短編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
無限城に集まる上弦の鬼達の前で、無惨様に深く頭を下げる。
「ほう。まだまだ私を満足させられる程ではないが、また鬼狩りを大勢仕留めたようだな。褒めてつかわそう」
「…っ、ありがとうございます」
「お前の時を歪ませる能力。未来を捻じ曲げるほどの力があると私は期待しているんだ……この期待を裏切らぬように」
期待していると言いつつも、無惨様の瞳は決して失敗は許さないと告げている。
それに冷や汗を流しながら何度も私が頷けば、無惨様はそのまま何も言わずにくるりと背を向け、鳴女の能力で出現した扉の先へと消えていった。
事実上の解散が言い渡され、ふっと肩を撫で下ろす。
しかし、振り向いた先で見下すような上弦達の視線に気づき、慌てて俯き視線を逸らす。
まるで『お前には何が出来る』と品定めをするようなその視線。目を合わせただけで、格の違いをひしひしと感じる。
こうして無限城に呼び出される事も度々あるが……
雑魚に興味でもあるのか、陽気に話しかけて来る上弦の弍も。
「見た目は悪くないわね」なんて鼻で笑う上弦の陸も。
分裂した姿で此方をじっと見つめてくる上弦の肆も……
この場におけるその全てが、私には恐怖以外の何者でもないのだ。
******
無惨様が姿を消し、ほっと肩を撫で下ろす後ろ姿に無意識に口角が上がっていく。
「……哀絶。その腑抜けた顔をどうにかしろ」
隣から聞こえる積怒の声は呆れていて、それを聞いても尚、哀絶の笑みは深くなるばかり。
そうこうしている間に此方へと振り向いた名前は、集まる視線に気づき、驚いたように目を見開く。
「っくく、……」
しかし、それも一瞬で。
慌てて視線を逸らした彼女に、くつくつと笑いが込み上げる。
「あんなに怯えて可哀そうに……」
哀れだなんだと口では言おうが、その表情はずっと楽しそうに歪められている。
それどころか、名前を見つめて目を細める様は、まるで獲物でも見つけたかのようで……
「儂が更に強くなる方法を教えてやろうか?」
「い、いえっ……あの、そんな……上弦の方々のお手を煩わせるなんて……」
怯える名前に近寄り、楽しそうに口角を上げる哀絶の姿に、彼の心中を知る他の分裂鬼たちは、やれやれ…とため息を漏らすのだった。
******
名前が鬼になってから、もう何年経つのだろうか。
人間だった頃の記憶は既にほとんどないが、寿命なんて関係ない鬼たちの中では、名前はまだまだ新参者な上に、力も大してあるわけでもない。
しかし、それでもこうして無惨様が気にかけてくれるのは、名前の血鬼術が他と比べて異質だから。
時間を歪める能力……と言えば聞こえはいいが、精々数十秒時を止めたり、戻したりできるだけ。
それにはかなりの体力を消耗するし、使いこなすにはまだまだ沢山の人間を喰べなければならないだろう。
しかし逆を言えば、それが叶えさえすれば名前の能力で時を自在に操ることが出来るかも知れないのだ。
時を更に長く止められるようになれば、例え柱が来ようとも、怖気付く必要はなくなる訳だし、
更には、未来を覗く程の能力を手に入れば……
鬼側が有利になるのは目に見えているが、果たして自分がそこまで能力を使いこなせるかどうかは別問題である。
そんな事を考えながら、木々が生い茂る森の奥深く、ひっそりと佇む館へと帰り着いた名前は、思わず大きくため息を吐いた。
無惨様に呼び出される度、自分の行いは全て彼に筒抜けだと思い知る。
それに加えて、今日は普段声をかけて来ない哀絶までもが話しかけてきたのだ。
緊張して思わず口籠もってしまったが、
……あの瞳に見つめられると蛇に睨まれた蛙のように、まるで視線を逸らしたら最後、彼に喰われてしまうのではないかと錯覚する程の威圧感だった。
