守る為の刀(翡翠様リクエスト)
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
炭治郎に刀を打ち直した翌日ー……
鋼鐵塚の読み通り、名前から刃こぼれを起こした刀の修理を依頼された。
「苗字名前殿の依頼で参りました。担当の刀鍛冶様でいらっしゃいますか?」
そう言って頭を下げた隠から、奪い取るように刀を預かり、白刀を確認する。
「……あ、あの?」
「きぃぃぃ〜!!?なんだこの刃こぼれは!?」
「ひっ………あ、あの…すみません」
奇声を発する鋼鐵塚の勢いに、隠は何も悪いことはしていないはずなのに思わず謝罪を口にする。
「ムキー!!謝って済むものか!」
「あ、あの!名前殿も態とした訳ではないと思います!お怪我もされていましたし……」
「許さない!俺の刀をよくもよくも〜!!」
「き、聞いてください!!名前殿はこの刀のおかげで被害を最小限に抑えられたと話しておられました。それからいつも一緒に戦ってくれる刀を傷つけてしまい申し訳ないともおっしゃっておりました」
「っ……」
それから慌てて名前からの謝罪を言伝した隠に、鋼鐵塚はピタリと動きを停止する。
その際、先日の名前の優しい手つきが脳裏に蘇り、これから続ける予定だった言葉をぐっと飲み込んだ。
「ふん、この刀は預かっておく」
「へ?」
「……できるだけ早く届けると伝えておけ」
「は、はい!!」
突然態度が豹変した鋼鐵塚に、隠はキョトンと彼を見つめる。
しかし、これ以上叱られる前にと思い直し、慌てて返事を口にすると、脱兎のごとく駆け出した。
その姿を見送ると、鋼鐵塚は大きなため息を落とすのだった。
******
それから一ヶ月程経ったある日のことー……
鋼鐵塚は刀鍛冶の里へと帰るべく、藤の花が咲き乱れる小道を急いでいた。
この道は隠れ里へと続くだけあって人通りも滅多にない。
「ちっ、あのへなちょこ隊士め!!俺の刀を折った挙句に担当を変えろだと……ふざけやがって……」
ぶつぶつと小言を口する彼は、随分機嫌が悪いようで。怒りに身を任せ、ずんずんと小道を進んで行く。
しかし、あともう少しで里に帰り着くといった辺りで、彼は突然歩みを止めた。
少し先で藤の花を見上げる少女が、目に留まったからである。
此方に気づいていない様子の少女は、藤の花にそっと手を伸ばすと、ふわりと綺麗な笑みを落とす。
その横顔は藤の花も相まって、美しく儚げで……
とても神秘的なものに見えた。
先程までの怒りも忘れ、その光景に視線が奪われる。
柄にもなくびたりと動きを止めたまま、暫く少女をじっと見つめる。
すると、突然一陣の風が吹き、竹笠に吊るされた己の風鈴が音を立てた。
「……あれ?鋼鐵塚さん?」
その音に振り返った少女が此方に笑いかけた所で、漸くその少女が自身が担当する隊士の少女だと気がついた。
「名前か。……どうしたこんな所で……任務帰りか?」
「はい、今から家に戻る所なんです。鋼鐵塚さんは何処かへ向かう途中ですか?」
柔らかく微笑む名前を見つめ、腕を組んで考え込む。
先程まで怒りのままに帰路についていた訳だが、どうせ家に帰ったってこれと言った予定もない。
その事に気づいてからは早かった。
「ちょっと付き合え」
「え?……ちょ、何処に行くんですか?鋼鐵塚さん?」
目の前で微笑む少女の腕を取り、戸惑う名前を無視して強引に連れ出した。
だがその後、鋼鐵塚に連れられてきた店の前で、名前はキョトンと首を傾げた。
「……甘味処、ですか?」
それに頷いた彼は、意気揚々と店の中へと入って行く。それを驚いたように見つめた名前は、彼の初めて見る一面にくすくすと可愛らしく笑みを浮かべ、その後を慌てて追いかけた。
******
案内された席に座った名前は、鋼鐵塚と向かい合う。
今まで、彼とは刀を受け取る際に言葉を交わす程度。まさかこうして一緒の時間を過ごそうとは、なんとも不思議な感覚である。
そんな考えに耽る名前とは裏腹に、鋼鐵塚は器用にお面をずらしながら、ひたすらみたらし団子に手を伸ばしている。
「むふふっ」
機嫌もすこぶるいいようで、癇癪を起こした時の彼とは全然違うな〜…なんて、無意識に口元を吊り上げる。
〝……そう言えば、この間刀を傷つけてしまった時も怒鳴られなかったな〟
刀を受け取った際のぎこちない彼の対応を思い出し、くすくすと小さく笑い声を上げる。
するとそれに気づいたのかピタリと動きを止めた鋼鐵塚は、名前にずいと近寄った。
「お前……」
「な、なんでしょうか?」
「いつもつけている髪飾りはどうした?」
先程、何故名前だと気づかなかったのだろう。
そんな事を考えながら口を動かしていた鋼鐵塚は、漸く分かった違和感に不思議そうに問いかけた。
「よくお気づきですね……これなんですけど、任務の最中に壊れてしまって……」
衣嚢から手拭いに包まれた髪飾りを取り出した名前は、残念そうに眉を下げた。
それは見事に真っ二つに割れていて、到底使い物にはならないだろう。それでも彼女は大切そうに包み直すと、母の形見だったのだと説明した。
「父が母に贈った髪飾りなんです。昔から、藤の花の嫋やかに垂れる花姿は、振袖姿の女性を連想させると言うでしょう?……父は随分、情熱的だったみたいです」
そう言って優しい笑みを落とした名前に、鋼鐵塚はなんて声をかけるか躊躇った。
「もう年代物ですから、いつ壊れてもおかしくなかったんです」
「……」
「でもこれじゃあ落ち着かないので、新しいものを探さないといけませんね」
「そう、だな……災難だったな」
しかし彼が口を開く前に、気丈に振る舞い名前が声を上げた為、鋼鐵塚はそれに曖昧に頷いた。
その後二人は、名前の昨晩の任務の話や、今朝方隊士から担当を外された鋼鐵塚の愚痴なんかを談笑して過ごした。
落ち込んでいるのかと名前を気遣っていた鋼鐵塚だが、自分の中できちんと割り切っているのだろう。その後も楽しそうに笑う名前に、知らずのうちに口角が上がる。
珍しく楽しい時間を過ごせた事に名残惜しさを感じつつ、鋼鐵塚は名前に向かって声をかける。
「まあ、なんだ……怪我には気をつけろよ」
「ありがとうございます。鋼鐵塚さんもお身体に気をつけて下さいね?」
「ふん。それよりも俺の刀に傷を付けないように注意しろ」
「ふふっ、はい。気をつけます」
それにクスクスと笑みを浮かべる名前に、鋼鐵塚は照れ隠しのように深く竹笠を被り直す。
「鋼鐵塚さん、それではまた」
「ああ、またな」
互いに挨拶を口にすると、二人は帰路に着くべく背を向け歩き出す。
〝それにしても……鋼鐵塚さんはみたらし団子がお好きなのかしら?〟
先程の必死な姿を思い出し、名前は笑みを深くするのだった。