短編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
幼い頃、両親に連れられて実弥の家に挨拶に来た女の子。
向かいに越してきたと話す両親の後ろに隠れてチラチラと此方を伺う少女に、うさぎか何かかァ…なんて小動物を連想した事だけ覚えている。
それが名前との出会いで、実弥が彼女に抱いた第一印象はとくにパッとしないものだった。
だが、そんな印象が変わり始めたのはいつからだっただろうか。
『あ、さねみお兄ちゃん!』
『ん?なんだァ、どうかしたかァ?』
『みてみて〜!!お母さんとチョコレート作ったの!!さねみお兄ちゃんにもあげるね!!』
初めは人見知りをしていた名前がいつからか実弥の後をついて回るようになり、実弥自身もその姿を微笑ましく思うようになった。
成長する内にお兄ちゃんと呼ばれることはなくなっていったが……
「実弥君おはよう!はい、これ今日のお弁当!」
「いつも悪いなァ、名前に甘えてばっかりで」
「そんな、お礼なんていいってば!自分のを作るついでなんだし」
変わらず側にいてくれる名前にいつしか安心感を抱くようになった。
名前の笑顔を見ていると胸が暖かくなって、この笑顔を守っていきたい……そう思うようになったのは、一体いつからだっただろうか。
そしてこれが俗に言う初恋だと自覚したのは、実弥が名前と出会って何年も時間が経ってから。
「そう言えば、昨日冨岡先輩とまた言い争いしてたでしょ?」
「は?なんでそんな事……」
「ふふっ、一年の教室まで聞こえてきたんだから」
もしも想いを伝えたとして、この笑顔がなくなってしまったら……
柄にもなくそんな弱気な事を考えて、実弥はこの想いを伝える事すら出来ないままでいる。
******
「お?今日の弁当はエビフライか!美味そうだな!!」
弁当を覗き込んで来た宇髄がそんな事を言うものだから、実弥は弁当を引っ込めて睨みつける。
「……やらねェぞ」
「ぶふっ、くく……不死川、お前なぁっ…」
取られまいと咄嗟に弁当を隠したのが余程可笑しかったのだろう、宇髄は腹を抱えてゲラゲラと笑いだす。
それに冷めた視線を送りつつ再び弁当へと手を伸せば、彩り豊かに盛り付けられた弁当に自然と頬が緩む。
確かに宇髄が言った通りとても美味しそうな弁当だが、名前が自分の為に作ってくれたと思うとさらに特別なもののように思えた。
「はぁ〜……笑った。でも、本当苗字も健気だよな〜。毎日こんな手の込んだ弁当用意して……」
「……てめェ、馬鹿にしてんのかァ?」
「いや、そんなんじゃねーけど……普通好きでもない男に弁当なんて作らないだろ?本当にお前ら付き合ってないわけ?」
揶揄いを含んだ宇髄の物言いに、思わず大きなため息を漏らす。
おちゃらけた性格に見えて、宇髄は中々勘の鋭い男だ。
きっと実弥の気持ちに気づいていて、名前とくっつけようとでも思っているのだろうが…
「そんなんじゃねェって言ってんだろうがァ…」
素知らぬ顔して言い返すが、ふーん…と面白くなさそうな声が返ってきて、実弥は眉間に皺を寄せる。
二つ年下の名前が高等部に上がってからと言うもの、自分の弁当を作るついでだからと、毎日実弥の弁当を用意してくれる様になった。
それからと言うもの、名前の弁当を眺めながら、あーでもない、こうでもないと宇髄に茶々を入れられるようになったが、正直言って名前との関係についてはそっとしておいて欲しい所である。
だが、そんな事など微塵も気にしていない宇髄は、実弥から窓の外へと視線を移し徐に口を開く。
「だけどいいのか?」
「……何がだよ」
「何ってなー、お前。俺らは今年で卒業だろ?今までは小中高と同じ学校に通えていたから良かったけどよ〜……お前がしっかり苗字を捕まえておかないと、どっかの誰かさんに取られちまうぜ?」
あんな風にー……
そう言ってスッと窓の外を指差した宇髄に釣られ、実弥もそちらへ視線を移す。
すると渡り廊下の影になる部分に、名前と顔も知らない男子生徒の姿を見つけ、実弥は思わず立ち上がる。
「なんだァ、ありゃァ……」
「何って、告白だろ?どっからどう見ても。いいねェ、青春だねェ」
わなわなと怒りに震えながら問いかけた実弥に、宇髄はケロっとした表情で言葉を続けた。
あの様子じゃ呼び出したのは男子生徒だろうとか、俺の情報網では苗字は結構モテるんだぜ?お前が隣で目を光らせているから今まで声を掛けてくる輩がいなかっただけだとか…
ツラツラと言葉を並べた宇髄は、明らかに動揺し始めた実弥にくつくつと笑みを漏らす。
「まぁ、これを機に苗字としっかり向き合うこったな……って、おい!不死川どこ行くんだよ!?」
だが、その言葉を聞き終わる前に突然実弥が走り出した為、宇髄も慌てて立ち上がる。
しかし、呼びかけに振り返る事なく教室から飛び出して行った友人に、ポカンとした表情を浮かべた宇髄は再び楽しそうに笑い声を上げるとドカッと椅子に座り直す。
