短編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
時刻はまもなく18時になる頃ー……
閉館時間が近づいた図書館に、カツカツと軽快なヒールの音が響く。
「名前〜!!」
「わっ……とと、…あれ?梅ちゃん?」
この図書館で司書として働いている名前は、本の返却作業中に突然背後から飛びつかれ、驚きながら振り返る。
「梅、突然飛びついたら危ないだろうがぁぁ……」
「え〜?だって名前に会えて嬉しかったんだもん!!」
だが、それが気を許した友人だと分かると、名前は口元を緩めて笑みをこぼす。
「妓夫太郎さん、ありがとうございます。少し驚いただけですので大丈夫ですよ?それよりお二人とも、今日はどうされたんですか?」
「ん〜?久しぶりにお休みを貰えたから、名前に会いに来たのよ!!」
「そうでしたか、お二人ともお忙しいのにありがとうございます……あっ、梅ちゃん!今月の雑誌見ましたよ!表紙を飾るなんて流石です!とっても素敵でした!」
「ありがとう名前!!」
そう言って、ギューっと抱きしめてくる梅の可愛さに、名前は思わず頬を染めた。
梅と今世で出会ったのはまだ二人が学生だった頃。
記憶を取り戻す前から、彼女はあの頃と同じように傍にいて笑いかけてくれた。
それは勿論、前世の記憶を思い出してからも変わる事はなく、積怒と結婚する旨を伝えた時には涙を流して一緒に喜んでくれた大切な友人だ。
積怒との間に双子が産まれた時にも、彼女は両手一杯にお祝いを持って駆けつけてくれた。
そして、やっぱり自分の事のように大興奮して喜んでくれた梅が、首も座らぬ赤子相手に「トップモデルの私が選んだんだから、間違いはないわよ!!」とお祝いとして持ってきたベビー服を高々と見せつけていたのには、此方まで笑顔になってしまった。
お互い社会人となった今では中々会う機会も減ってしまったが、モデルとして多忙な日々を送っている彼女が、こうして自分の元を訪ねてくれるのをいつも嬉しく思っている。
素直で、明るい彼女には、いつも元気づけられてばかりである。
「梅、そろそろ離れてやれ。これじゃあ、どっちが年上か分かりゃしねぇ」
「もう、お兄ちゃん!!」
それまで静かに傍観していた妓夫太郎が揶揄うように口を開けば、梅は不満そうに頬を膨らませた。
その仕草すらも愛くるしいが、今世でも彼女の傍には頼りになる優しい兄がいてくれて……二人が再び出逢えた事が嬉しくて、ついつい笑みをこぼしてしまう。
「名前まで笑うなんて!」
「ふふっ…すみません。あまりにも梅ちゃんが可愛らしくって、つい…」
「……梅が可愛いのは当たり前でしょ?」
「ふふふ、そうでしたね」
頬を膨らませる梅と、その後ろでふっと口元を吊り上げた妓夫太郎を眺め、名前はそうだと呟いた。
「お二人とも、この後お時間ってあったりしますか?」
「「……?」」
突然の申し出に、二人はキョトンと首を傾げる。
その仕草があまりにも似ているものだから、名前はクスクスと笑みを溢すと、
「ー……と思ったんですが、いかがでしょう?」
今しがた思いついた提案を、嬉しそうに口にした。
*******
「ねぇ、父様……母様、今日は少し遅いみたいだけど大丈夫かなぁ〜?」
眉を下げて心配そうな表情を浮かべる少女に、積怒はゆっくりと手を伸ばし笑いかける。
「先程電話があったからのぅ、心配はいらぬ」
「花梨は本当に子供だな!母様がいなくて寂しいんだろ?」
「ち、ちがうもん!意地悪言わないで!!」
そんな少女を小馬鹿にするように横から口を挟んだ少年に、その会話を聞いていた可楽がすかさずツッコミを入れる。
「くっ、くく……夏芽もまだまだお子ちゃまではないか?」
「違うよ!僕もう5歳だもん!!」
それにプクッと頬を膨らませた少年はまさに子供といった反応で、そこに居合わせた可楽以外の兄弟達も楽しそうに笑い声を上げた。
「ただいま帰りました」
そこへタイミングよく玄関から声がかかり、子供達は弾かれたように顔を上げる。
それから我先にと玄関へ向かって駆け出していく子供達に続き、積怒もゆっくりと歩き出す。
「母様〜!!」
「あ、梅ちゃんと妓夫太郎兄ちゃんもいる!」
