第三章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「では琴音さん。俺は此処で待っていますので、お館様とのお話が終わりましたら、またお声かけ下さい。」
そう声をかけた後藤に礼を述べた琴音は、産屋敷家の御子孫に案内されるまま、ある一室の前までやってきた。
「お館様、琴音様をお連れしました」
御子息のにちか様が声をかければ、中から優しい声色で「ありがとう。琴音、入っておいで」と声がかかる。
******
「失礼します」
緊張した面持ちで、襖を開いた琴音は初めて会うお館様の姿にとても驚いた。
お館様とは何回か手紙のやり取りをした事がある琴音は、勝手に彼の姿を思い描いていた。
〝代々鬼殺隊を率いる産屋敷家の当主〟
琴音の事を階級が甲になる前から気にかけ、手紙を寄越していた彼は、いつも決まって
『琴音がやりたいように動けばいい』
と記してくれていた。とても優しい方だとは思っていたが、柱以外彼に会う事自体稀である為、
〝偉い方なのだし、きっと柱達に守られて、安全なところで暮らしているんだろう〟
なんて、ずっと考えていたのだが……。
実際は彼女の想像とはかけ離れていた。
確かに、本部の場所が特定されぬように、ここに立ち寄る者は限られている。一般隊士であれば目隠しをした上で、隠しに連れて来られる以外の方法はないらしく、警備は万全かと思いきや……
鬼避けなのであろう藤の花は咲き乱れるものの、屋敷を護衛する者達の姿は見当たらないのだ。
それだけではない。
琴音の目の前で穏やかに笑う彼は、病に侵されているようで、全身の皮膚が爛れているようだった。きっと琴音の事も見えていないのであろう。此方に向いて微笑んだお館様と視線がかち合うことはない。
まさかこんな状態で、私たち隊士の事を考え動いていてくれていたなんて、考えもしていなかった。琴音は驚き、言葉を失ってしまう。
そんな彼女の反応を見兼ねて、お館様は口を開いた。
「よく来てくれたね、琴音?今日はありがとう。折角琴音が来てくれた所悪いんだけど、少し体調が優れなくてね……こんな状態で失礼するよ」
「いえ、その、私の方こそ急な訪問申し訳ありません。お館様の体調の事を知らなかったとは言え
「琴音?」
琴音の言葉を遮るように、彼女の名前を呼んだお館様に、琴音は思わず口を閉ざす。
「私は今日を楽しみにしていたんだ。琴音とは手紙でしか話をした事がなかったからね?
……だから鎹鴉から〝柱を受ける〟と知らせを聞いた時から、ワクワクしていたんだ」
そう言ってふわりと笑いかけた彼の姿に、琴音な深く頭を下げた。
「お館様、いつも私の事を気にかけてくださり、ありがとうございました。遅くなってはしまいましたが、ご期待に添えるように……
精一杯、柱を務めさせていただきます」
「ありがとう、琴音。だけど君はいつも頑張りすぎてしまうからね。琴音は琴音らしく、琴音がやりたいように動けばいい」
「……はい。私は他の柱のように、先陣を切って鬼の頸を切り落とす事は難しいと思います。ですが!隊士を、仲間を守り抜く事だけは誰にも負けません!!
…私は、皆を守る盾になります」
「琴音らしい答えだね。さすがは私の自慢の子供だ。」
そう言って笑ったお館様とは、今回上弦を討ち取った事への労いや、琴音の傷の事などの話を交わした。
「では三日後、琴音を他の柱にも紹介するからそのつもりでね?」
「はい、お館様色々とお心遣いありがとうございました」
頭を下げて部屋を退室した琴音は、お館様の言葉を思い浮かべて、小さく笑みを落とした。
〝やっぱりお館様には、敵わないな〜〟
そんな事を考えながら、後藤の元へと向かっていた琴音だが、彼女はふと足を止める。
〝それにしても、……どうしたものか〟
彼女が頭を悩ませる原因は、先程の二人の会話にあった。
******
お館様と話をする中で、彼が口にした
「琴音が希望すれば、〝炎柱邸〟を用意してあげられるけど、どうするかな?」
その一言が、彼女を悩ませる原因だった。
確かに柱になるのだから、他の柱達のようにお屋敷を与えられるのは当然ではあるが……
継ぐ子として、煉獄家で暮らす事が当たり前になっていた彼女にとっては、突然突きつけられた難題であった。
そもそも、杏寿郎が柱を引退している時点で、煉獄家にいつまでも居座るのは迷惑ではないだろうか?
今更ではあるが、そんな事を思い出す。
杏寿郎とは恋仲ではあるが、別に生涯を誓い合った訳でもないし、これからは柱として各地を駆け回るのだ。
〝煉獄家を出た方が、いいのかもしれない……〟
そう思ってしまえば、心はどんよりするもので。
自分がどれだけ、煉獄家の皆に依存していたか思い知る。
まぁ、家を出た所で、時間を見つけてまた会いに行けばいいのだし、杏寿郎も正式に柱になった事を喜んでくれるだろう。
そうなんとか自分に言い聞かせ、彼女は後藤の元へと急ぐのだった。