第二章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
悲しそうに目を伏せた琴音は
「せっかく継ぐ子として稽古をつけてもらったのに……失望させて、すみません」
と口を開いて、杏寿郎に頭を下げた。
******
炎柱の継ぐ子として、杏寿郎に弟子入りしてから、彼と一年以上もの時間を共にしてきた琴音。
共に過ごせば過ごすほど、彼の凄さを実感し、その強さに憧れる日々だった。
強さと言っても、ただ単に彼が隊士として優れているだけではない。他人を思いやる心や、志の高さ、そしてなにより
〝皆の前に立ち、鬼に立ち向かう姿〟
その勇姿を、一番近くで見て来たのだ。
勿論琴音が共に任務をこなした事がある他の二人の柱、天元や実弥においてもそれは同じ。
皆、
〝仲間の援護しかできない自分とは違うのだ。彼らは皆の前に立ち、盾にも矛にもなってきたのだ〟
お館様からの言伝を聞いた時、確かに炎柱の席が開けば、継ぐ子の自分に声がかかってもおかしくはないとは思った。
だが同時に彼らのような、柱になれる自信はないとも思ったのだ。
いつも、気づけば彼らの背中を追っていただけの自分が、仲間のために先頭に立てるのか。
自身で斬れない鬼と対峙した時、援護しかできない自分では仲間を率いる資格もないのではないか。
そう自問自答して、決めた決断だったのだ。
******
だが……
こうして杏寿郎を前にすれば、彼に対して後ろめたさを感じてしまう。
ここまで継ぐ子として、こんな自分を鍛えてくれたのだ。期待をしてくれていた彼を、落胆させてしまった……呆れられただろうか。
琴音は杏寿郎の顔を見ることが出来ず、頭を下げたまま、顔を上げる事ができなかった。
そんな琴音を見て、小さくため息を吐いた杏寿郎に、ビクリと琴音が反応する。
〝嫌われたかもしれない〟
琴音はこれから降ってくるだろう、彼からの言葉を思い身構えた。だが、
「失望なんてするわけないだろう?琴音の努力は誰よりも知っている。琴音なりの考えがあったのだろう?」
琴音が思っていたより、ずっと優しい声で問いかけた彼は、最後に「俺に教えてはくれないだろうか?」と呟いた。
琴音が恐る恐る顔をあげれば、此方を見つめて優しく笑っている杏寿郎が目に入り、思わずキョトンと見つめ返してしまう。
クスリと笑った彼は、いつもの優しい表情のままで。
それ以上何も言わず、自分の言葉を待っていてくれる杏寿郎に、琴音は覚悟を決めてポツリ、ポツリと思いを語りはじめた。
「私では杏寿郎さんのような炎柱になれる自信はないんです……」
「俺のようになる必要はない。琴音は琴音の思うようにすればいいだろう?」
「でも、私は援護しかできないから……皆の前に立って戦う事も出来ないのに、それが柱だなんて……
皆に申し訳が立ちません。こんな自分では、仲間を守れるとも思えない……」
そこまで聞いて、杏寿郎はやっと琴音が何に対して、負い目を感じているのか理解した。
きっと今まで、琴音の心の中では、色々な葛藤があったのだろう。
他の者に鬼を斬らせて、自分は援護しか出来ないと、そう心を痛めていたのかもしれない。
そんな彼女の気持ちを、今更ながら思い知る。
それと同時に、援護
〝その援護がどれほど仲間の命を救ってきたのか。〟
〝誰よりも、仲間を守るの為の戦いをして来たのは、琴音だろう〟と。
杏寿郎は、自分の事となると途端に自信をなくす琴音に、どれ程凄い事なのか、それを説き明かしていく。
「琴音は充分仲間を守ってきただろう?」
そう話し出した杏寿郎は、琴音を安心させるように言葉を続けていく。
「琴音の任務が圧倒的に、死傷者が少ないのは琴音の援護があったからだろう?
いつも俺が、迷わず鬼に立ち向かえたのは、琴音になら安心して背中を任せられたからだ!
俺がこうして、命を繋げられたのも、あの時上弦に立ち向かってくれた琴音がいたからだろうな!!」
「でも、私……」
「何も今すぐに決断を出す必要はないのだろう?お館様からは琴音の決心がつくまで待つ事にした、と手紙を頂いたが違うのか?」
「お館様からは……」
そこで少し迷ったような素振りを見せた琴音は、小さな声でこう返事をした。
「お試しでやってみては貰えないか、と言われました ……」
確かお館様の手紙には、逃げられないための策とあったのだが……まさか〝柱をお試しで〟と来るなんて、杏寿郎とて全くの予想外である。
きっと琴音もさぞかし驚いただろう。
いや、眉を顰めて、渋々頷いたのだろうと、彼女の姿を想像して、思わず口元に笑みを浮かべる。
だがお試しであれ、炎柱を継いでもらうのは杏寿郎としても、琴音以外考えられないのだ。
琴音だからこそ、安心して任せられるのだ。
自分がこうして戦えなくなった今。
琴音をこうして戦いに送り出すのは、心苦しい。
できれば、今でも彼女の隣に立って一緒に戦い続けたかったし、彼女を守るのは自分でありたかった。
だが、もうそれは叶わないのだ。
だからこそ、琴音に。次の世代に繋げていかなければいけない。
そうとなれば、自分にするべき事は一つだ。
「琴音には俺がいる!俺がついている!!
だから琴音のやりたいように、やっていいんだ!柱になるかどうかは、それから考えればいい!!」
杏寿郎がそう笑えば、琴音もやっと安心したように息を吐き、ふわりと嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう、杏寿郎さん!!
柱には……なれるか分からないけれど、私なりに頑張ってみます。」
自分が今するべき事……
〝琴音が笑顔でいられるように、彼女を全力で支えることだろう〟
柔らかい笑みを浮かべる琴音を眺めながら、杏寿郎は心に誓うのであった。