第三章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「その子なら、うちで面倒を見てあげるよ?」
そう言って琴音を指さす女店主に、天元はやんわりと断りの言葉を口にした。
先程から、こちらが提案する前に琴音を売って欲しいと声をかけられる。
そんな状況が続いた琴音は、潜入する前からこの任務を受けた事を、心の底から後悔していた。
******
藤の家で「潜入場所は遊郭だ」と、天元から詳しい説明を受けた琴音達は、お互いの変装を見て顔を顰めた。
遊郭……
女性を金で買う街か。どうりで説明を渋る訳だ、と琴音は天元を盗み見る。
彼はいつものド派手な化粧を落とし、随分と男前な素顔を晒していた。
そんな彼の前に座る三人は、何故こんなふうになったのだろう?と琴音が驚く位に、不細工な化粧を施されていた。
〝潜入するなら、もう少し違う化粧をした方がいいんじゃないかな……〟
琴音がそう思っている一方で、彼らもまた琴音を見て同じ様な事を考えていた。
そんな琴音はといえば、いつもの真っ黒な隊服を脱ぎ捨て、桜色の着物に身を包んでいた。
普段後ろで一つに結んでいる髪も、今は綺麗に纏め上げられているし、顔には軽く化粧も施されている。口元に引いた赤い紅が、彼女の白肌によく映えていて、なんとも色っぽく感じるほどだ。
確かに地味を意識して、殆ど何もしていない筈なのだが、元から彼女は美人なのだ。
少し着飾るだけで、こんなにも艶麗な女性へと変貌してしまう。
〝これは流石に、まずいのではないだろうか?……もしかしたら、本当に誰かに買われてしまうのでは〟
と主に善逸が慌てふためいたのだが、あまり時間もないから、と考える事を諦めた天元によって、結局そのままの出立ちで花街へと訪れたのだ。
予め、目ぼしい店を絞っていた天元は、迷う事なくその店の女将達に炭治郎達を売り込んでいく。
だが、女将達は口を揃えたかのように、琴音を指差し、同じ台詞を口にした。
「その子なら、うちで面倒を見てあげるよ?」
「悪りぃな、女将さん。こいつは俺の嫁(になる予定)なんだわ」
店主に適当に返事をした天元を眺めながら、琴音は小さくため息を吐く。
〝何でこんな任務受けちゃったんだろう……〟
潜入すらしていない段階で、心が折れかけている琴音の脳裏には、天元からの忠告が何度も繰り返されていた。
『もしも…もしもだ!万が一……』
何度も念を押すかのように、言い聞かせられた言葉を思い出し、琴音は頭を抱えるだった。
******
それは琴音達が遊郭に着く数分前のこと。
やけに真剣な顔をした天元が、隣を歩く琴音を見下ろし、口を開いた。
「いいか琴音、だいたい遊女ってのは見習い期間があるもんだ。客に顔見せをしたら最後、お前にも客が付くようになる。だから、それまでに何としても鬼を探せ!
だが、もしも…もしもだ!
万が一、客がすぐに着くようなら、まあ、あれだ!
手刀で気絶させてやりゃいいわ……」
そう言って、自身の首に手刀を喰らわせる真似をする天元に、琴音はぎょっと目を見開く。
「え!?一般人相手にですか!?」
「それが嫌なら、相手してやってもいいけどよ……どこの誰かも知らない客に、お前の初めてを捧げていいのか!?」
「……………」
いきなりそんなことを言い出した天元を、琴音はじーっと睨みつける。
だが無言の琴音に代わって口を開いた善逸が、何故か本人以上に狼狽えて、声を上げ出した。
「な、な、な、何言ってんだアンタ!?柱だか何だか知らないがな、琴音さんに昼間っからそんな話してんじゃねえェェ〜!!このエロオヤジがぁぁ〜〜!!」
「あ"?うっせえな!!俺はこいつを心配してやってんだろうが!?」
「はあああ〜!?琴音さんを引っ張ってきといてよく言うよ!!
もしも琴音さんが、あんなことや、こんなことされたら、どうするんだよぉお〜!?」
何故か本人を差し置いて、白熱していく二人に琴音は大きなため息を漏らして、口を開いた。
「……とりあえず善子ちゃん、落ち着こうか。ここ道端だから」
そう口にした琴音の言う通り、ここは人通りこそ少ないものの、道のど真ん中なのである。
あれから藤の家を出た琴音は、遊郭へと続くこの道中で、天元から先程の説明を受けたのだ。
〝なんかこの任務、長引きそうだな……〟
その時、目の前で白熱している二人をながめながら、琴音は確かにそう思ったのだ。
******
だがーー。
未だに琴音を、「うちの店に」と勧誘してくる女将を前に、琴音はまた一つため息を落とす。
これは長引けば、最悪の状況に陥るかもしれない。
初めてではないにしろ……
天元の言うように、どこの誰かも分からない男に、自分の体を捧げたくはない。
そもそも杏寿郎に遊郭に潜入しているなんて、どう伝えればいいのか……
いや、知られたくもないのだが。
となれば、やはり最短で鬼を見つけ出すしかないか‥…
琴音は三人とは違う意味で、今回の任務に気合を入れ直すのだった。