短編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
鬼滅学園は、個性豊かな生徒達で溢れている。
睨みだけで教師をも黙らせる男子生徒や、他校の生徒達にまで一目置かれるド派手な番長。
更には男女共に人気が高い、学園の3大美女なんて者までいる。
そんな学園に通う私は、自分で言うのもあれだが至って真面目。至って平凡。
どこにでもいる普通の女子高生である。
スポーツも人並みにこなす自信もあるし、勉強だって、平均的……
平均的にこなすのだ、あの苦手な教科を除いては。
******
ホームルームが終わり皆が続々と教室を後にする中、私は今にも帰らんとする友人の後ろ姿を見つけて慌てて駆け寄った。
「不死川君っ!」
「ア?苗字?……俺に、何か用かァ?」
此方を怪しむようにスッと目を細めた不死川君に、思わず苦笑いが漏れる。
「不死川君って、数学得意だよね?」
「……得意って程じゃねェがァ」
だからなんだ?と続きそうな彼の言葉を遮って、勢いよく顔の前で手を合わせる。
「お願い!!私に勉強を教えて欲しいの!!」
「はァァッ!?」
相変わらず睨みだけで人を殺せそうな友人に、負けじと必死で頭を下げる。
「恥を承知の上で、この通り……」
「チッ、………で?」
「へ?」
「……だァから〜…何処が分からねェのかって聞いてんだろうがァ……」
「あ、ありがとう!!!」
照れ臭そうにそうに頭をガシガシと掻く不死川君に、思わず満面の笑みで詰め寄って小突かれた。
そう、何を隠そう、私が苦手な教科というのは不死川君が得意な数学なのだ。
なんだかんだ優しい友人は私の席までやってくると、前の机から椅子だけ借りて向かい合うように腰掛ける。
それにワンテンポ出遅れた私が慌てて鞄からつい先日のテストを取り出すと、その点数を見た不死川君はピタリと動きを止めた。
「お前なァ……」
「言わないで…私だってヤバいことくらい分かってるの。こんなの私だって恥ずかしくて知られたくなかったんだから!!」
思わず大きな声を上げてしまったが、不死川君の痛いくらい突き刺さる視線に恥ずかしくなって下を向く。
いつも赤点スレスレで難を逃れていた数学のテストだが、今回ばかりはそうもいかず……
人生初の赤点は、精神的にもかなり凹むものがある。
しかし、いつまでも落ち込んでいる場合ではないのだ!!
私には追試という試練が待ち受けているし、そこで今度こそ合格を貰わなければ、私の夏休みは勉強漬けの日々になってしまう。
……それだけは何としても避けなければ!!
そんな私の必死の形相に、不死川君は呆れたようにため息を吐くと、ノートを出せェ…なんて言いながら、一つずつ分かりやすく数式を書き出してくれた。
「数学は全て応用問題だからなァ。基礎が分かってなけりゃァ、意味がねェー……ほら、ここで……」
丁寧な解説を交えながら、不死川君はスラスラとペンを動かしていく。
それに相槌を打っていると、スッと伸ばされたその指に思わず胸が高鳴った。
自分よりも大きくて、骨張った男らしい手ー……
ちらりと顔を上げれば、私のノートを覗きこむ彼の綺麗な銀髪が目に入る。
その異様に近い距離感に今更ながら頬が熱くなってきて、視線をオロオロと彷徨わせていれば、不死川君が頭をコツンと小突いてきた。
「おいッ、聞いてんのかァ」
「痛っ!き、聞いてるよぉ〜〜」
思わず涙目で不死川君を見つめれば、眉間に皺を寄せたまま問題を解いてみろォ……とどやされる。
その言葉にハッと我に返った私が、ああでもない、こうでもない……と必死で問題を解く間、彼は無言で目を細める。
〝………怖ッ〟
その威圧感は中々のもので、さっき迄の浮ついた感情は何処へやら。
蛇に睨まれた蛙のような緊張感の中、何とか答えを導き出した。
「あ、あの………出来ました」
「………」
「ど……、どうでしょう?」
あまりの緊張感に思わず敬語で話しかければ、不死川君はぶはっと盛大に噴き出した。
それからククッと笑い声を上げて、ゆっくりと再び手が伸びる。
「っ、……」
きっと間違えた解答をしたんだ。
また小突かれるのかも……なんて身構えた瞬間、ぽふっと頭に乗った重みに、キョトンと彼を見上げれば、
「なんだァ、苗字もやれば出来るじゃねェかァ」
呆れるでも、馬鹿にするでも、睨みつけるでもなく、優しく目尻を下げた不死川君に思わず見惚れて固まった。
だが、そんな私に不死川君は気づく事もなく、そのまま数回頭をぽんぽんと撫でると、時計に目をやり口を開く。
「……っと、こんな時間かァ。すまねェ、弟妹達の面倒をみないといけねーから残りはまた明日なァ」
「え、……ああ、うん。ありがとう」
固まる私に片腕を上げ、ちゃんと復習してこいよォと口を開いた彼が、颯爽と教室を出て行くのを見届けて、私は机に突っ伏した。
あんな風貌で弟妹思いだなんて聞いてない。
それに普段は目つきが悪い癖して、あんなに優しく笑うなんて、……狡いでしょ。
そこまで考えて、私はハッと顔を上げた。
「また明日って…‥こんなの心臓もたないよぉ〜〜〜」
放課後の教室ー……
一人残された私の、なんとも情け無い叫び声だけが響いていた。