「……あれが上弦かぁ」
力なく呟き、ふうっと小さく息を吐く。
そんな時、館の外から微かな声が届き、名前はびくりと肩を震わせた。
「……風柱様、本当にこんな所に鬼が住み着いているのでしょうか?確かにこんなに木が生い茂った場所なら身は隠せそうですが……まるで気配を感じませんよ」
「それは調べてみれば分かる事だ。この周辺で数名の隊士が消息を絶っている………怪しい場所は全て目を通して置くべきだろう」
鬼殺隊……。それも恐らく柱を含め、複数人の隊士がいるのだろう。
思わぬ来客に、名前はそっと息を潜める。
そうこうしていれば、無遠慮に開かれた玄関から此方へと近づいてきた足音に、名前は意を決して奇襲を仕掛けた。
******
あれから、どれだけの時間が経ったのだろう。
ぜぇぜぇ……と荒い呼吸を繰り返す私を、風柱と呼ばれた若い男は目を細めて睨みつける。
「先程の隊士が、確かにお前の頸を斬り落としたと思ったが……気づいた時には隊士の方が倒れていた」
「ぐっ、……」
「お前は一体何をした?」
そのまま肩に深く日輪刀を突き刺した男は、額に青筋を浮かべながら距離を詰めた。
******
対峙してすぐ分かったのが、私の実力ではこの男を倒す事など到底不可能だと言う事。
戦いが始まると時を止める暇もなく、この男は私の頸を斬り落としかけていた。
それを既の所で術を発動し、なんとか頸を斬られる直前で時を止める。
だが気が動転していたせいか、上手く術が決まらなかったのだろう。いつもよりも早い段階で周りの景色がゆっくりと動き始め、慌てて男を殴り飛ばす。
ただでさえ、数秒しか時を止められない私には、そんな事でしかこの場をやり過ごす方法がなかった。
時が動き出した瞬間、吹っ飛ばされた男も、その周りにいた隊士達も、皆驚きを隠せないようだった。
それなのに……
上官が後方へ飛ばされようが、誰一人隊士達は逃げ出さなかった。それどころか連携をとりながら隊士達は攻撃の手を激しくさせた。
〝先程の男が戻ってくる前に逃げなければ……〟
そんな焦りを抱えながら、斬りかかってきた隊士達を一人、一人時間を歪めながら始末していく。
そして最後の隊士の鳩尾に己の腕を突き刺した瞬間……先程殴り飛ばした男に、背後から背中を斬りつけられたのだ。
必死で数秒時を戻すが、この短時間で術を使いすぎた為か、ゼェゼェと息が上がる。
それから傷を負う前の状況に戻った私を、男は最も簡単に追い詰めて、
ーーー………今に至るのだ。
「まぁいい。お前が口を破ろうが破らないが……お前は此処で死ぬんだ。」
「っ、……」
疲労しすぎて呼吸は整わず、術も上手く繰り出せない。あまりの恐怖に体は無意識に震え出し、肩の激痛に思わず涙が込み上げる。
「たすけっ、……「鬼の分際で、助けを請うなど見苦しい奴め」
刀を高く振り上げた男に、名前はぎゅっと目を瞑る。
ああ、此処までか……
迫り来る痛みに身構えるが、一向に訪れない攻撃に恐る恐る瞳を開けて、驚いた。
目の前から男が消えていたのだ。
否、消えたと思われた男は、声を上げる間もなく絶命し、足元に目を見開いた状態のまま転がっていた。
その隣でじっと此方を見つめる哀絶に、名前は声を発する事も出来ずに彼を見つめた。
「やれやれ……様子が気になって来てみれば……」
そう言って、固まる名前の頬に片手を添えて顔を歪めた哀絶に、名前の瞳から生理的に雫がこぼれ落ちる。
「怖かっただろうな……助けが遅くなってすまない」
「えっ……いえ、……」
その涙を親指で優しく拭う哀絶に、名前は困惑したように眉を下げる。
それから漸く、今しがた命の危機から助け出してくれたのが彼であると理解して、慌てて名前はお礼を口にした。
「あ、の……助けて下さりありがとうございました。ですが………その、……哀絶様はなぜ此方に?」
