第三章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
あの後、無事に煉獄家へと琴音を送り届けた後藤は手をブンブンと振りながら帰って行った。
玄関先で琴音達を出迎えた杏寿郎は、この短時間でえらく仲良くなったものだな…と、なんとも渋い顔をしていたのだが
振り返った琴音が、笑顔で抱きついてくるものだから、そんな事はどうでも良くなってしまう。
「杏寿郎さん、ただいまっ!!聞いて欲しいことがいっぱいあるの」
嬉しそうに口を開いた琴音が「お館様がね」と話し出そうとするものだから、杏寿郎は琴音に声をかける。
「おかえり、琴音!!とりあえず家の中に入ろうか」
「そうですね、えへへ」
それには琴音も、恥ずかしそうに頬を染め頷くのだった。
******
「何!?あの隠しが……」
「はい。私も吃驚しました」
あれから杏寿郎の部屋へと訪れた二人。
琴音は嬉しそうに今日あった事の話をして、杏寿郎もそれを嬉しそうに笑顔で聞いていた。
お館様に無事挨拶ができた事、三日後に正式に柱として他の柱達に紹介される事、それから後藤が命の恩人だった事など様々な事を報告した。
「あと、杏寿郎さん。お館様から炎柱邸を用意して頂ける話になりまして……今まで煉獄家の皆さんに甘え過ぎていた所もありますし、これを機に屋敷へ移り住もうと思います。」
そう言って眉を下げた琴音に、杏寿郎は言葉を失った。
〝琴音が煉獄家を出て行く……?〟
杏寿郎はそんな話、全く想像もしていなかった。それ程までに琴音がそばに居てくれることが当たり前だったし、彼女も煉獄家に溶け込んでいたのだ。
まさか彼女の口からそんな話を聞く事になろうとは……
杏寿郎が真顔のまま固まっているのに気づき、琴音は慌てて口を開く。
「で、ですが…偶には、そう!非番の日には遊びに来ますし……今までがお世話になりすぎていたと思うので……」
だが彼女は彼女で、煉獄家の皆が大好きだったし、杏寿郎ともできれば離れたくはない……
ただ、お世話になり続けるのも申し訳なくて、この機会にと話し出しただけなのだ。
あからさまに困惑している杏寿郎を見れば、琴音だって気持ちが滅入ってしまう。
そんな様子の琴音に気づいた杏寿郎は、なんとか自分を落ち着かせ、徐に口を開く。
「琴音は煉獄家から出たいのだろうか?」
「……そう言う訳ではないのですが。
柱になってしまえば弟子と言えど、継ぐ子ではなくなる訳ですし……、その、杏寿郎さんとは恋仲ではありますが……結婚を誓いあった訳でもないですから」
最後をゴニョゴニョと濁した琴音だったが、杏寿郎の耳にはしっかりとその言葉は届いていた。
それを聞いた彼は、先程までの動揺は何処へやら。清々しい程の笑顔を浮かべ、こう言い放った。
「それなら何も心配あるまい!!俺は琴音を誰にも譲る気はないからな!!なんなら明日にでも祝言を挙げても構わない、ハハハ!!」
「それはさすがに……前にも言いましたが、愼寿郎様もお許しにならないと思います」
「父上?それなら今から許しをもらいに行こう!!」
そう言って立ち上がった杏寿郎に、琴音も慌てて立ち上がる。
「杏寿郎さん、落ち着いて!そんな簡単な話ではないですから…!」
「むう。……それとも、琴音は俺と籍を入れるのが嫌なのだろうか?」
「いえ、そういうわけではないですが……」
「ならば問題ないな!!」
琴音の静止も聞かず、彼女の手を握った杏寿郎はズンズン廊下を進んでいく。
あっという間に愼寿郎の部屋までつけば、杏寿郎は父に向かって大きな声で呼びかけた。
******
「父上、少し宜しいでしょうか?」
「きょ、杏寿郎さん!ねぇ、待って…!」
ドタバタと近づいてきた足音に、なんだ?と愼寿郎が視線をやれば、此方が返事を返す前に襖が勝手に開かれる。
そこには杏寿郎に手を引かれ、顔を青ざめている琴音の姿があり、怪我人相手に何をしているんだ、と愼寿郎が口を開こうとすれば
「父上!琴音と結婚する許可をください!!」
「……杏寿郎、お前はいきなり何を言い出すんだ」
突拍子もない言葉が聞こえてきた。また一人で突っ走る息子の姿に、愼寿郎は一つため息を落とし
「とりあえず二人とも其処へ座りなさい」
部屋の中へ入るよう促した。スタスタと近づいてくる息子と困惑気味の琴音を観察していていた愼寿郎は、二人が正面に座るや否や口を開いた。
「琴音、今日はお館様の所へ行っていた筈ではないのか?」
「…はい。恐れながら私を〝次の炎柱に〟とお話を頂いておりましたので、それを受けに……」
「そうか。君ならば安心だな」
そう言って笑った愼寿郎に、琴音は嬉しそうに眉を下げた。
「それが何故、そのような話になった?」
「じ、実は……その、これを機に煉獄家を出ようと思いまして。もう継ぐ子ではなくなる訳ですし、いつまでも皆さんに甘えていては駄目かと思って……」
「ですが父上!琴音が嫁ぎに来てくれるならば、何も問題はない筈です!!」
突如口を挟んだ息子に、何となく状況を察した愼寿郎は「杏寿郎は黙っていなさい」と口を開く。そして、オロオロと視線を彷徨わす琴音に改めて口を開いた。
「なんとなく状況は察したが、琴音はどうしたいんだ?杏寿郎と結婚したいのか?」
「……杏寿郎さんの申し出はとても嬉しいですが、私では煉獄家に相応しくないかと」
「それでは杏寿郎を納得させる事は難しいだろうな。君の事となると、杏寿郎は周りが見えなくなるらしいからな。嫌ならハッキリ断るといい」
「い、いえ。嫌な訳では……とても嬉しい申し出でした。ただ煉獄家は代々続く名家ですので、私のような者では…」
「それなら心配あるまい。酒に溺れた父を奮い立たせ、息子の命をも救い、代々続く柱の座まで継いでくれる。そんな娘どこを探しても琴音だけだろうな」
「父上、それでは……」
それまで、まるで叱られている子供のように大人しくしていた杏寿郎が口を開く。それには思わず愼寿郎も笑みを漏らし
「お前たちの結婚を認めよう」
そう返すのだった。優しく笑いかける愼寿郎の姿に琴音は、嬉しくて泣きそうになるが、すかさず杏寿郎に抱きしめられる。
「琴音!結婚しよう!!」
「痛い、痛い!!杏寿郎さん、分かったから離して!!」
「杏寿郎!いい加減にせんか!!時と場合を考えられんのか!!?」
怪我人相手に、力一杯抱きしめる息子……
そんな杏寿郎の姿を前に、結局愼寿郎は怒鳴り声を上げるのだった