病室には、しのぶさんの楽しそうな笑い声だけが響いている。
「……胡蝶これはどういう事だァァ」
恐らく重症だとでも聞かされて来たのだろう。
慌てて駆けつけてくれた様子の風柱様は、眉間に皺を寄せながらしのぶさんへと口を開く。
それにもクスクスと可愛らしく笑みを落としたしのぶさんは、私の怪我の状態を説明し始める。
その説明を聞いている間、風柱様の眉間の皺は段々深くなっていく。
それをビクビクしながら眺めていれば、しのぶさんは「まぁまぁ、そんなに睨まないで下さい」とため息を吐く。
「折角弟子になりたいと名乗りを上げてくれる子がいるのに……そんな態度ばかりだと、呆れられてしまいますよ?」
「あ"ァ?」
その瞬間風柱様は声を荒げ、恐らく自分の話だろうと察した私も慌ててしのぶさんへと声をかけた。
「あ、呆れるなんて事は絶対ないです!!私の憧れの人なので!!」
「憧れ、ですか?」
「はい!風柱様は本当に凄い方なんです!!実力は勿論ですが……こんな私を気遣って炎柱様に声を掛けてくださったり、任務でへまをした隊士を本気で叱ってあげたり……」
私の言葉に風柱様からは「煉獄の野郎……バラしやがったなァ」とか何とか。
小さな独り言が聞こえて来たが、私は気にせず言葉を続ける。
「それに、あの日私を助けてくれた風柱様はとっても格好良くて、素敵で!!今でも忘れられ、んぐっ」
まだまだ熱弁したいところだが、気づけばすぐ隣まで来ていた風柱様に突然口を塞がれて、思わず変な声が漏れる。
「ったく……テメェのお喋りは何とかなんねェのかァ……」
抗議の意味を込めて風柱様を見上げれば、何故か頬をほんのり染めてそっぽを向いている。
その予想外の表情にキョトンと彼を見つめていれば、しのぶさんから呆れたようにため息を吐かれた。
「あらあら、仲が宜しいのは結構ですが……愛の告白ならもう少しお静かにお願いしますね?蝶屋敷中に聞こえてしまいますよ?」
爆弾発言を落としたしのぶさんにギョッと目を見開けば「あら?無自覚でしたか?すみません」と何故か笑いかけられて、思考が一旦停止する。
……愛の告白?……誰が誰に?
……それに無自覚って、
『はははっ!苗字は本当に不死川が好きなんだな!!』
『はい!私の憧れですから!』
その瞬間、脳内に炎柱様との会話が蘇り、漸く自分の想いに気がついた。
〝……私、風柱様の事が好きだったの!?〟
それが分かってしまえば、今までの自分の言動が全て恥ずかしく思えて来て、一気に顔に熱が集まっていく。
それと同時に、未だ口を塞がれ続けている風柱様の手にドキドキして、私の思考回路は完全に停止した。
その後、しのぶさんが部屋を去って行った事も、風柱様が早く治せと珍しく優しい言葉を掛けてくれた事も……
〝わぁぁー、今度からどんな顔して風柱様に会えばいいのー!?〟
恥ずかしさに悶絶する私には、気がつく余裕すらないのであった。