第三章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
琴音は気を失いながら夢を見ていた。
夢の中……
ぼろぼろな姿の琴音の前に、腰を下ろした男性は、彼女の手を包み込み口を開いた。
「琴音はこんなに手がぼろぼろになるまで、沢山努力したんだね。さすがは私の自慢の娘だ」
優しい声に琴音が顔を上げれば、そこには眉を下げ優しく笑う父の姿。思わず言葉を失って、呆然と眺めることしかできない琴音に、父は握る手に力を込めた。
ぎゅっと、包まれた自身の掌へ視線をやれば、そんな琴音に優しい声が降ってくる。
「琴音を……この手を待っている人がいる。
誰しも、手は二つしかないんだ。救える命に限りがある。でも、琴音がこの手を貸してやれば四つに。またその手に誰かが手を重ねてくれれば六つに………
そうやって皆で助け合いながら、今まで
その言葉に、琴音はハッと顔を上げる。
〝そうだ、まだ戦いの最中だ。
………皆が戦っている、私も行かなきゃ!〟
「父さんありがとう……、私行かないと!」
「ああ。父さん達はいつでもお前を想っているよ?
さぁ、行っておいで、琴音。」
優しく笑う父の顔が段々とぼやけて、琴音の意識はゆっくりと覚醒していくのだった。
******
天元達が戦う中。
倒れ込んだまま、ピクリとも動かない琴音に雛鶴は駆け寄った。
顔色は真っ青だし、出血も酷い……
特に最後に、琴音の肩を貫いた帯の攻撃は彼女に致命傷を与えていた。
〝とにかく、出血を止めないと!〟
雛鶴は布を使って、琴音の肩を強く圧迫する。
「ぐっ、、」
すると意識を失っていた琴音から、小さな呻き声が聞こえ、次第に瞳も開いていく。
「………琴音ちゃん、琴音ちゃん!!聞こえる!?」
「雛…鶴、さん?……鬼、は?皆はどうなった?」
雛鶴が心配そうに声をかければ、琴音はヨロヨロと立ちあがる。慌てて、雛鶴が「動いては駄目」と声をかけるも、琴音はそれを片手で制し
「あそこで皆が………仲間がまだ戦っているんです、行かせてください」
そう言って琴音は駆け出していってしまう。
何処にそんな力があるのだろう。立つ事だってやっとの状態の筈なのに。
走り去る琴音の背中を、雛鶴は呆然と見送ることしか出来なかった。
******
琴音が彼らの元へ駆けつけた瞬間、同時に兄弟の鬼の頸が宙を舞う。
その光景を眺めた琴音は、喜ぶ間も無く動き出す。
自分が気を失っている間、彼らはぼろぼろになりながら戦い続けてくれたのだ。早く、手当てをしてやらなければ……
琴音がそう思って彼らに近寄った瞬間。
ゾクっ。嫌な気配が辺り一面を包み込む。
天元が「逃げろーッ」と叫ぶと同時、頚が切断された妓夫太郎の体から円斬旋回が放たれていく。
皆が皆、限界だった。
もう避けるほどの体力もない……そんな時。
物凄い勢いで、彼らの周りを駆け回る黒髪が見えた。
いつもとは違う黄色の着物に身を包んではいるが、細かい斬撃を繰り出し、血気術を相殺していく琴音の姿に皆が驚いた。
皆を守るように駆け回る彼女は、もうなりふり構わず呼吸を使う。
毒の巡りを遅らせる呼吸も、
止血をするために集中していた呼吸も、
それら全てを放り出し、早く技を出すことだけに集中する。駆け回る自身の身体に、深い傷を作っていくが、仲間を守るため彼女は全力で駆け抜けた……
暫くして、妓夫太郎の血気術が解かれた頃には、全身血だらけの琴音がぽつんと突っ立っていて、
「終わった……?」
小さな呟きを落とすと同時に、ヨロヨロとその場に座り込んだ。
側には左腕と左目を失った天元もおり、嫁達が彼らを取り囲む。
「いやあああ、死なないでえ!死なないでくださぁぁい、天元様あ〜!!琴音ちゃんも嫁仲間になってくれる約束だったじゃないですかぁ〜!!
せっかく生き残ったのに、せっかく勝ったのに、やだあやだあ〜〜鬼の毒なんてどうしたらいいんですか、解毒薬が効かないよオ……ひどいです神様、ひどい」
須磨が泣き叫ぶ声が響く中、天元が口を開く。
「最期に言い残すことがある」
だが泣き叫ぶ須磨を止めるために、声を張り上げたまきをによって彼の声はかき消される。
〝嘘だろ?何も言い残せずに死ぬのか、俺…〟
天元が絶望感漂う表情で隣を見れば、目を瞑り浅い呼吸を繰り返す琴音の姿が目に入る。
きっと俺も琴音も、あの猛毒を食らった奴らは時期に死ぬ。琴音に至っては失血量も俺の比じゃないだろう。
それでも、彼女は必死に呼吸を使っている。生きて帰る為に……生きることを諦めていないのだ。
そんな琴音の姿に、天元は手を伸ばす。
琴音をこの任務に巻き込んだことを、彼女をここで死なせてしまうことを悔やんで伸ばした手は
突然現れた禰󠄀豆子に寄って奪われる。
気づけば、琴音と天元の間に禰󠄀豆子が入り、彼らは三人仲良く手を繋ぐ形になる。
「何やって……」
天元が口を開いたと同時に、禰󠄀豆子が二人の身体を燃やす。
須磨が驚き「まだ死んでないのにもう焼くなんて」と騒ぎ出すが、それを遮るように上げた天元の声に皆が驚き動きを止めた。
「ちょっと待て、こりゃ一体どういうことだ?毒が消えた」