第三章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「よお、煉獄!」
「宇髄、その傷……」
右腕を上げ軽く挨拶をした天元に、杏寿郎は思わず言葉を失った。
つい二日前に琴音の居場所を問いただした時には、五体満足だった彼の姿が今はどうだろう。
左目を覆うように頭に包帯を巻かれ、同じく包帯を巻かれた左腕に関しては、明らかに先がないのだ。
琴音達が上弦の陸を討ち取った事、その際琴音が大怪我を負った事しか鎹鴉から伝えられていなかった杏寿郎は、扉を開けたまま固まっていた。
そんな杏寿郎を気にする素振りも見せず、天元は琴音を揶揄いだす。
「ほらみろ、琴音。噂をすれば旦那が心配して来たみたいだぞ!」
「だ、旦那って、……天元さんっ!!からかわないで下さい」
そんな二人を呆然と見ていた杏寿郎だが、次第に顔を顰め始める。
〝照れながら反論する琴音は、可愛い事この上ないが、些か仲が良すぎるのではないだろうか〟
そう思った杏寿郎は、ズカズカと病室の中へと足を進め、琴音の隣のベッドへと腰を下ろした。本当は椅子に座った方がよかっただろうが、天元が既に使っている為、杏寿郎はやむ終えずベッドへと腰を下ろしたのだ。
そして二人の会話に割って入るように口を開いた。
「よもや、よもやだ。まさか昨日の今日で上弦を倒してみせるとは」
「昨日の今日?煉獄……お前は目立つから、あれほど来るなって言ったのに、速攻来てんじゃねえか!!」
「む?ちゃんと目立たぬように行ったつもりだが」
「あ、あの……」
「そう言う問題じゃねぇ!鬼にバレたらどうしてたんだ、全く!」
「むう。そもそも琴音を遊郭に連れて行くのが悪かったんではないだろうか!?もしも琴音が買われていたら、どうするつもりだった!?」
「あの二人とも…聞いてます?」
「あ?コイツが甘味に釣られて、ほいほいついて来たんだよっ!それに客が付く前に速攻で終わらせたからいいじゃねぇか」
「そう言う問題ではない!!それに客として俺が行った時点で、琴音はもう買われていたではないか!!」
「………………」
「だから、なんで煉獄が行くんだよ!来るなって言ったのに!!」
「あの!!」
琴音の前で言い争う二人を宥めようとした彼女だが、全然会話にすら入れて貰えず、最終的に怒り出す。
「そんなに騒いだら蝶屋敷に迷惑ですし、天元さんは傷に障ります!!この話はこれでお終いです」
「けっ!」「むう」
一応琴音の言葉には返事を返す二人だが、まだ何処か納得いかない様子である。そんな二人にプリプリ怒ったままの琴音に、天元が苦笑いを浮かべながら口を開く。
「まぁ、なんだ。煉獄が言うことも一理あるからな。琴音が今回の任務、手伝ってくれて助かったわ!嫁達が無事だったのも、琴音やアイツらのおかげだしな」
そこで言葉を区切った天元は、煉獄へと向き直り改めて口を開く。
「悪かったな、煉獄。琴音を連れ回しちまって」
「いや、…宇髄にも何か訳があったようだし、怪我人相手に此方こそ申し訳ない。上弦相手にご苦労だった、ゆっくり療養するといい!!」
「そうだな、そうさせて貰うわ!」
そう言って立ち上がった天元は、
「じゃあ、おれはそろそろ行くわ」
と琴音の頭へ手を伸ばす。
その言葉にさっきまでの怒りは何処へやら、琴音は寂しそうに眉を下げた。
琴音にとって天元は、一番背中を預けられる存在だった。
勿論、杏寿郎だって、実弥だって、柱との合同任務はいつだって戦いやすかったのだが、
杏寿郎は琴音を守ろうと前に出ようとするし、実弥は傷を作る事を厭わないから心配してしまうのだ。
だがそんな中、天元は琴音を信頼して背中を預けてくれていた。それに気づいた時は嬉しくて、琴音も彼を信頼して背中を任せるようになった。そうやって任務をこなす内に、天元に気を使う事もなくなり、今のような仲になれたのだ。
そんな彼が引退となると……やはり寂しいものである。
琴音が「また来るわ」と口にした天元を、そんな心境で見上げていれば、何故かゆっくり顔が近づいてくる。
驚き固まった琴音のおでこに、ちゅっと軽い音が響けば、
次の瞬間、物凄い勢いで、白い物体が琴音の前を通り過ぎる。それは壁に当たるなり、どかっと音を立てて床に落ちるが、どうやら天元は軽く避けたようだ。
その足で窓へと足をかけ、
「じゃあな琴音!煉獄に飽きたら、うちに来い!嫁に貰ってやるよ!!」
そう一言残し、窓から颯爽と去って行った。大怪我を負っていた筈なのに…、と彼を見送った琴音が床を確認すれば、先程の白い物体は枕であった。
恐る恐る琴音が反対側へと視線を移せば、怒った顔の杏寿郎がいて、彼が枕を投げたのだろうと確信する。
「琴音、宇髄とは当面接触禁止だ!!」
そう言って琴音のおでこを、ゴシゴシとぬぐった杏寿郎は、ぎゅっと彼女を抱きしめて
「琴音おかえり!!」
琴音に困ったように、笑いかけるのだった。