第三章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「あ、あの……杏寿郎さん?」
先程まで賑やかだった病室は、天元が逃げるように去って行った事により、静けさを取り戻していた。
そんな病室の窓際。
ベッドの上に座る琴音は困ったように恋人の名前を口にした。
呼ばれた彼はというと「おかえり!」と口にした後、ずっと琴音を抱きしめたまま、何かを考え込むようにだんまりを決め込んでいる。
どうしたものかと琴音が考えを巡らせていれば、病室を開く音が聞こえて
「何をしてるんですか、煉獄さん……」
慌てた琴音に渾身の力で突き飛ばされた杏寿郎は、勢いよく隣のベッドへと倒れ込んでいた。
真っ赤な顔で固まっている琴音の様子から、なんとなく状況を察したしのぶは、小言を口にしながら部屋の中へと足を踏み入れた。
「二人ともここは蝶屋敷ですから、いちゃつくのも程々にして下さいね」
「いちゃついてなんか「すまない、胡蝶!!」
琴音の言葉を遮った杏寿郎は「だが俺は宇髄から琴音を守っただけだ!!」と言い放ち、しのぶは思わずため息を落とした。
〝宇髄さんに揶揄われたんですね〟
少し彼らに同情をしてしまったしのぶだが、そこでふと、話題に上がった
「ところで、その宇髄さんはどちらでしょう?」
「ああ、宇髄なら琴音にちょっかいを出した後、逃げるように去って行ったな!!」
そう言って、窓を指差した杏寿郎に、しのぶは青筋を浮かべる。なんとか笑顔は張り付いているものの、彼女から出る怒りのオーラに思わず琴音は怯え出す。
「そうですか、人に薬を作らせておいて、宇髄さんは帰ったんですか……。しかも窓から?逃げるように?彼はどうやら〝絶対安静〟という言葉の意味を理解していないようですね……」
そう口にしたしのぶの手には、トレーに乗った薬が並んでおり、きっと此処にはいない彼の為に用意したものだろう。彼女が怒るのも当然である。
「仕方ありません。薬は隠しに届けさせる事にして……飲み薬は、苦いものに作り直した方が良さそうですね」
「うむ!宇髄には
先程の仕返しとでも言うかのように、しのぶの提案に大きく頷いた杏寿郎に、琴音は思わず苦笑いを浮かべる。
〝この二人を敵に回すなんて……南無阿弥陀……〟
どこかの岩柱様のように、琴音は心の中で天元を思い念仏を唱えるのだった。
******
それからすぐに特製の薬を作り直す為、しのぶは病室を出て行った。
「宇髄にも困ったものだな……」
部屋を去る彼女の背中を眺めながら、杏寿郎が口を開けば、まだ先程の
勿論琴音だって、先程の天元の行動は本意ではない。
そもそも〝嫁になる・ならない〟のくだりは、琴音にとっては、もはや
〝久しぶり。元気だった?〟
くらいの感覚だったし、天元にもその気はなかった筈だ。……大方、杏寿郎との関係を揶揄ったのだろう。
そうは思っていても、琴音には目の前の杏寿郎が何処か拗ねているようにも見えるし、彼に誤解されても困るので、説明しようと口を開く。
「さっきのあれは、揶揄われたんだと思います。杏寿郎さんと恋仲になった話をしたから……」
頬を染めながら、心配そうに琴音が彼を見上げれば、
「ぐっ、くく!……だろうな!!もう怒ってないから、そんな顔で見上げないでくれ!!」
いきなり吹き出した杏寿郎に、そんな事を言われる始末である。怒っていたと思っていたのに、いきなり笑い出す杏寿郎に、琴音はキョトンとしてしまう。
だが、そもそも杏寿郎は〝琴音に〟ではなく〝天元に〟腹を立てていただけなのである。それなのに、子供が親の機嫌を伺うように見上げできた彼女が余りにも可愛らしくて、怒りは何処へやら。くくっ、と笑いだしてしまったのだ。
ひとしきり笑い終えた杏寿郎は、琴音の頭へと手をやり、徐に口を開いた。
「琴音も怪我を負っていたのに、騒ぎ立ててすまなかった!怪我は大丈夫そうか!?」
「いえ、その、杏寿郎さんのせいでは……
それに今回は、骨折もないですし、出血が多かっただけなので、血の量が増えれば問題ありません」
そう言って笑った琴音は、それから…と言葉を続けた。
「私思ったんです。今回の任務、上弦との戦いは本当に死に物狂いでした。柱とか…階級なんて関係ない。皆んなで必死に鬼と戦って…
それでやっと気が付きました。
柱になるためには、一番に鬼に立ち向かわなければって、ずっとそう思っていたんですけど……
誰が頸を斬るかなんて、些細な問題だったんですね。私達は
だから私、炎柱の話を受けようと思います。杏寿郎さんのように、なれるかは分からないけど……」
「前にも言ったが、俺のようになる必要はないんだ。琴音は琴音らしく頑張ればいい!
きっとお館様も、俺の代わりとして琴音に声をかけた訳ではないだろう。〝琴音だから〟柱を任せたいと、言ってくれたのだと俺は思う!!」
そう言ってニカっと笑った杏寿郎は
「今回の任務について教えてくれ!!」
と口を開き、しばらく嬉しそうに彼女の話に耳を傾けるのであった。