第三章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
杏寿郎は蝶屋敷の娘達に泣きつかれ、「よもや、よもやだ」と項垂れた。
そもそもこのような状況を作った元凶……
音柱の宇髄天元。
全ては彼のド派手な登場から始まっていたのだった。
******
時は遡る事一時間ほど前。
琴音は上機嫌で蝶屋敷へと向かっていた。
両手に手土産を持って歩く彼女は、今にも鼻歌を歌い出しそうなほど機嫌がいい。
それもその筈。琴音が今手にしているのは、あの〝虎屋の餡巻き〟なのだ。
早朝から並ばなければ、手に入らないと噂の和菓子……
それを彼女は、両手にいっぱい抱えているのだ。甘味に目がない琴音が浮かれるのも当然なのである。
そもそも何故琴音が、この人気の和菓子を大量に手に入れられたのか。
それは、至極単純な理由であった。
昨日の任務で
普段なら任務が終われば、すぐに煉獄家へと帰る琴音も「もしよろしければ、お礼をさせて下さい」と言う、彼の父親からの提案に目を輝かせたのだ。
そこからの彼女の行動は早かった。
自身の鎹鴉に杏寿郎への伝達を頼み、自身は近くの藤の花の家で仮眠を取る。
そして朝一に虎屋へと訪れた彼女は、両手いっぱいの餡巻きをお礼にと受け取り、上機嫌で蝶屋敷へと向かっていたのだ。
「キャー!!」
だが、あともう少しで蝶屋敷という所で、屋敷の方向から誰かの叫び声が聞こえた。
琴音は先程までの表情を一変させ、一瞬で叫び声の方向へ駆け出すのだった。
******
「やめてくださ〜い」
「はなしてくださ〜い」
琴音が屋敷へと近づけば、三人娘の泣き叫ぶ声が聞こえ、
「うるせぇな、黙っとけ」
心底面倒臭いとでも言うような男の声が聞こえてきた。
人攫いとか何とか……
物騒な言葉が聞こえるが、琴音にとっては気心の知れた仲の男の姿に、ほっと胸を撫で下ろす。手にした日輪刀を鞘へと戻し、一瞬で彼の背後へと回った琴音は口を開いた。
「何してるんですか、天元さん……新しい嫁探しですか?」
「よぉ、琴音!いいところに来たな!」
ニヤリと笑った天元は、そう口にするや否や、肩に担いでいたアオイをポイっと投げ捨てた。
きゃっ!と短い悲鳴を上げたアオイを受け止めた炭治郎が「何するんですか!?」と天元に怒鳴りつけた事で、琴音は漸く辺りの状況を確認する。
よく見れば蝶屋敷の者だけでなく、炭治郎や善逸、伊之助も天元を取り囲んでいた。
先程のアオイを担いでいた様子からして、無理やり任務にでも駆り出そうとしたのだろうか。
いや、いくら天元が柱とはいえ、しのぶに確認もせずに屋敷の人間を連れて行くとは考えにくいが……
琴音が顎に手をやり、ふむと考え込んでいれば、いきなり身体が持ち上げられる。
「わっ、と!天元さん、いきなり何するんですか!?」
「あ"?任務で女がいるんだよ!喜べ琴音!久々に天元様と合同任務だ!!」
「ちょっと!私、これから用事があるんです〜
…それに夜には担当地区の警備もある「そんなもん、代わりの奴にやらせとけ!!」
〝えぇ〜〜…そんなメチャクチャな〟
と琴音が、苦笑いを浮かべれば、そんな琴音に構わず、天元は炭治郎達にも任務に付き合うようにと、声をかけていた。
先程のアオイのように、彼に担がれたままの琴音は、この状況にどうしたものかと考えを巡らせていたのだが
どうやら彼の中では、琴音が任務に同行するのは決定事項のようだと、諦めて大きなため息を漏らす。
「琴音、やっと借りを返す時が来たな!」
「……ソウデスネ。」
そんな彼女に、ニヤリと笑いかけた天元は炭治郎達に「ついて来い!」と口を開くや否や、走り出す。
当然、肩に担がれたままの琴音は、その不安定な体制に思わず抗議の声を上げようとして、顔を上げた。
そこでふと、炭治郎達のその向こう。
屋敷の前にポツリと置かれた風呂敷に気がついて、琴音は思わず暴れ出す。
「天元さん、餡巻き!虎屋の!餡巻きがぁ〜!」
「おいコラ!暴れんなっ!!」
どんどん遠のいていく虎屋の餡巻きに、無駄だと分かりながらも琴音は必死に手を伸ばす。
「やだぁ〜〜〜、 私の餡巻き がぁ〜 …………」
なんとも間抜けな叫び声が響き、呆然としていた炭治郎達だが、
どんどん小さくなってその声に、ハッと我に帰る。
気づけば豆粒ほどになってしまった男の背中を、三人は慌てて、追いかけ走り出すのだった。