第三章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
仲良く縁側に並び、休憩を取る三人の手には、琴音が朝から大量に作ったスイートポテトが握られていた。
例の如く、甘味を口にした琴音はふにゃふにゃと幸せそうな顔で、上機嫌に口を開いた。
「こんなにうまく出来たんだから、愼寿郎様にも食べてもらいたいな〜」
未だに、ぶつぶつと父への不満を口にする琴音に、杏寿郎は少しむっとしてしまう。
〝琴音は事あるごとに父の名を口にするが、些か懐き過ぎではないだろうか?
今だって、口を開けば父の話ばかりで、そのうち甘味を届けに、父の元へ行ってしまうのではないかとすら思ってしまう。
折角、一緒にいられるというのに……〟
そんな事を考えて、少し不貞腐れた表情を浮かべる杏寿郎に、何故か全く気付かない琴音。
隣で、そんな二人を眺めていた千寿郎は、小さくため息を漏らすのだった。
千寿郎は、二人から特別何かを聞いたわけではない。
ただ琴音が兄を名前で呼び出した事や、それに嬉しそうに応える兄の姿、何よりも二人を包む温かな雰囲気が全てを物語っていた。
随分前から、兄が琴音の事を大切に想っているのに気づいていた千寿郎にとっても、とても嬉しい事なのだ。
しかし、こうして二人の間に挟まれると、居た堪れない気持ちになってしまう。
〝何故こんなに分かりやすく兄が不機嫌になっているのに、琴音さんは気づかないんだろう…〟
そんな事を考えながら、千寿郎が琴音を観察していれば
「やっぱり愼寿郎様にも、スイートポテトを渡して来ますね?」
ニコニコと上機嫌で彼女は言い放ったのだ。
〝……え。この状況で今ですか!?〟
それには、さすがの千寿郎もギョッとして、口を挟もうとしたのだが、彼が言葉を発するよりも早く、杏寿郎が口を開いた。
「千寿郎……父上には千寿郎が甘味を持っていってはくれないか?」
「あ、はいっ!!勿論です、兄上!」
「え?杏寿郎さん、私自分で持っていけますよ?」
「君はここにいなさい。……千寿郎、頼めるか?」
有無を言わせぬ威圧感に、琴音達は一瞬固まってしまったが、いち早く立ち直った千寿郎は
「では父上に届けて来ますね!」
と口を開くや否や、そそくさとその場を後にした。
〝暫くは二人きりにしてあげよう〟
父の部屋へ向かいながら、そんな事を考える辺り、やはり彼は気の利くいい弟なのだ。
******
一方その場に残された琴音はというと、
いきなり不機嫌になった杏寿郎に
〝どうかしたのだろうか〟と、戸惑っていた。
先程まで愼寿郎に叱られた話も、彼は楽しそうに笑っていたし、スイートポテトだって美味しそうに食べていたというのに……
そんな事を考える琴音は、やっと口を開いた杏寿郎に思わず目をぱちくりとさせてしまう。
「琴音は俺より、父上と共にいる方が楽しいのだろうか?」
「へ?」
「久しぶりにこうして、一緒にいられると言うのに、君は先程から父上のことばかりだな!」
「ええっ!?でも、それは…」
「それは…なんだろうか?父上の事ばかりと言うのは本当だろう?琴音は父上に、些か懐きすぎではないか?」
……そんな事言われても、と琴音は眉を下げて困ってしまう。
確かに琴音は愼寿郎のことも、千寿郎のことも、自分の家族のように大切に思ってはいる。
だがそれは杏寿郎の家族だから、と言うのが一番の理由なのだ。
彼の家族だから、心配だってするし、お節介だって焼いてしまう。それが素直な琴音の本音だった。だから、まさか
それに、まさかとは思うが……
どうにも、今の彼の発言が愼寿郎に対してのヤキモチのように聞こえてしまった。
〝まさか、杏寿郎さんがヤキモチ……私に?〟
琴音がチラリと杏寿郎を見れば、彼は未だに不機嫌そうにムスッとしている。
なんだかそれが可愛く見えて来てしまい、琴音はクスクスと笑い出す。
「杏寿郎さん、すみません。そんなつもりではなかったんですが……杏寿郎さんが帰って来たのが嬉しくて、少し浮かれてしまいました。」
そう言って笑う琴音は、杏寿郎の顔を覗き込んで言葉を続けた。
「私だって杏寿郎さんと一緒にいられて嬉しいんですよ?今日の休暇をもらう為に、任務だっていっぱいこなして頑張っちゃうくらいですから!
それに、愼寿郎さんも千寿郎君もとても大切に思ってるんです。」
だって、杏寿郎さんの家族ですから!そう口にした琴音はとても嬉しそうに目を細めた。
クスクスと笑う琴音に視線を移した杏寿郎は、大きなため息を一つ落とした。
勿論杏寿郎だって、本気で怒っているわけではない。琴音が杏寿郎の家族を大切にしている事にも気づいているし、それに感謝もしているのだ。
ただ折角一緒にいるのに、琴音は父の話ばかりで……浮かれているのは自分だけだったのか、と面白くなかっただけなのだ。
だが、面と向かって「嬉しくて浮かれてしまった」だの「一緒にいられて嬉しい」だの言われてしまえば、素直に喜んでしまう自分がいて。
〝なんとも単純なものだな〟と自分で自分に呆れてしまう。
それに琴音は「今日の
柱の仕事をこなしている琴音が、非番を貰うとなれば、それだけの数の任務を今日までにこなして来たという事だ。
それがどれほど大変な事かを知っている杏寿郎は、小さく笑みを漏らす。
〝確かに琴音も楽しみにしていてくれたのだな〟と思い至ったところで、ふとあることに気がついた。
今日は琴音が任務に出かけることは無いのか……
気づいてしまえば、自然と口元も上がっていく。機嫌まで良くなってしまうのだから、やはり単純なのだろう。
杏寿郎は、未だに此方を覗き込んで、ニコニコとしている琴音を優しく抱きしめる。
素直に自分の中に収まった彼女に、一層機嫌を良くした杏寿郎は、琴音の耳元でそっと囁くのだった。
「今日の夜、琴音の部屋に行ってもいいだろうか?」