予測できない方程式(藤原様リクエスト)
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
数ヶ月前、面白い女を駅で見かけた。
その日、実弥はたまたま友人と呑む約束をしていて。
普段は車で移動することが殆どだが、久しぶりに電車で友人宅へと向かっていた。
しかし、その時の実弥は至極不機嫌で。
帰宅ラッシュの時間帯、満員状態の車内だというのに優先席を我が物顔で使う学生達。
高齢の男性が乗り込んで来たというのにお構い無し。
自分が座っていたならすぐに席を譲れるが、生憎実弥もつり革を握っている状況で。
教師という職業上、生徒に指導するのは日常茶飯事ではあるが……〝やれやれ、こんな時にまで〟なんて心の中で悪態をついた時だった。
「あの!良かったらこの席に座って下さい」
自分の目の前に座っていたスーツ姿の女が立ち上がり男性に声を掛けた。
それから一瞬戸惑いを見せた男性に「自分は次で降りるので」と言葉を続けた女は、男性が座ったのを見届けると、にこりと笑い宣言通り次の駅で降りていった。
当然…といえば当然なのかもしれないが、誰しもが出来る行いではない。
実弥は何処か清々しい気持ちすら感じながら、その場を後にする。
それから、たまたま自分の降りる駅も同じだった為、実弥は何の気なしに彼女を目で追いかけた。
すると電車を降りてすぐ、彼女は二つ隣りの車両へと乗り込んでいくではないか。
「ア?………ここで降りる訳じゃなかったのかァ」
まさか席を譲るだけではなく、男性に気を遣わせないようにとわざわざ電車を降りるふりをするだなんて。
とんだお人好しもいたもんだと、あの時は少しほっこりしてしまった。
その後、友人に機嫌がいいけど何かあったのか?と突っ込まれた事は、勿論ここだけの秘密である。
「初めまして、苗字 名前です。えっと、蜜璃とは大学の時から友人で…」
だから、友人が紹介したいと連れてきた女があの時のお人好しだと気づいた時、思わず笑いそうになってしまった。
まぁ、当の本人はといえば数ヶ月前電車で乗り合わせた事を覚えているはずもなく、気まずそうに視線を泳がせていたりするのだが。
それでも遠慮がちにこちらを見上げて、困ったように眉を下げた彼女を可愛らしいと思ってしまったのだから、自分も存外簡単な男なのかもしれない。
*******
あれから3ヶ月ー…
名前とは連絡を取り合い、食事も何度か共にした。
そうやって互いの事を知るうちに、名前は思っていた以上に素直でお人好しだということが分かった。
たまに漏らす仕事での愚痴も、同僚のミス……というより、それを上手くフォロー出来なかった自分へのものばかり。ここまで来ると、少し心配になるレベルである。
伊黒にそれとなく聞いた話では、今まで付き合ってきた男は彼女の優しさにつけ込むクズばかり。
そのせいで最近はその手の話を遠ざけるようになってしまったし、寂しさを埋めるように仕事を詰め込みすぎていると甘露寺が嘆いていたのだとか。
そんな話を聞いてしまったものだから、名前への接し方も少し慎重になってしまう自分がいる。
人に頼るのが苦手で。
その癖落ち込んでいても明るく振舞おうとする名前を、自分が守ってやりたい、支えてやりたいと思うようになったのは結構早い段階だったと思う。
いや、電車で見かけた時からもう既に彼女に惹かれていたのかもしれない。
そんな事を考えながら携帯に目をやれば、丁度名前から連絡の通知が入っていて。
〝お疲れ様〜(^^)私は仕事が終わって今から帰るところだよ!
