第三章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
翌日ーー。
手紙通りの隊服を手に、隠の前田は土下座をする勢いで煉獄家へと現れた。玄関先でたまたま掃き掃除をしていた琴音は、その形相に驚き箒を片手に固まった。
「琴音さん、昨日は手違いで違う物をお渡ししてしまって申し訳ありませんでした。これが本当にお渡しする予定だったものです。本当に、本当にっ、申し訳ございませんでしたぁぁぁ」
そう言って半泣き状態で謝罪を口にした前田に、琴音は顔を引き攣らせる。
「い、いえ。間違いは誰にでもあるものですから」
「琴音さん、なんて優しい人なんだ…」
「あ、ありがとうございます……あはは」
なんとか作り笑いで乗り切ろうとする琴音だが、自分でも分かるくらいに上手く笑えていない。そんな彼女を気にする事なく、ズズッと琴音に近寄った前田だが……
「どうやら痛い目をみなければ分からないようだな」
地を這うような杏寿郎の声が聞こえて、振り向いた前田は悲鳴をあげた。
「ヒィイイイ〜すみません、煉獄様お許しください……」
そして、即座に綺麗な土下座を披露した前田は、怯えながらもなんとか謝罪を口にした。
それを無視して、ズカズカと歩みを進めた杏寿郎は琴音の横まで来ると、彼女の肩を抱き寄せて怯える彼に言い放った。
「これからは妻に気安く近寄らないでもらいたい!!」
「「つ、妻!?」」
ぼんっと一瞬で真っ赤に染まった琴音と、正反対に一瞬で青褪めた前田の叫び声が響いた後、恐る恐るといった所だろう。前田は確認するかのように呟いた。
「そ、その……煉獄様と琴音さんは、ご結婚されたのですか?」
「むう、結婚はまだだが妻に貰う許しは彼女から貰っているからな!正確には婚約者だ!!」
「こ、婚約者……そんな!みんなの癒しの琴音さんが、、ま、まさかっ……」
ぶつぶつと何かを唱え始めた彼は、フラフラと立ち上がり、杏寿郎の隣にいる彼女へと視線を移した。
そこには、頬を赤く染め杏寿郎に寄り添う琴音の姿があり、杏寿郎の言葉は真実であると確信した前田は、今度こそ絶望した。
真っ青な顔で此方を見つめる前田に、琴音も心配になり、さすがに声をかけたのだが……
「あ、あの……」
そんな琴音の心情もつゆ知らず、突然スタッと立ち上がった前田は、彼らに向かって頭をさげ
「ご婚約おめでとうございますっ、それでは」
と逃げるように去って行った。
……ショックは受けていたようだが、どうやら命は惜しかったようだ。
あまりの逃げ足に、杏寿郎も思わず「よめや、よもやだ……」と口を開いた。
しかしまさかこの後、前田が他の隠達に泣きつき、彼らの婚約を言いふらすなど、今の琴音には全くの想定外だった。
******
「琴音、着替えたら俺の部屋に来てくれ!見せたいものがあるんだ」
前田が帰った後、隊服と箒を持ったまま固まっていた琴音に、杏寿郎は優しく笑いかけた。
そんな彼の声で、やっと我に帰った琴音が「見せたいもの?」と首を傾げれば
「それは後でのお楽しみだ!」
と杏寿郎は口にするや否や、琴音から箒を奪い取り、家の中へと入って行った。
お待たせしては悪いと、慌てて隊服へと着替えた琴音は、その足で杏寿郎の部屋へとやってきた。
「杏寿郎さん、入っても宜しいですか?」
「うむ、入っておいで」
優しい声が部屋の中から聞こえ、ゆっくりと襖を開いた琴音は、部屋の中へと足を踏み入れた。
〝見せたい物とは何だろう?〟
琴音がそう思って、辺りをキョロキョロ伺えば、その視線に気づいた杏寿郎は、ふっ、と小さく笑みを漏らす。
そして徐に立ち上がり、箪笥へと近づいて行った杏寿郎は、中から何かを手にすると、琴音にも立つように指示をした。
言われた通り立ち上がり、首を傾げて見上げてくる琴音に、ゆっくりと近づいた杏寿郎は、手にしたそれを彼女の肩に掛けてやる。
「杏寿郎さん、これって……」
「琴音は羽織は黒がいいと言っていただろう?」
杏寿郎が琴音の為に用意したものは、真っ黒な羽織だった。
蝶屋敷に入院中、煉獄家で炎柱が受け継いできた羽織を琴音にも着てほしいとお願いした杏寿郎だったが、それに彼女が頷く事はなかった。
それは一重に、そんな大切な物を身につけられないという理由だけでなく、
援護する為には〝闇に溶け込むような黒を〟と彼女が強く望んだからだ。
そこで杏寿郎は、蝶屋敷から帰るなり、反物屋で今回の羽織を特注で作らせたのだ。
その羽織は色こそ黒だが、ただの真っ黒だけではない。
炎柱の羽織と同じように炎を型取ったような形をしているし、下には赤と黄色で炎の刺繍が上品に施されている。
「琴音の為にと作らせたのだが、気に入って貰えただろうか?」
そう言って笑いかける杏寿郎に、琴音は嬉しさのあまり物凄い勢いで抱きついた。
「杏寿郎さん、ありがとうございます!!とっても嬉しいです」
ニコニコと嬉しそうに笑う琴音を、そっと抱きしめた杏寿郎は、優しく彼女に話かける。
「上弦を倒した今、鬼舞辻がどのような動きを見せるか分からない。これから更に過酷な戦いが待っている可能性だって充分にあるだろう……
そんな時、側で共に戦ってやれる事も今となっては叶わないが……
俺はいつでも琴音の帰りを待っている、それだけは忘れないでほしい」
「はい。……私も絶対に杏寿郎さんの元に帰って来ます」
暫く見つめあった二人は、どちらともなく口付けを交わすのだった。