第三章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
杏寿郎が蝶屋敷を退院してから一ヵ月。
この一ヵ月で、鬼殺隊は目まぐるしい程の大きな変化を見せていた。
まずはやはり、
『あの煉獄杏寿郎が炎柱を辞任した』
という事は、隊士の間でも信じられない!と大きな話題となった。
それと同時に、あの杏寿郎にそれほどの傷を負わせた〝上弦の鬼〟の脅威も知れ渡って言った。
だがそれ以上に隊士達を……いや一般隊士だけでなく、柱達をも驚かせたのは、あれほどまでに拒絶を見せていた杏寿郎が
『竈門禰󠄀豆子を鬼殺隊の一員として認めた』
という事実だった。
あの日……
本部でお館様に、炎柱を辞任する旨を報告した杏寿郎は、お館様に自分が見た鬼の少女の話を口にした。
「無限列車で、鬼の少女が血を流しながら人間を守っているところを見た。
命をかけて鬼と戦い、人を守る者は誰がなんと言おうと鬼殺隊の一員だ!俺は彼らを誇りに思う!」
そう言った杏寿郎に、お館様も嬉しそうに微笑んだのは、まだ記憶に新しい。
そしてその事実は、あっという間に鬼殺隊の間に広がり、竈門炭治郎の耳にも届く事となる。
******
そんな炭治郎は、入院中の杏寿郎から〝ヒノカミ神楽〟について、ある事を聞かされていた。
「汽車の中で夢を見たときに思い出したんだが……歴代の炎柱が残した手記が煉獄家にある筈だ。良かったら訪ねてきなさい」
初めて掴めそうな情報に嬉しそうに頷いた炭治郎は、杏寿郎が退院した頃合いを見て、煉獄家を訪ねていた。
その日はたまたま、琴音 は任務で不在にしていたが、杏寿郎は喜んで彼を家へと迎え入れた。
その際、玄関で掃き掃除をしていた千寿郎に挨拶をした炭治郎は、あまりにもそっくりな彼の弟に目を丸くして驚いていた。そんな反応には慣れている杏寿郎は、相変わらず豪快にワハハと声を上げて笑うのだった。
暫く千寿郎を交え会話を交わした杏寿郎は、千寿郎にお茶を用意するように伝え、自身は炭治郎を客間へと案内していた。
炭治郎は、左目に眼帯をする彼を正面から見据え、心配そうに口を開いた。
「煉獄さん、あれから身体の具合はいかがですか?」
「竈門少年にまで心配をかけてしまって、すまないな!だが見ての通り!もう大丈夫だ!」
「それは良かったです!
それから鎹鴉から聞きました。〝禰󠄀豆子の事を鬼殺隊として認める〟とお館様に言って下さったんですよね……なんてお礼を言ったらいいのか」
「礼など必要あるまい!それに、命をかけて鬼と戦い、人を守る者は誰がなんと言おうと鬼殺隊の一員だ!竈門少年、胸を張っていい!!」
「煉獄さん……ありがとうございます。
俺、頑張ります!もっともっと強くなって、俺も煉獄さんのように、優しく強い剣士になります!」
炭治郎の言葉に「うむ。いい心がけだ!!」と、杏寿郎も嬉しそうに微笑んだ。
「少し待っていてくれ!父を呼んでくる」
その後、杏寿郎は一言残し部屋を出て行ったが、数分後、これまた杏寿郎にそっくりな父を連れて帰ってきた。
炭治郎はまたしても驚き目を丸くしたが、それは愼寿郎も同じだった。
〝まさか日の呼吸の使い手が訪ねてこようとは…〟
愼寿郎はなんとも言えない表情で、炭治郎の耳で揺れる耳飾りを眺めていた。
そんな愼寿郎から聞いた手記の内容に、炭治郎はぐっと拳を握りしめた。
彼の口から聞かされたことが事実なら、炭治郎は日の呼吸の
〝しかし、だからなんだというのだろうか。自分が選ばれし者でなくても、やるべき事はもう決まっている。立ち止まってはいられないんだ!〟
炭治郎は自分を鼓舞して奮い立たせ、愼寿郎に頭を下げて礼を言う。その姿を杏寿郎は嬉しそうに見守っていたのだった。
******
そんな風にして、この一ヵ月はあっという間に過ぎて行った。
そして今日は、杏寿郎の月に一度の診察日である。退院してからも、暫くは定期的に通うように言われている杏寿郎は蝶屋敷へと足を運んでいた。
ちなみに琴音は、杏寿郎の身体が心配だからと任務地から直接蝶屋敷へと赴いて、一緒に結果を聞くとの事だ。
元々、医学に精通する彼女だが、あの大怪我を負って以降、杏寿郎に対して随分過保護になっているのは気の所為ではないだろう。
まぁ、琴音が自分の事を気にかけてくれているのだから、杏寿郎も満更ではないのだが。
そんな事を考えながら、杏寿郎が蝶屋敷へ辿り着けば、玄関でいきなり屋敷の娘達に泣きつかれた。わんわんと泣き喚く娘達の姿に、只事ではないと思った杏寿郎が
「どうかしたのか!?」
彼女達に問いかければ、
「人攫いです〜…音柱様に琴音さん達が連れて行かれました〜」
わ〜んっ…と泣き出してしまった。
人攫い、ではないだろうが。宇髄によって琴音が任務に駆り出された…と言う事で間違いないだろう。
まさか他の柱によって、琴音が連れ回されることなんて想像していなかった杏寿郎は、小さな声で呟いた。
よもや、よもやだ……