その問いかけに少し考え込んだ哀絶は、名前の頬に当てたままだった片手を、そっと彼女の髪へと移動させる。
そこから毛束を一掬いすると、徐にそこへ唇を近づけた。
「あ、哀絶様「好きだ……其方を初めて見たときからずっと好きだった」
哀絶からの思わぬ言動に、名前は思わず頬を染める。
その反応が余程面白かったのか、くつくつと笑い声を上げた哀絶に、名前の頬はどんどん赤みを増していく。
「……揶揄わないでくださいっ、」
「揶揄っているわけではない。儂からの熱い視線に、気づいていなかったわけでも無かろう?」
「それは……」
その言葉に、名前は思わず口を閉ざす。
確かに顔を合わす度、彼からの視線は常に感じていた。よくよく考えれば、呼び出しがある度に、わざわざ本体と分裂し、姿を現していたのはどうしてだろう。
まさか、私と会う為だったんじゃ……っ。
そんな在らぬ想像までして、名前は震える声で問いかけた。
「……鬼は群れない。それは……暗黙の決まりではないのですか?」
「別に決まっている訳ではない。……鬼だろうが感情はあるし、好いた相手を欲しいと思う事は何も不思議な事じゃない」
先程までの柱に追い詰められた緊迫感とはまた違う緊張が、名前の心を支配する。
どくどくと早く脈打つ心音。見つめられた瞳は逸らせない。
その瞳を細めた哀絶が、優しい声色で語りかける。
「どうじゃ、儂のものにならんか?」
「哀絶様の……?」
「ああ。そうしたら儂が其方を全ての恐怖から守ってやろう。ずっと其方の側に居る」
「っ、……」
「身も心も、儂のものになると誓えるか?」
柔らかく細められた瞳の奥に、ぎらつく炎を垣間見た。
〝この手を掴めば、もう一生彼は私を離してはくれないだろう……〟
先程の柱を一瞬で始末した彼の実力を思い出し、肝が冷える。まさに桁違いの強さだった。
もしもこの申し出に頷いたら最後、彼の元から逃げることは不可能だと息を呑む。
だが、それに恐怖を覚える一方で、心の何処かで彼に必要とされる事が嬉しいと思ってしまった。
………こんな私を愛してくれるのかと、期待してしまったのだ。
ゆっくりと彼が差し出してくれた手に、自身の手を伸ばしていけば、重なり合う前に強引に手繰り寄せられる。
あまりの勢いに体がふらりとよろければ、次の瞬間には彼のがっしりした腕の中に包まれていた。
「儂も名前を愛すると誓おう。……其方は一生儂のものじゃ」
耳元で囁かれたその言葉に、体が芯から震え出す。
……それは喜びか、それとも恐怖からくるものか。
「哀絶様っ、私……「少し黙っておれ」
その結論を出す前に、哀絶から噛み付くような接吻を送られて、
「んっ、……」
名前の思考は完全にそこで停止した。
******
林檎様、リクエストありがとうございました。
リクエスト内容↓
夢主は鬼で、半天狗の分裂した鬼、哀絶がお相手。
夢主は自己主張が苦手な鬼で、血鬼術が特殊なため無限城に呼び出される事があるけれど、上弦の鬼が怖くて余り関わろうとしない。
そんな夢主が気になり、夢主が欲しい哀絶。
その成り行きを見守る他の分裂鬼。
最終的には夢主の危機を哀絶が助け、夢主が哀絶の気持ちを受け入れるような話。
大変お待たせしてしまい、申し訳ございませんでした。
時間軸の設定は特になかったので、原作よりも前の設定で書かせて頂きました。(この中に出てくる風柱様は、不死川さんではありませんので、悪しからず)
哀絶の一方的な想いに、夢主は怖がりながらも、心の何処かでそれを望んで受け入れる……といった感じでお話を書かせて頂きましたが、リクエストに添えていますでしょうか?
もしも趣旨が違う場合は、書き直しますので、お気軽にお声掛けくださいませ。
楽しんで読んで頂ければ幸いです。 おもち