第三章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「分かってはいると思いますが、くれぐれも無茶だけはしないで下さいね。」
「うむ。心得た!!世話になったな、胡蝶!!」
あれから、病室に琴音と共に現れたしのぶによって、退院後の説明を受けた杏寿郎。
月に一度の診察に訪れることや、無理をしない事を何度も注意をされた彼は、自信満々に
「任せてくれ!!」
と返事をして豪快に笑っていた。
それにはしのぶも思わず苦笑いを浮かべ、大きなため息を一つ落とすのだった。
******
そんなしのぶ達に見送らせて、蝶屋敷を後にした彼らは、昼を少し過ぎたくらいに、漸く煉獄家へと辿り着いた。
「腹が減ったな!」と呟きながら杏寿郎が、居間へ足を踏み入れるや否や
「「杏寿郎さん(兄上)は座っていて下さい!」」
二人は大声を発したかと思えば、バタバタと慌ただしく準備をし始める。
そうこうしていれば、急に煩くなった家の中に気づいて、愼寿郎も居間へと顔を出す。
愼寿郎は杏寿郎を視界に捉えると「良く戻ったな」と声をかけて、自分も腰を下ろした。
「父上、ご心配をおかけしました」
「それを言うなら、あの二人に言いなさい。
……今朝だって、一体何時から準備をし出したのか分からないからな。よほど、杏寿郎の帰宅が嬉しかったようだ」
愼寿郎の言葉の意味がわからず、首を傾げた杏寿郎だったのだが
数分後、彼はその意味を理解する。
「よもや、よもやだ……
こんなに沢山用意するのは大変だっただろう?」
食卓に所狭しと並べられた料理を前に、杏寿郎は目を輝かせていた。
良く見れば彼の好物でもある、さつま芋のお味噌汁や鯛の塩焼きなんかも並んでいて、どれから手をつけるか迷ってしまう程だ。
「琴音さんから、色々と作り方を教えて貰って作ったんです。兄上、味はいかがですか?」
「うむ。とても美味いぞ!!千寿郎ありがとう!」
「ふふ。喜んでもらえて良かったね、千寿郎君?」
二人が嬉しそうに笑う中、杏寿郎は「美味い!」「わっしょい!」と声を上げながら、次々に料理を口へと運んでいく。
「折角のご馳走だ。早くお前達も食べなさい」
愼寿郎に声をかけられた琴音が、ハッとして食卓へ目をやれば、あんなにいっぱい並んでいた筈の料理も、あっという間に杏寿郎によって食べ尽くされていく。
そんな杏寿郎の姿に〝早朝から頑張った甲斐があったな〟と琴音は嬉しそうに笑いながら、自分も箸を伸ばすのだった。
******
その後、食事の片付けを済ました三人は、日課となっていた素振りを行う為、庭へと移動して来ていた。
杏寿郎に久しぶりに鍛錬を見てもらえるとあって、琴音も千寿郎もとても嬉しそうである。
やる気いっぱいの二人が杏寿郎の前に並んで木刀を構えると、杏寿郎も嬉しそうに口を開いた。
「では素振り3000回!!」
「「はい!!」」
〝久しぶりに杏寿郎に鍛錬を見てもらう〟
そうは言っても、実際には千寿郎の姿勢などに指摘が入るのみで、琴音は自身で呼吸や、一つ一つの動作を気をつけながら素振りを行っていく。
踏み込む足から、指の感覚、木刀の先端にまで…
全神経を研ぎ澄ませ、琴音が木刀を振り下ろせば、ブンッブンッと風を切る音が鳴り響く。
千寿郎を教えていた杏寿郎は、ふと隣で木刀を構える琴音へと視線を移した。
〝あの時は素振りの音も今より断然、軽かった筈だ……あれから、随分と成長したものだな〟
杏寿郎は琴音と稽古をし始めた頃を思い出し、小さく笑みをこぼすのだった。
******
暫く二人の素振りを見てやっていた杏寿郎は、珍しく「そろそろ休憩でもしよう」と口にした。
〝まだあれから、小一時間しか経っていない筈なのに、こんなに早く彼の稽古が終わるなんて……
ッ!まさか退院したてで、無理をさせてしまったのだろうか〟
顔を青ざめ始めた二人に、恥ずかしそうに目を逸らした杏寿郎がポツリと呟いた。
「スイートポテトがあるのだろう?」
実は蝶屋敷を出る間際、しのぶから
「琴音が煉獄さんの為にスイートポテトを作ったようですよ?よっぽど煉獄さんの退院が嬉しかったようです。愛されていますね?」
と聞かされていたのだ。
杏寿郎は、それが楽しみで楽しみで。
こうして自分から話題を振ってしまった訳なのだが、なんだか強請っているようで恥ずかしくなってしまったのだ。
「ふふ。私も実は食べたかったんです!沢山作ったんですよ!!ね、千寿郎君?」
「そうなんです!それに兄上、聞いて下さい!!琴音さんたら、父上の口にいきなりスイートポテトを突っ込んでっ……朝から盛大に怒られていたんですよ!?」
「それは……違うの!いや、違わないけど!?そうじゃなくて!!あれは……美味しくできたから、愼寿郎様にも食べて欲しかっただけで!わざとじゃなかったの!」
なのに、あんなに怒るなんて……と呟いた琴音は、朝の痛みを思い出し、思わず頭に手をやった。
そこには小さなたんこぶが出来ていて、それに触れてしまった琴音は、少し涙目になってしまう。
「愼寿郎様ったら、味見の感想すら言わなかったんですよ!?」
恐らく相当痛かったのであろう。
未だにぶつぶつと父への恨み言を呟く琴音に、杏寿郎と千寿郎は盛大に吹き出した。
「よもや、父上にそんな事が出来るのは琴音ぐらいだな!!」
「笑い事じゃないですよ!愼寿郎様の鉄拳はとんでもなく痛いんですから!!」
「凄い音がしていましたからね……でも、あれは流石の父上でも驚きますよ」
「だって〜!」
むう、と暫く膨れていた琴音だが、楽しそうな二人に釣られて、結局最後には声を上げて笑い出すのだった。