短編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
久しぶりに入った大掛かりな合同任務。
鴉に先導されるまま集合場所へとやって来た名前は、炎を連想させる特徴的な髪色を見つけて歩みを止めた。
〝大丈夫、平常心……まずは普段通り挨拶をして……今日こそ、炎柱様の名前を呼んで……〟
心を落ち着かせるように深く息を吐き出して、よし!と気合いを入れ直す。
そうして足を踏み出した名前だが、突然此方に振り向いた煉獄に驚いて肩を揺らしてしまう。
「やあ、名前!!到着が遅れていたので心配していた所だ!!」
「え、ぁ、…すみません……」
ギョロリと大きな瞳に見つめられ、名前はたちまち言葉に詰まる。
返答に困りながらチラリと辺りを伺って、既に集まっている隊士達を確認する。
……遅れたと彼は言うが、どうやらまだ全員集まっている訳ではないようだ。
それでも「道中大丈夫だったか?」と心配してくれる煉獄に、名前は思わず頬を染める。
「名前と同じ任務は久しぶりだったからな!やはり家まで迎えに行くべきだった!」
「い、いえ……そんな炎柱様の手を煩わせる訳には」
「む?そんな事は気にしなくていい!!俺がしたくてしている事だからな!!」
面と向かってそんな事を言われても……
どんな顔をしていいのか分からず、名前は赤く染まった頬を隠すようにプイッと視線を横に逸らす。
「……炎柱様、少し声を抑えてください。他の隊士が驚いてしまいます」
「ははは!それは申し訳ない!!つい嬉しくてな!!」
豪快な笑い声を上げる煉獄に、名前は人知れずため息を漏らした。
******
数ヶ月前、名前はずっと想いを寄せていた煉獄から告白をされた。
煉獄と言えば代々炎柱を継ぐ名家の出身で、顔も良ければ、実力も申し分ない。
それでいて仲間からの信頼も厚いと来たもんだから、誰しもが憧れる存在と言っても過言ではない人だ。
だから、まさかそんな人と恋人になれるだなんて思ってもみなかった名前は、未だに彼とどう接していいか分からないでいた。
並みの隊士とは比べ物にならない程、柱の仕事は忙しい。
今日だって一週間ぶりに二人は顔を合わせたのだ。
本当はもっと彼と話をしたいし、会えない時間は彼の事ばかり考えている。
それなのに、いざ彼を目の前にすると恥ずかしくて素っ気ない態度を取ってしまう。
今朝は鴉経由で家まで迎えに来る誘いも断ってしまったし、付き合って数ヶ月経つというのに彼を名前で呼んだことすらない。
自分の想いを伝えるなんて以ての外だった。
「……今日もダメダメだったな」
思わず漏れた独り言に名前が一人落ち込んでいると、任務後の後処理として村長に事情を説明していた隊士が、困ったように眉を下げ戻って来た。
「煉獄さん、どうやら食事を用意してくれた様なのですが……」
「む?この人数分のをか?」
「はい。お気持ちだけで充分とお伝えしたんですが、子供達が帰ってきて余程嬉しかったようで……どうしましょう?」
今回の任務、奇跡的に姿をくらませた子供達は近くのお堂に閉じ込められていただけで全員無事だった。
そして子供達を捉えていた肝心の鬼も、煉獄があっという間に斬り捨てた為、被害は最小限に止まったのだ。
そりゃあ、村をあげてもてなされても可笑しくはない話である。
……だが、そんな煉獄に比べて今日の名前は失敗続きだった。
鬼の動きに翻弄された挙げ句、攻撃を防ぎきれずに吹き飛ばされた。
たまたま煉獄が受け止めてくれたから良かったものの、あのまま壁に叩きつけられていたら今頃大怪我を負っていたに違いない。
今日の任務での失態を思い出し眉を下げる名前に対し、煉獄は口角を吊り上げる。
「はははっ!ならば遠慮なくご馳走になるとしよう」
それから何処を見つめているのか分からない焦点のまま、煉獄は豪快に笑い声を上げるのだった。
******
その後、隊士達にもてなされた料理は、それは豪勢な物だった。
この人数の分を用意するのは大変だっただろうに、余程嬉しかったのか深夜でも村人達は笑顔で隊士を迎え入れる。
それにしっかり礼をして、煉獄は皆が気を遣わないように一番に奥の席へ腰掛けた。
「名前、こっちにおいで」
それからちゃっかり名前の隣を陣取って、煉獄は上機嫌で口を開く。
「うむ!皆席についたな!ではお言葉に甘えて、ご馳走になるとしよう!頂きます!!」
そう言って、礼儀正しく掌を合わせた煉獄はさっそく料理を口に運ぶ。
美味い!美味い!と感想を述べながらチラリと名前へと視線を移せば、驚いたように此方を見つめていた彼女と視線がかち合った。
「む?そんなに見つめてどうかしたのか?」
「え!見つめてなんか、ないですけど……」
オロオロと慌て始めた名前に、煉獄は優しく目尻を下げると、彼女が好みそうな料理を適当に皿によそい始めた。
その量は一体何人前だろうと思うほどだが、煉獄が楽しそうにしている為、その場に居合わせた隊士達は何も言わずに静かにその光景を見守った。
案の定、あっという間に彼女の目の前は、山盛りの料理で埋め尽くされる。
それに戸惑う名前に、まだ手付かずのグラスを差し出した煉獄は、最後ににこりと笑みを溢した。
