番外編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
その日、たまたま任務帰りに彼らを見かけた実弥は、露骨に嫌な表情を浮かべていた。
その理由は至極簡単、
同僚の煉獄とその継ぐ子の琴音が、何やら店先で大声を出して騒いでいた為だ。
いや、大半は煉獄が声を上げていて、彼女は困ったように眉を下げているのだが……
〝あんなに騒いだら店に迷惑がかかるじゃねェか〟
厳つい見た目に反して、常識人な実弥は大きなため息を一つ落とした。
目撃してしまったからには、自分が声をかけるしかないだろう。そんな使命感に駆られた実弥は、煉獄を宥めるつもりで、其方に足を踏み出した。
だが次の瞬間には、店主だろう男が奥から出てきて、笑顔で何かを煉獄に手渡しているではないか。
相変わらず、眉を下げたまま煉獄を見上げていた琴音だが、ぺこりと頭を下げている様子からすると、煉獄が彼女に何かを買ってやったのだろうと実弥は推測した。
〝まあ何はともあれ、店主に迷惑がかかっていないなら、自分の出番はないだろう〟
そう考えた実弥は、彼らの元へと進めていた足を、自宅へと向けようとした。その時
「あ"?」
実弥は思わず目を見開いて、動きを止めた。
彼の視線の先では、琴音の後頭部へ手を伸ばす煉獄の姿。しかも、前から彼女を抱き込むような形で、煉獄は手を伸ばしていた。
〝こんな街中で何をやってやがる〟
信じられない物を見るように、実弥が彼らを見つめていれば、どうやら先程煉獄が買っていたのは髪紐だという事が分かった。
それを何故かあの様な形で、結んでやっていたのだろう……遠目からでも琴音の黒髪に結ばれた、赤い髪紐が確認できた。
いつも真っ黒の服ばかりの彼女だから、それはよく目立っていたし、とても似合っているとも思う。
少し離れている為会話は聞こえないが、何より琴音が嬉しそうに微笑む姿が見えて、実弥は今度こそ自宅に向かって歩き出した。
だが帰路につきながら、実弥は先程の二人の姿を思い浮かべ、眉間に皺を寄せていく。
……継ぐ子だとしても、煉獄のあの距離感はおかしくはないだろうか。
琴音と出会ってから、自分を慕ってくれる彼女を妹のように思ってきた実弥には、先程の煉獄の行動が、どうにも理解できないでいた。
だが、実弥が知る〝煉獄杏寿郎〟という男は、真面目で誠実、そして仲間思いの熱い男だった。
そんな彼だからこそ、信頼もしている訳だし、
実弥自身、彼の事を気に入ってもいるのだ。
……あの煉獄の事だ。深い意味はないのだろう。
実弥はそうやって、何とか自分に言い聞かせ、自宅へと歩みを進めるのであった。
******
それから一ヶ月ほど経った頃。
実弥は半年に一度の柱合会議の為、鬼殺隊本部へと足を運んでいた。
勿論そこには煉獄もいるわけで。
〝この間見たものは何だったんだ……〟
聞きたいことはあるものの、そんな野暮なことを聞く彼でもない。
そうとなれば無事に会議も終わった事だし、このまま帰路へ着こうと、そう考えていた。だがそんな時
「おい、煉獄〜!」
煉獄を呼ぶ宇髄の声が聞こえてきた。
その声に、実弥がふと視線をやれば、煉獄に肩を回してニヤニヤと笑っている宇髄の姿が目に入る。
これは巻き込まれたら面倒臭い奴だろう。
そう判断した実弥は、その場を立ち去ろうとしたのだが、宇髄が口にした〝琴音〟の名前に、ピクリと反応してしまう。
「琴音に髪紐をやったそうじゃねーか!あいつも喜んでたぞっ!」
「そうか、それは良かった!!」
「だがお前も中々やるなぁ〜、あの髪紐……いかにもお前を連想させる色じゃねぇか!」
いや〜黒髪だから、また赤が目立つのなんの!