不死川さんは、爆発?の片付けは終わったかな?〟
思わずにやけそうになる頬を頬杖をつく形で無理やり押さえつけ、名前への返信を打ち込んでいく。
そうして当たり障りのない返事を返し、ふと思った事を口走る。
「……嫌われてはないと思うんだがなァ」
「だとしたら、不死川の押しが足りねぇんじゃねーか?」
「俺の押しが…って、おいテメェ!勝手に見るんじゃねェよ、刻むぞボケェ!!」
急に肩に重みを感じ、実弥が驚いたように顔を上げれば、宇髄が手元を覗き込むようにしてこちらに肩を回していて。
慌てて携帯を伏せたはいいが、宇髄は何やら物知り顔で「ふ〜ん、あの不死川がねぇ」なんて薄ら笑いを浮かべている。
「むう?不死川は押しに弱いのか?」
「煉獄君。それを言うなら押しが弱い、じゃないかしら〜?ふふっ、不死川君も可愛い所があるのねぇ」
「だァァァーッ!!テメェら、好き勝手言いやがって!!俺の話は今関係ねェだろうがァ!……んな事より宇髄!!こんな雑務手伝ってやったんだから晩飯くらい奢ってくれんだろうなァ」
それに加えて、この片付けに駆り出された煉獄や胡蝶までもが興味を持ち始めてしまうものだから、実弥も慌てて話題を変える。
するとその作戦は思いの外上手くいったようで。
煉獄がキラキラした瞳で宇髄を見つめれば、宇髄も調子に乗ってド派手に奢ってやらァ!なんて大声を上げて騒ぎ出す。
胡蝶がそれを男らしいと囃し立てれば、同僚達は晩飯は何にするかで盛り上がり始めた。
〝……簡単な奴らで良かったぜ〟
それに実弥が安堵していれば、握りしめていた携帯が震えだし画面を確認して一瞬思考が停止する。
先程揶揄われたばかりで少しだけ狼狽えた実弥だが、同僚達が他の話題に夢中なのを確認して名前からの電話に出る事にした。
『も、もしもし……』
「お疲れ。電話なんて珍しいな、どうしたァ?」
『あ、……どうって、訳じゃ…ないんだけど……』
初めは小声で話していた実弥だが、なんだか名前の様子がおかしいことに気づく。
動揺している彼女に何があったのか問いかければ、どうやら男に付きまとわれているようで。
コンビニの中にまで着いてきたとの話を聞いて、カッと頭に血が上る。
だが、今ここで自分が取り乱した所で、何もことは解決しないだろう。
ましてや名前の不安を煽るだけだと思い直し、務めて冷静に言葉を紡ぐ。
「多分ここからなら10分ぐらいで着くと思うがァ……俺が行く前に万が一男が近づいてきたら、そん時は店員に助けを求めるんだぞ」
しかし、冷静を装えたのはその一瞬だけで。
「……って、おい!不死川帰んのか!?」
電話を切った実弥は鞄を引っ掴むと、同僚の呼びかけにも答えることなく廊下へと駆け出して。
そのままの勢いで車へと飛び乗ると、急いで名前の元を目指す。
そうして10分も待たずして目当てのコンビニへと辿りつけば、駆け込んできた実弥に店員は驚いた表情を浮かべる。
それに構わず店内をぐるりと見渡せば、商品棚の奥からこちらを伺う男と視線が絡み合う。
〝……まさかこの男か?〟
実弥がスっと目を細めれば、男は顔を青褪めてそそくさと店を後にする。
それを横目で確認しながら店の奥へと歩みを進めれば、商品棚の陰から今にも泣き出しそうな表情を浮かべる名前が顔を出す。
「すまねェ、遅くなった……大丈夫かァ?」
「あ、うん。大丈夫……それより、不死川さんも忙しかった筈なのに助けに来てくれてありがとう」
「ァ?んな大した事はしてねェよ……それより、本当に無事でよかったァ」
同僚に何も伝えず飛び出して来てしまうほどには自分も取り乱していたようで、取り敢えず名前の無事な姿にほっと小さく息を吐く。
しかし、余程怖い思いをしたのだろう。
眉を下げ強がった笑みを浮かべる名前に胸がギュッと締め付けられる。
「このまま家に送ってもいいがァ……、一人になるとまたさっきの事思い出すだろ?もし名前が疲れてなきゃ、このまま飯でも食いに行くかァ?」
「え、でも……不死川さんこそ疲れてるんじゃ…」
こんな時くらい素直に甘えればいいのにと、思わず呆れてしまう所ではあるが……
それでも自分を頼って電話をくれた事が嬉しくて。
「まぁな〜…どっかの馬鹿のせいで残業になっちまったし、晩飯もまだで腹ぺこ」
それを悟られぬようにガシガシと自身の頭を搔くと、全て同僚のせいだと言わんばかりに言い訳を零し、イタズラに笑って見せた。
「ありがとう」
