第三章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
杏寿郎と思いが通じ合ってから三ヶ月。
彼から抱きしめられたり、時には接吻をされたり、恋人らしい事も何回か交わして来たのだが
「今日の夜、琴音の部屋に行ってもいいだろうか?」
杏寿郎に抱きしめられた琴音は、問いかけられた言葉を理解して固まった。
今まで鬼と戦うことしか頭になかった琴音には、そういった経験は勿論ない。だが、その誘いの意味が分からないほど、子供でもないのだ。
「琴音?」
腕の中で固まってしまった琴音に、小さく笑みを漏らした杏寿郎は、優しく彼女の名前を口にした。
その声にゆっくりと琴音が顔をあげれば、彼に抱きしめられている為、二人は至近距離で見つめ合う形になる。
眉を下げ、顔を赤くした琴音が、必然的に上目遣いで杏寿郎を見上げてくるものだから、杏寿郎は込み上げる感情を何とか抑え込んで口を開いた。
「嫌だったら「嫌じゃないです……ただ……」
ただ恥ずかしかっただけで…そう言って、困ったように笑う琴音は、ものすごい破壊力だった。
余談だが、杏寿郎は、普段からあまり我慢が得意な方ではない。
思ったことを直ぐに口にしたり、他人を置き去りに物事を進めるほどの男だ。
それがどうだろう。琴音に関して言えば、随分と慎重に関係を深めて来たように思う。
〝大切だからこそ、嫌われたくない。失いたくない〟
彼にしては珍しく、弱気な気持ちが邪魔をして、今まで自分を抑え込んできていたのだ。
だからなのだろうか。それが叶ってから……
思いが通じ合ってからは、タカが外れたかのように、琴音への想いを行動に移して来たのだ。
今だってなんとか、琴音を傷つけまいと口付けたい気持ちを我慢したというのに。
「嫌じゃない」と杏寿郎の言葉を遮ってまで伝えてくれた琴音が、堪らなく愛おしく思えて、結局我慢できずに唇を奪ってしまう。
いつ千寿郎が戻って来るか分からない為、触れるだけの短い接吻を何度か落とす。琴音の顔をチラリと盗み見れば、目をギュッと瞑り真っ赤な顔で自分からの行為に耐えていて。
思わず深く口付けて、その口内を味わいたい衝動に駆られてしまうが……
さすがに千寿郎に見られるわけにはいかないだろう、となけなしの理性でグッと踏みとどまり、杏寿郎は琴音から離れていった。だが、離れ際わざと琴音の耳元で
「今夜、自室で待っていてくれ」
そうやって囁くものだから、パニック寸前の琴音は、耳まで赤く染めながら、それにコクコクと頷く事しか出来なかった。
******
暫くすると千寿郎も二人の元へとやってきた。
仲良く寄り添う二人の背中に、千寿郎がほっと胸を撫で下ろせば、彼に気づいた二人が振り返る。
「「千寿郎(千寿郎君)おかえり!」」
先程とは打って変わって上機嫌な杏寿郎と、眉を下げ困った様に笑った琴音が、同時に同じ台詞を口にした。
琴音の表情を見て、なんとなく何かがあっただろう事を察した千寿郎は、曖昧に笑い、二人の隣に腰を下ろす。
「千寿郎君、スイートポテトを届けてくれてありがとう」
「うむ!助かったぞ、千寿郎!!」
「……いえ、大したことじゃありません」
ご機嫌な兄に苦笑いを浮かべた千寿郎は、「そういえば」と口を開いた。
「兄上、先日のお話ですが…」
「ああ!お館様の所へ行く話しか?退院して落ち着いたら、とは言われていたのだが…三ヶ月も経ってしまったのだ。明日にでも本部へ顔を出すつもりだ!!」
そう答えた杏寿郎に、千寿郎は小さく頷いた。
数日前、病室にやってきた琴音達に、本部に赴き〝正式に炎柱を辞任する〟と言う話をしていた杏寿郎。
これからは鬼殺隊のため、若い隊士を育ててもいいかもしれないな。
そう話していた杏寿郎を思い出し、琴音は感傷に浸ってしまう。
彼が柱を引退する事で、もう彼が鬼と戦わなくていいのかと、ほっとしている自分がいるのも確かだが。
ずっと追いかけてきた彼が、明日で本当に〝引退〟してしまうと言う寂しさもある。そして、彼がそれを望んでいた訳ではない事を、琴音は知っているのだ。
だから、少しでも杏寿郎の悲しみを和らげたくて、そっと彼の手に自分の手を重ね、微笑みかける。
「杏寿郎さんなら、いい育てになりそうですね?」
「琴音にそう言って貰えるなら、安心だな!ワハハハ!」
そう口にした杏寿郎は、琴音が重ねてくれた手に、嬉しそうに指を絡ませ、豪快に笑うのだった。
******
三人は甘味休憩を挟んだ後、暫し談笑を交わしていたが、鍛錬の続きが残っていたため、素振りを再開させていた。
「残り350回!」
先程と違い、休暇後は杏寿郎も素振りを行なっていた。激しい戦闘は肺に負担をかける為、しのぶから禁止をされているのだが、打ち込み稽古くらいなら杏寿郎の身体でも、こなして大丈夫だろうと判断されていたからだ。
素振りだけなら、尚更大丈夫なのである。
三人は久しぶりに共にこなす鍛練に、嬉しそうに汗を流すのだった。