人の話は最後まで聞けよな〜…なんて独り言を呟きながら、実弥の弁当に手を伸ばし……
「エビフライ頂き!」
友人の背中を押したであろう自分の報酬として、メインのおかずを勝手に頂戴するのだった。
******
一方、勢いのみで名前の元までやって来た実弥はというと……
「中学の時から、苗字のことがずっと好きだったんだ。俺と付き合っ「名前!!」
「……実弥君?なんでここにいるの?」
今まさに告白の最中である男子生徒の言葉を遮り、渡り廊下の段差の上から二人を見下ろし声を掛けていた。
勿論、突然現れた実弥に名前だけじゃなく男子生徒も驚いた表情を浮かべるが、実弥は構わず言葉を続ける。
「……別にたまたまここを通ったら、名前の姿が見えたからなァ」
「ふふっ、そうだったんだ」
それに名前がニコっと笑顔を返すと、実弥は少し安心した様に息を吐く。
告白の最中ではあったものの横槍を入れる事にも成功した訳だし、恐らく男子生徒もビビって声を掛けて来ないだろう。
そう高を括った実弥は、このまま名前を此奴から引き離せばいいと口を開く。
「まぁな。で?名前はもう昼食ったのかよ?もしまだなら一緒に「あの!!不死川…先輩……」
しかし、実弥の思惑とは裏腹に男子生徒は勇敢にも声を上げ、睨みを効かす実弥に対し、名前に用があるから席を外して欲しいと言葉を続けた。
「ア"?……用事って何だよ?」
「し、不死川先輩には関係ない事です……苗字と付き合っている訳でもないんですよね?」
「名前は俺の………っ、幼馴染だ」
「ですよね?
それどころか反撃の言葉を喰らい、実弥は苦虫を噛み殺したような表情を浮かべる。
そんな実弥の様子に男子生徒がふっと口元を吊り上げた時ー……
「片山君」
黙って二人のやり取りを見ていた名前が徐に口を開いた。
「片山君の気持ち、嬉しかった。ありがとう」
その言葉に実弥はピシャリと固まって、片山と呼ばれた男子生徒は嬉しそうに顔を綻ばせた。
「じゃ、じゃあ!「でも、ごめんなさい」
「……え?」
「私、好きな人がいるの」
「……好きな、ひと?」
「うん。優しくて、頼りになって……いつも私を助けてくれるヒーローみたいな人」
そう言って実弥を見つめて微笑んだ名前は、片山に視線を戻すと「……だから、ごめんなさい」と頭を下げた。
そのやり取りを呆然と見ていた実弥は、男子生徒が走り去った後、漸く重い口を開く。
「名前の好きな人ってのは……俺の知ってる奴かァ?」
「ん?……そうね、知ってる」
「……ヒーローって話盛りすぎじゃねェのかァ」
眉を下げ困った様に視線を彷徨わせる実弥に、名前はふわりと笑みを浮かべる。
「そんな事ないよ!今も昔も、今日だって…困った時にはいつも助けてくれるじゃない」
誰とは言っていないが、その一言で名前が言う相手が誰なのか理解した実弥は、その場にずるずると蹲る。
「……焦って飛び出して来て、カッコ悪ィじゃねェェか」
「ふふっ、飛び出して来てくれたんだ」
「……それに、こう言うのは男が言うもんだろう」
「そんなルール知らないよ」
クスクスと可愛らしい笑い声に釣られ実弥が徐に顔を上げれば、頬を赤く染めた名前が此方を覗き込んでいて。
その手を引っ張り、膝をつく様にして倒れ込んでくる名前をぎゅっと腕の中に閉じ込める。
「わ、実弥君っ「名前、好きだァ!昔から、ずっと好きだった」
「……ふふっ、私も実弥君がずっと大好きだったよ」
「……こんなかっこ悪い奴の何処がいいんだかなァ」
「実弥君は分かってないだけよ!本当にかっこいいもの!……でも、お兄ちゃんを取ったって貞子ちゃん達に怒られちゃうかも」
「それを言うなら怒られるのは俺だろ?アイツら名前に随分懐いてやがるからなァ」
そう言って顔を見合わせた二人は、どちらともなく吹き出した。
「ったく、アイツらここが学校だっつーのをド派手に忘れてやがんな」
そんな二人を教室から眺めていた宇髄もまた、楽しそうに口元を吊り上るのだった。
******
匿名でリクエスト頂きました、ありがとうございます(^^)
そして、大変お待たせしてしまい申し訳ありませんでした汗
リクエスト内容
短編「二人を見守る兜虫 ※実弥さんお誕生日記念」の二人が付き合い始めた頃のお話
(細かい設定等はお任せで)
との事でしたが、如何だったでしょうか?
裏話としましては、お弁当を食べられた実弥さんは勿論宇髄さんにブチギレますΣ( ̄。 ̄ノ)ノ
でも何やかんやと言いくるめられ(感謝もしているので)許してあげます。笑
……きっと、この後数年経っても結婚しない二人に痺れを切らした祭の神が茶々を入れ出す事でしょう( ´△`)
お話の内容で変更して欲しい点等ございましたら、お気軽にお声掛けください。
楽しんで読んでいただければ幸いです。
2023/02/22 おもち、