可憐な花(翡翠様リクエスト)
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
美しい顔をした女が、静かに唇を動かした。
「ー……血鬼術」
心地いい澄んだ声で女が言葉を発すると、彼女を中心にポツリポツリと牡丹の花が咲き始める。
それは次第に数を増していき、辺り一面に咲き乱れ……
彼女と対峙していた黒服の男達はぐっと刀を身構えた。
「花吹雪 乱舞」
そんな男達を流し目で見た女は、流れるような美しい動作で、手にした舞扇を数回振るう。
それに合わせて花弁が舞えば、美しい光景に目を奪われる暇もなく、猛毒を纏った花弁が、鋭い刃のように男達へと襲い掛かる。
「ぐふ……っ、」
男達が悲鳴を上げながら、次々に崩れ落ちる中ー……
美しい髪を風に靡かせた女は、くるりと後ろを振り返ると、ゆっくりと膝を地につけ口を開く。
「お待たせ致しました。鬼狩りの排除完了致しました」
「よくやった、名前よ」
その言葉に、名前と呼ばれた女は静かに顔を上げると、安心したように頬を緩めた。
******
……上弦の鬼。
人間を喰らい、強大な力をつけた鬼が集うこの組織で、常に上位の実力を誇る強者たち。
そんな上弦の鬼の補佐を務めるのが、この女……名前である。
彼女は十二鬼月にこそ名を連ねてはいないが、かなりの実力を身につけた鬼である。
その血鬼術の美しさ、それに勝る術の残忍さ。そして従順な態度が気に入られ、無惨様から直々に上弦に仕えるよう言い渡されている。
『上弦の鬼の補佐をしろ。もしもの場合には、その身を挺して上弦を守れ』
変化を嫌う彼は、名前にそんな使命を課したのだ。
そして、名前はそれを
自分は上弦の鬼を守る為の存在だと理解し、彼らの為に力を使う。
直属に仕える鬼は定まってはいないが、誰の下に就こうが、彼女のその姿勢は変わらなかった。
最近は無惨様の命により上弦の肆、半天狗と行動をする事が多いのだが、それは勿論、彼らが弱いから…なんて理由ではない。
分裂した鬼たちは名前を随分と気に入っているようで、彼女が共にいれば統制のとれた実力を発揮する事を無惨様が理解しての事だった。
上弦の鬼の援護をし、もしもの時はその命をかけて彼らを守る。それでいて、彼らの本領を引き出すほどの逸材。
無惨様が名前に抱く信頼は、かなりのものだと上弦たちも理解していた。
その為彼女は今日もまた、半天狗の側に控え、こうして彼らの邪魔をする鬼狩り達を蹴散らしていくのだ。
その美しく、凛々しい名前の姿には、本体から分裂した鬼たちも無意識に口角を上げていく。
「名前よ、今日もお主の血鬼術は美しいのう」
「あ、ありがとうございます」
名前の髪に触れながら可楽が柔らかく目を細めれば、名前は頬を赤く染める。そのまま、その手を頬へと伸ばせば、名前はビクッと肩を震わせた。
先程まで、あんなに気高く見えた姿も、話しかけた途端に身体を強張らせ、困ったように眉を下げる。緊張したように言葉を紡ぐ姿は、まるで庇護欲をかき立てられる程にいじらしい。
いつまで経っても変わらない。彼女の初々しいそんな反応を、可楽は随分気に入っているようだ。
いつものように、名前を揶揄っては楽しそうに笑い声を上げる可楽に、積怒は呆れたように口を開く。
「可楽、その辺にしておけ……名前が困っているだろう」
「そうだぞ、可楽?幾ら名前が愛らしいからと言って揶揄うもんじゃない」
「あ、愛らしいだなんて……そんな事ない、です」
諭すふりをして話に割って入ったかと思えば、結局空喜も名前の反応を面白がっていただけのようだ。
真っ赤な顔で遂には俯いてしまった名前を前に、積怒と哀絶はため息を漏らす。
「可楽、空喜………いい加減にせぬか」
名前を後ろに庇いながら、積怒が呆れたように吐き捨てれば、名前は困ったように眉を下げた。
「……積怒様、ありがとうございます」
「そんな事、気にする必要はない」
そう言ってチラリと名前に視線を移した積怒は、恥ずかしそうに頬を染める名前の姿に、珍しく頬を緩ませた。
******
そんな日々を送っていたある日のこと。
ふらりと名前の元を訪れた積怒は、彼女の前に一輪の花を差し出した。
「積怒様、これは……?」
それに戸惑いながらも、名前がその手に視線を落とせば、薄紫の桔梗の花が握られていた。
「此処に来る途中で見つけた」
「綺麗……これを私に下さるのですか?」
「ああ。……名前には、
そう言ってぶっきらぼうに渡された花を見つめて、名前は嬉しそうに頬を緩めた。
それを眺めていた積怒も、ふっと小さく笑みをこぼすと、徐に名前の髪へと腕を伸ばす。
しかし、彼女の髪が指先に触れる寸前で、ハッと我に帰った積怒は慌てて視線を逸らして口を開いた。
「……名前によく似合っている」
そんな積怒の奇妙な行動に、一瞬キョトンとした表情を浮かべた名前だが、
「ありがとうございます。大切にします」
手元の花に再び視線を落とすと、頬を赤く染めて微笑んだ。