第三章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
身体がひんやりとした外気に触れる感覚に、琴音は思わず身震いをした。
ふわふわと覚醒し始めた頭で、温もりを求めて、もぞもぞと身体を動かせば、琴音の体温よりも温かな何かにぎゅっと包まれる。
ぽかぽかとしたその温もりが心地よくて、すりすりとそれに頬を寄せれば、クスクスと誰かの笑い声が聞こえてきた。
ん、笑い声……?
頭上から聞こえる声を不思議に思い、ゆっくりと目を開いた琴音は、目の前に広がる逞しい胸板に目を丸くする。
驚いた琴音が、そのまま上に視線を移せば、楽しげに此方を見つめる杏寿郎と目がかち合う。
「おはよう、琴音!!昨日は少し無理をさせてしまったが、身体は大丈夫か?」
そう口を開いた杏寿郎に、琴音は
……昨日?
と記憶を巡らせて、一気に頭が覚醒する。
彼との情事を思い出し、恥ずかしくなった琴音は慌てて布団から飛び起きた。上半身を起こした事で、布団が肩からずり落ちるが、今の琴音にはそんな事を気にしている余裕はない。
今の今まで、杏寿郎に抱きしめられて呑気に寝ていた事や、さっき寝ぼけながら頬を寄せたのは杏寿郎の胸元だった事を理解した琴音は、赤面しながら慌てていたのだ。
「朝から随分と刺激的な格好だが、誘っているのか?」
だがそんな琴音の耳に、楽しげな杏寿郎の声が届き、琴音は首を傾げて動きを止めた。
誘う…?刺激的な格好…?
その声に、我に帰った琴音は自分の姿を確認して声にならぬ叫び声を上げた。一糸纏わぬ己の姿に、あわあわと布団を手繰り寄せる。慌てて胸元所か口元まで布団で隠した琴音は、杏寿郎をチラリと盗み見る。
わぁ〜ん、穴があったら入りたいよ〜…
耳まで赤く染めて、半泣き状態の琴音は、完全に頭がパンクしていた。
そんな琴音の姿にクスクスと笑い声を上げた杏寿郎は、布団ごと琴音を包み込み、楽しそうに声を上げた。
「朝目覚めて、琴音が隣にいるとは何とも幸せなものだな!!」
そうやって笑った杏寿郎が、嬉しそうに目を細めるものだから、琴音もそれにつられて頬を緩める。
〝私も今、すっごく幸せかも〟
琴音は暫く、杏寿郎に抱きしめられながら、幸せを噛み締めるのだった。
******
普段よりゆったりとした朝を過ごした琴音だったが、そろそろ千寿郎と朝食の準備をしなければいけないと、琴音はのそのそと起き上がる。
杏寿郎に背を向けてなんとか着替えを済ました琴音は、足に力を入れて立ちあがろうとしたのだが……
腰に走った鈍痛に、思わず不自然に動きを止めた。それでも何とか立ち上がり、ぷるぷると震える足に力を込めれば
「すまない。琴音が余りにも可愛かったものだから、加減が効かなくなってしまった。」
それを見た杏寿郎が、眉を下げて困ったように口を開いた。それには琴音も、あははは…と遠くを見つめて、苦笑いを浮かべて頭を抱えた。
「今日の夜にはまた任務があるのだろう?それまでは部屋でゆっくりと過ごすといい」
そう言って立ち上がった杏寿郎に目をやれば、いつの間に着替えたのか彼はもう部屋の戸へと手を伸ばしており
「千寿郎には俺から伝えておくから、安心していい!」
と口にするや否や、部屋を飛び出していった。
あまりの早さに、琴音は声をかける暇もなく置いてけぼりを食らった訳だが……
未だに腰やら股やら、鈍痛が襲う自身の身体に小さくため息を漏らした琴音は、動くことを諦めて、布団へぽふっと倒れ込む。
どうやら、今回は素直に彼の優しさに甘えた方が良さそうだな……
ふぅ、と息を吐いた琴音は、痛む腰をさすりながら、杏寿郎の帰りを大人しく待つのだった。
暫くすれば、食事を持った杏寿郎が琴音の部屋へと帰ってきた。
「父上と千寿郎には、琴音の体調が優れないと伝えてあるから、今日はゆっくりと過ごすといい。俺はこの後本部に赴く予定だから、昼飯は千寿郎に自室に運ぶように伝えておこう!!」
そう言って笑った杏寿郎に、お礼を口にした琴音は、心配そうに彼を見つめた。
『正式に炎柱を辞任する』
そう説明した彼がどんな心境だったのか……
今でも杏寿郎を思えば、不安な気持ちになってしまうのだが……
彼を支えると決めた自分が、こんな弱気では駄目だろう。そう思い直した琴音は
「分かりました。気をつけて行ってきてください!」
笑顔で杏寿郎を送り出すのだった。
******
本部にやってきた杏寿郎は、ある一室へと通されていた。
そこには笑顔を浮かべるお館様の姿があり、彼らしい穏やかな声で杏寿郎を迎え入れた。
「やあ杏寿郎、よく来てくれたね。入っておいで」
その声に招かれるように彼の元へと歩みを進め、腰を下ろした杏寿郎は、畳につくほど深く頭を下げて口を開いた。
「お館様、遅くなってしまいましたが、此度の任務、上弦の鬼を取り逃してしまった事…
「杏寿郎、君は本当にすごい子だ。」
杏寿郎が謝罪を口にしようとすれば、お館様が被せるように口を開いた。
勿論杏寿郎には、お館様の言葉を遮るなんてことが出来る筈もなく、頭を上げてお館様からの言葉を受け入れる。
「杏寿郎は頑張ったんだろう?二百人の乗客は一人として死なせなかった。
杏寿郎は本当に凄い子だ。
杏寿郎が謝ることなんてない筈ではないかな?
今まで鬼殺隊の為に、命をかけて戦ってくれてありがとう。鬼殺隊当主として礼を言うよ。」
そう言って頭を下げたお館様に、
「お館様頭をお上げて下さい!!」
杏寿郎は慌てて声をかけた。その声にゆっくりと顔を上げたお館様は、眉を下げて柔らかく微笑んだ。それから、ゆっくりと再び口を開く。
「琴音のこと、杏寿郎にはすまないと思っているよ。
あの子は優しい子だからね。何でも一人で抱え込んでしまう、無茶をする子だったんだけど……
杏寿郎があの子を変えてくれたんだね?ありがとう。
琴音は随分、杏寿郎を慕っているようだから、これからも琴音の事を頼めるかな?」
これからの杏寿郎達の幸せを願っているよ、そう口にしたお館様に杏寿郎は、敵わないなと笑みを漏らすのだった。
何処までお館様が把握されているかは知らないが、間違いなく琴音に想いを寄せる自分の気持ちは筒抜けだったようだ。
まさか今までの自分への労いの言葉以外に、琴音との幸せを願っているだなんて言葉を頂けるとは……
杏寿郎は改めてお館様の偉大さを思い知り、頭を下げて今までの感謝を口にするのだった。