先を行く子供達は名前の後ろに客人を見つけ楽しそうに笑みを浮かべる。
そこへ遅れてきた積怒が騒ぐ子供達に、まずは挨拶じゃないのか?と呆れたように声をかけた。
「「母様お帰りなさい!!梅ちゃんと妓夫太郎兄ちゃんもいらっしゃい!!」」
流石は双子。息もピッタリで行儀よく頭を下げた二人に、積怒は小さく笑みをこぼすと優しくその頭を撫でてやる。
それから友人達へと視線を移し「良く来たのう。騒がしい家じゃがゆっくりしていってくれ」と口を開いた積怒に、妓夫太郎は驚いたように彼を見つめた。
学生時代、いや…鬼だったあの頃から積怒は常に苛立ちを隠しもしない傲慢な所があったと思うが、今じゃあすっかり丸くなって、しっかり父親の顔をしているではないかと口元を吊り上げる。
「さっきから何じゃ?人の顔をジロジロと見て……何をニヤついておる?」
「ん?いやぁ、何でもねぇがぁぁ……それより、ますます花梨はお前に似てきたなぁ。夏芽も名前にそっくりだしな」
だが、友人の幸せそうな姿が見れて安心しただなんて……そんな事小っ恥ずかしくて口にできる訳がない。
苦し紛れに名前と積怒にますます似てきた双子の名前を口にすれば、子供達はキョトンとした顔でこちらを見上げてくる。
それにすかさず梅が、可愛い!!と子供達にも負けないテンションで声を上げれば、双子も嬉しそうに梅に抱きつき笑い声を上げる。
無邪気な妹のおかげで話の焦点がズレた妓夫太郎は、ほっと肩を撫で下ろし双子の頭を撫でてやる。
「さぁ、花梨も夏芽も。いつまでもここで立ち話している訳にはいかないでしょう?お客様を客間まで案内して下さいね」
「「はーい!!」」
そんな彼らを眺めていた名前が双子へと優しく笑いかければ、二人は元気に返事を返し梅と妓夫太郎の手を取り歩き出す。
「梅ちゃん聞いて〜!今日保育園で楽しいお歌を覚えたの!!」
「へえ〜、なんの歌?歌ってよ!」
「「とんとんとんとん髭爺さん♫」」
「「ぶっ、……くく」」
その後ろをゆっくりと歩いていた名前は、前で楽しそうに歌を歌い始めた子供達と、予想外の選曲に吹き出した梅と妓夫太郎の姿に目尻を下げる。
「ふふっ…あの子達、楽しそうですね」
「そうじゃのう。夏芽なんて、さっきまで可楽に揶揄われてむくれておったのに、切り替えが早い奴じゃ」
そう言ってふっと口元を緩めた積怒に、その光景を思い浮かべた名前もクスクスと笑みを落とす。
出産後も名前が好きな仕事を続ければいいと言ってくれた積怒や、共働きで忙しい自分達を支えてくれる彼の兄弟達。
梅や妓夫太郎、恋雪や伯治といった優しい友人達。
それから無邪気な笑顔で、すくすくと育っていっている愛しい子供達。
積怒と再び巡り会えただけで幸せ者だと思っていたが……
「あの子たちが楽しそうに笑っている姿を見ると、思わず此方まで笑顔になりますね」
「…そうじゃな」
「ふふっ、素敵な旦那様と可愛い子供達。それに優しい友人達に囲まれて、私は本当に幸せ者です」
「ふん、それを言うなら儂も同じじゃがな」
前を歩く子供達の笑い声を聞きながら、二人は幸せそうに小さく笑みをこぼすのだった。
******
翡翠様リクエストありがとうございました。
そしてそして大変お待たせしました(´._.`)
リクエスト内容 :「かけがえのない花」の続話。
結婚した数年後、夢主と積怒の間に双子が生まれたお話
(可楽達は積怒達と一緒に暮らしており、夢主は図書館の司書として働いている。双子は二卵性。積怒似だけど泣き虫な女の子【花梨】と夢主似だけど気の強い男の子【夏芽】。二人は可楽達(憎珀天含む)兄弟に懐いており、甘える子供達を構い倒す可楽達を見て、夢主と積怒は幸せを感じるお話)
追記※謝花兄妹も登場予定
(梅はトップモデル、妓夫太郎は梅のボディーガード。この二人にも子供達は懐いている)
(夢主の仕事場に謝花兄妹が訪れる。休みが取れたので久し振りに顔を見に来たと言う謝花兄妹に夢主は喜び、彼らを自宅に招く描写を追加)
お話は如何でしたでしょうか?
謝花兄妹の描写が多くなってしまいましたが……
お話の流れや、言い回しでお気づきの点がございましたら、遠慮なくお声かけください。
楽しんで読んでいただければ幸いです
おもち