「先程抱えた時にも思ったが、名前はあまりに軽すぎる!沢山食べた方が肉付きもよくなるだろう!」
「なっ、……」
そうして爆弾発言を落とした煉獄に、名前は思わず真っ赤になる。
だが、その言葉に深い意味はなく、彼は思った事を素直に口にしただけである。
今日の任務だって、名前だからこそ安心して子供達を任せられたし、彼女が失態を晒したなんて微塵も思ってはいない。
しかし、そんな煉獄の言葉を深読みしてしまった彼女は、そこで漸く他の隊士達の視線にも気付く。
顔に熱が集中するのを感じ、誤魔化すように彼が手渡してくれたグラスに口をつけ……
そのまま彼女は俯いた。
「名前?」
突然静かになった名前に、煉獄はやり過ぎてしまったと苦笑いを浮かべる。
いつも顔を合わせば彼女は面白いくらいに此方を意識していて。
その反応があまりにも可愛らしいものだから、ついつい甲斐甲斐しく世話を焼いてしまうのだが、今回はやり過ぎてしまったようだ。
「名前、すまな…っ」
未だに俯く名前を気遣い優しく声をかける筈が、突然胸元に飛び込んできた名前に煉獄はビタッと動きを止めた。
「んふふ、炎柱様ぁ〜…大好きですっ」
普段の名前なら、こんな大胆な事は決してしない。
愛の言葉を囁いたり、ましてや皆の前で抱きしめるなんて……
そこまで思考を巡らして、ハッと思い立ち彼女の体を引き離す。
「抱きついちゃ駄目なの?」
「むっ、……駄目ではないが……」
しかし、頬を赤らめ不安そうに瞳を揺らす名前に、煉獄は言葉を詰まらせる。
そんな二人の一部始終を見ていた隊士の一人が、ある事に気づいて遠慮がちに口を開く。
「あ、あの……煉獄さんが苗字さんに手渡したグラスの中身……もしかしてお酒だったんじゃないですか?」
「……酒?」
その言葉に即座に反応した煉獄は、名前が飲んでいたグラスをそっと持ち上げると匂いを確認してため息を吐く。
普通の水かと思っていたが、それからは間違いなく酒の匂いが漂っている。
恐らく名前は酒にめっぽう弱かったのだろうが、潤んだ瞳で見つめられても困ってしまう。
そんな事を考えていれば、痺れを切らした名前が再び胸元に飛び込んで来た。
今回は引き離されないようにしているのだろう。
背中に回した手が、羽織をぎゅっと握りしめたのを感じ取り、煉獄は無意識に口角を上げる。
「皆んなばっかりずるい……私も煉獄さんって呼びたいのに……」
恐らく今のやり取りを聞いて、不満を口にしたのだろうが……
あまりに可愛らしい訴えに煉獄は堪らず笑い声を上げる。
「くくっ、そんな事気にせずとも名前も呼べばいいだろう?」
「本当?」
「うむ!名前で呼んでくれても構わないぞ!」
「わぁ、ありがとう!杏寿郎さん!」
その言葉には煉獄の希望も含まれていたが、案の定酔っ払っている名前はその言葉をそのまま汲み取って嬉しそうに笑みをこぼす。
そして、胸元にすりすりとまるで猫のように頬を擦り付ける名前に、煉獄が悶絶していれば……
「あの、煉獄さん…… 苗字さん随分酔っ払っているみたいですが、お水を飲ませなくても大丈夫ですか?」
頬を赤らめた隊士の呼びかけで我に帰る。
同席する隊士達は皆が此方を見つめており……否、愛らしい名前の姿に見惚れていると言った方が正しいだろう。
それを理解した瞬間、煉獄の顔から笑みが消えた。
皆にこれ以上名前の顔が見えないように、彼女をそっと抱き締めると、そのままゆっくりと立ち上がる。
「悪いが、今日は先にお暇させて貰う。君たちは、俺の事は気にせずゆっくりして行くといい」
突然様子の変わった煉獄に、隊士達は戸惑いながら彼を見上げる。
「え、…煉獄さん?」
「ああ、それから……」
その視線を気にも止めず襖の前まで来た煉獄は、くるりと振り返り口を開く。
「今見たものは他言無用だ。いや、記憶から消してくれ」
「「「……え、」」」
「分かったな?」
有無を言わせぬ物言いに、隊士達は冷や汗を流しながらコクコクと必死で頷いた。
「物分かりがよくて助かった!では、俺はここで失礼する!」
それを確認した煉獄がにこりと笑みを落とし部屋を後にした瞬間、
〝怖っ……〟
居合わせた隊士達は一斉に顔を青褪めた。
******
一方……
村人に礼を言い、名前を抱えながら夜道を歩く煉獄は、自分の腕の中でうとうとし始めた名前を見つめ息を吐く。
普段恥ずかしがり屋の彼女が、酒の力でこうも大胆になるなんて思いもしなかった。
勿論素直に甘えてくれる姿は、愛らしいことこの上ないが……
「素直すぎるのも考えものだな!」
先程の隊士達の表情を思い出し、思わず苦笑いを浮かべるのだった。
******
匿名でリクエストを頂きました。
設定 :炎柱様とお付き合いしているけれど、いつも恥ずかしくて甘えたり好きと伝えられなれないツンデレ気味の夢主が、間違えて飲んだお酒(激弱)に酔ってしまうお話
(普段とは違う素直に甘えたり気持ちを伝えてくれる姿に、炎柱様はきゅんきゅんするが、それと同時に、周りにいた隊士たちも夢主の笑顔と可愛い姿にぽーっと見惚れているものだから、ついつい嫉妬の炎を燃やしてしまう)
書き上げるまでにかなりお待たせしてしまいましたが、楽しんで頂けたでしょうか?
もしも台詞の言い回し等、直して欲しい所がございましたら、またお教え下さい。
おもち