「おう!」
……今頃きっと、同僚達には面白可笑しく話のネタにされているのだろう。
正直、明日顔を合わせるのが、少し面倒だったりするが。
それでも、恥ずかしそうに頬を染める可愛い名前が見れたから、それはそれで良しとしよう。
そんな事を考えながら、実弥は車へと乗り込んだ。
******
二人っきりの車内で、実弥は先程の男の顔を思い浮かべていた。
〝アイツは何処のどいつだ?いつから名前に付き纏ってやがった……チッ、こんな事考えたって埒が明かねェ〟
心の中であの男への悪態をつきながら、取り敢えず名前を守る為の戦略を練る。
「いつも帰りはこの時間なのかァ?」
「……へ?」
突然問いかけられてキョトンとする名前に、思わず実弥は苦笑を漏らす。
「あの男に付き纏われてる以上、暫く送迎が必要だろ」
「……だ、大丈夫!今日はたまたまで、普段はそんな事全然ないし!」
「はァ?説得力ねーよ、んなもん」
「……それに、幾ら不死川さんが優しいからって、そんなに甘えてばかりじゃ……」
そう言って首をブンブンと横に振る名前に、何か勘違いをさせているのではと思い至る。
彼女の言葉は、まるで俺が誰にでも優しいような言い回しでー……、
『だとしたら、不死川の押しが足りねぇんじゃねーか?』
頭の中で、同僚の言葉が木霊する。
その直後。
タイミングよく赤に変わった信号に車をゆっくりと停止させた実弥は、これだけはハッキリさせなければと彼女を正面から見つめた。
不思議そうに見上げてくる名前に、少しでもこの想いが伝われば……
そんな下心を抱きつつ、彼女の頭を優しく撫でる。
「誰にでも優しい訳じゃねェ。それに俺がやりたくてやってんだから、名前は気兼ねなく甘えればいいだろうがァ」
「……ふぇ?」
「おら、分かったんなら返事」
「……は、はい」
見つめ合うこと数秒。
その意味を理解したのか、分かりやすく頬を赤く染めた名前に、思わず小さく笑みを零す。
今回のハプニングも、こんな展開も、全く想定していなかったが……
名前に異性として意識して貰えたのであれば、あの憎たらしい同僚の言葉も少しは役に立ったというもので。
「派手好きにも程があんだろォ…なんでもかんでも爆発させやがって」
頬を染め静かになってしまった名前の様子に実弥は優しく目尻を下げると、上機嫌で同僚の愚痴を話し始めるのだった。
******
その後ー……、
勿論実弥は同僚達からしつこい質問責めにあった。
それに加えて、慌ただしく仕事を片付けては名前を職場まで迎えに行く実弥の様子を、彼らは生暖かい目で見守った。
その甲斐あってか、実弥と名前は数日後には付き合いだし、あれから1年経った今では結婚秒読み……とまで言われる程に、お似合いの恋人同士になったのだが。
「ねえねえ。実弥君は、今度の休み何処か行きたい所ある?」
「ん?ん〜…… 名前と一緒だったら何処でもいいけどなァ」
「ふふっ、実弥君ってば案外寂しがり屋だもんね?」
「あ?それは名前だろうがァ……ったく、」
彼らが素敵な家庭を築くのは、また別のお話でー……
******
藤原様リクエストありがとうございます!
そして、大変お待たせ致しました(>_<)
リクエスト頂いた際、夢主ちゃんはバリバリのキャリアウーマンでサバサバ系……とも考えたのですが。
蜜璃ちゃんのお友達で、実弥さんが惹かれるような夢主ちゃん……と想像していくうちに、優しいお人好しな夢主ちゃんになっていました笑
余談としまして、お付き合いをし始めてすぐ実弥さんは夢主ちゃんを困らせます。
「なんで伊黒は君呼びなのに、俺は不死川さんなんだ」とー……。
まさか実弥さんがそんな事を気にしているなんて気付いていなった夢主ちゃんは、可愛い彼の一面にキュンとしてしまったとか。
それからというもの、実弥君呼びになった夢主ちゃんですが、今でも「ん?」なんて隙だらけの返事を返す実弥さんに照れてばかりなのは秘密だそうです。
『リクエスト内容』
お相手:実弥さん
設定 : 時間軸はキメツ学園設定でおばみつカップルの友人夢主ちゃん。
男運のない、見る目のない、お金を稼ぐことしか取り柄(職業、外資系システムエンジニア)がない夢主ちゃんが、友人であるおばみつカップルの紹介で実弥さんを紹介されて幸せになるお話。キメツ学園の世界観設定
もしも解釈の違い、台詞の言い回し等で直して欲しい所がございましたら、また教えて下さい。
おもち