そう言ってゲラゲラ笑う宇髄に、
実弥もあの日の琴音の姿を思い出し、やはりあの髪紐はそう言った意味で送った物だったのだろうかと考えを巡らせる。
だが、そんな彼らの思いに反し、杏寿郎は「頭を悩ませていたからな!」と素っ頓狂な返事を口にした。
「「は?」」
それには宇髄だけでなく、思わず実弥も声を上げる。
………頭を悩ませる、何にだ?
相変わらず、突拍子もない事を言い出す煉獄に
〝どんな思考回路をしてやがるんだ〟
と実弥は思わず煉獄を睨みつける。
「琴音はどうも人に好かれやすい所があってな!度々、隊士に想いを告げられる場面に出くわしていたのだが……
これで少しは虫除けが出来ただろうな!!」
そう言ってワハハ、と豪快に笑った煉獄に実弥は思わず頬を引き攣らせた。
「虫除け……ねェ?」と呟いた宇髄も、何処か苦笑いを浮かべている。
そんな彼らの元へ、先程まで甘露寺と話をしていた胡蝶が訪れ口を開いた。
「煉獄さん、そんな事をしなくとも〝琴音に手を出すと痛い目を見る〟と噂になっていますから、大丈夫じゃないですか〜?」
「「は?」」
「え、何の話なの?しのぶちゃん。」
先程から、宇髄と声が被るのは、この際気にしないことにする。いきなり口を挟んできた、甘露寺も後回しだ。
実弥は今しがた胡蝶が口にした、
「あら、皆さん知りませんか?
琴音に想いを告げようものなら、炎柱の地獄の稽古が待っている……最近、一般隊士の間ではこの噂で持ちきりのようですよ?」
「胡蝶、それは言い過ぎだ!俺は彼らに強くなって貰いたくて、稽古をつけてやっているだけなのだからな」
そう言って笑った煉獄は、明後日の方角を向きながら続けてこう口にした。
「それに琴音に守られているようでは、彼女に想いを告げる資格もないだろう!!」
「うんうん、それには同感です。
琴音に群がる虫たちを上手く蹴散らしてしまうなんて、さすが煉獄さんですね?」
煉獄に相槌を打つ胡蝶は、どこか嬉しそうにしているし、隣にいる甘露寺に至っては
「煉獄さん素敵〜!!ライバルが多い恋ほど燃えるものよね〜!!」
と、一人でキャーキャー言っている。
そんな異様な空間で、実弥は若干引いていた。
いや、訂正しておこう。彼はかなり引いていた……
そして、先程から実弥と同じタイミングで、口を開いていた宇髄も同じように思うのだった。
〝煉獄杏寿郎という男ほど、敵に回して厄介な相手はいないのではないだろうか……〟と。
そんな彼らには気づかずに、琴音がいかに自慢の弟子であるか語り出した煉獄に、実弥は大きなため息を落とす。
嬉しそうに話す煉獄を眺めながら、あの日の琴音を思い出せば
彼女もまた、嬉しそうに笑っていたことを思い出す。
二人の関係に口を出す気はさらさらないが、願わくば、いつも他人ばかりを優先してしまう、可愛い妹分が
自分の気持ちを優先できる日が来るように……
実弥はそんな事を考えて、一人小さく笑みを漏らすのだった。
******
5010キリ番リクエストを頂きました。
〝煉獄さんに溺愛されているヒロインと、そのふたりを見守る?煉獄家、もしくは柱の話を書いて頂きたいです!〟
中々上手く話がまとまらず、お待たせしてしまいました……
このお話の時間軸は、夢主ちゃんが
大怪我を負った所〜無限列車編の間くらいのお話で、まだ煉獄さんの片想いの時期でございます。
今回は実弥さん視点で書き上げましたが、
ご期待に添えれば幸いです。
2021/05/29 おもち