第二章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「お館様から聞いたが、琴音は次の炎柱の話を断ったそうだな」
そう問いかけた杏寿郎に、琴音は動きを止めた。
何故、彼は知っているのだろうか……
いや、いずれは知られるだろうと覚悟はしていたが、それにしても早すぎやしないだろうか……
鴉とやり取りを最後に交わしたのは、今日の朝の話なのだ。
此方を向いたまま固まってしまった琴音に、杏寿郎は苦笑を漏らし、できるだけ優しく努めて声をかける。
「別に琴音に怒っているわけでも、責めるわけでもないから、安心してくれていい。ただ、どうして断ったのかだけ、教えてはくれないだろうか?」
杏寿郎の声に、彼を見上げた琴音は叱られるのに怯える子供のように、眉を下げた。
******
今回、この話がこんなに早く伝わったのは、杏寿郎が琴音の〝師範だったから〟という理由だけではない。
実際には、杏寿郎が「琴音を次の炎柱に」と、お館様へ推薦したからなのだ。
彼は自分が隊士として戦えなくなったと、しのぶから聞いたその日に、お館様へと自身の鎹鴉を飛ばしていた。
今回の怪我で、隊士として自身の身体が使いものにならなくなった事。
それに伴い、炎柱を辞退させていただく事への謝罪。
そして次の炎柱には、琴音を推薦したい事。
そのような内容を書いた手紙を、お館様へ送った杏寿郎。
その手紙の返事を持った鴉が今朝方、杏寿郎の部屋に降りたったのだ。
お館様からの手紙は、まず先の任務で乗客を守り抜いた事への労いから始まっていた。
そして怪我を負った杏寿郎を気遣う言葉が続く。
〝後の事は気にしなくいいから、これからは杏寿郎の身体を大切にしなさい〟
優しい言葉に、杏寿郎はぐっと胸に込み上げるものがあった。
そのまま読み進めていけば、お館様も琴音に炎柱を頼む気でいたと書かれていた。
杏寿郎の手紙は、それを後押しするような形になり、先日琴音の元へと鎹鴉を使わせたと続けられていた。
そこまで目を通した杏寿郎は、お館様がそう思うのは当然だろうと思い至った。
琴音が今まで討伐して来た鬼の数は、単独任務から合同任務まで合わせれば、ものすごい数になるだろう。
以前、杏寿郎と出会う前の任務では、不死川と共に下弦の壱を討伐したのも、琴音から聞いたことがある。
それに加えて今回の任務だ。
柱である杏寿郎が大怪我を負う中、上弦相手にその場にいる者達を守り抜いたのだ。そんな実力があれば、だれがどう考えても〝彼女以外適任はいない 〟と思うだろうな。
そう思って、小さく笑みを漏らした杏寿郎だったのだが。
お館様からの手紙に再び目を通した彼は、次に続く言葉に眉を顰めた。
〝だけど、琴音からは断られてしまってね。
どうしたものかと考えた結果、彼女の決意が固まるまで待つことにしたんだ。
やはり杏寿郎が抜けた穴は、あの子でないと務まらないと思っているから…
琴音には悪いけど、炎柱になるまで逃げられないように策は取らせてもらった。〟
策……とは、何のことだろうか。
険しい顔をしたまま、杏寿郎は思いを巡らせた。
今の現状を思えば、確かに琴音の戦力は必ず必要不可欠だろう。
今まで影を現さなかった鬼舞辻無惨が、炭治郎の前に現れたことも然り……
今回、下弦の鬼の敗北を嗅ぎつけたかのように現れた上弦の鬼もまた然りだ……
戦線離脱する自分を不甲斐なく感じて、思わず手紙を握る手にも力が入る。
少し皺が寄ってしまった手紙の最後は、こう締め括られていた。
〝杏寿郎には辛い事をお願いしてしまうが、琴音を支えてあげて欲しい。よろしく頼んだよ。〟
******
お館様との手紙を思い出し、杏寿郎が琴音に〝炎柱を何故断ったか〟理由を問いかければ、罰の悪そうな顔をした琴音は口を開いた。
「私では、杏寿郎さんのような柱になる資格がありません」
資格……?柱になる条件ならば当に得ている筈だ。
彼女は既に階級は甲。鬼を五十体倒すことも、十二鬼月を一体討伐することも、その両方を成し遂げている。
それなのに、これ以上何が必要だと言うのか。
杏寿郎が琴音の言葉に眉を顰めていれば、悲しそうに目を伏せた琴音が再び口を開き、頭を下げた。
「せっかく継ぐ子として稽古をつけてもらったのに……失望させて、すみません」と。