第二章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
あの任務で、呼吸困難に陥り、鬼により肋を3本も砕かれ、意識不明の重体として運び込まれた琴音は……
それから三日後に目を覚まし。
四日後には完全に元の呼吸を取り戻し。
一週間後には、しのぶ協力の元〝機能回復訓練〟という名の、激しい打ち込み稽古をこなし。
二週間後には、完全に体を回復させ、退院する事となった。
その事実に炭治郎達三人は、驚きを隠せなかったが、杏寿郎としのぶの柱二人は〝当然だろう〟とそれを呆気なく受け入れた。
全集中常中の呼吸を極めた者ならば、骨折ぐらい大した怪我には入らない。
勿論痛みはあるし、全回復するまでにはそれなりに時間もかかるが……
あの琴音なのだ。
彼女ほど呼吸を使いこなせているのであれば、もはや〝今回は時間がかかったな〟と思うくらいなのである。まぁ今回は、目を覚ますまで全集中の呼吸を使えていなかったから、という所が大きかったのだが。
なんにせよ、退院が決まれば、また〝任務〟が始まるのだ。
明日を退院に備えた琴音は、自身の荷物を風呂敷にまとめ、きゅっと口を結んでいく。
片方を結び、もう片方もという所で動きを止めた琴音は、昼間の杏寿郎との会話を思い出していた。
******
「そうか、琴音は明日で退院か」
「はい。さっきしのぶから、任務につく許可も貰いましたので、お先に煉獄家へと帰らせて頂きますね。」
「うむ。父上にも、千寿郎にも、沢山心配をかけてしまったからな。元気な顔を見せてやって欲しい!!」
杏寿郎の言葉通り、あの任務以降、彼らの怪我を心配して、何度も見舞いに訪れていた千寿郎。
そんな千寿郎の話では、父、愼寿郎は見舞いにこそ来ることはなかったが、家へ帰れば「今日はどうだった?」と千寿郎に問いかけているのだとか。相変わらず素直じゃないな、と思わず琴音は笑ってしまったものだ。
「そうですね。……ではこれからは、千寿郎君と一緒に杏寿郎さんのお見舞いに来ますね」
ふわりと琴音が微笑めば、それは楽しみだな、と杏寿郎も笑い返した。
まだ当分は家に帰れない杏寿郎を思い、琴音はそんな事を口にしたのだが、実際には彼に頻繁に会いに来る口実が欲しかっただけなのだ。
蝶屋敷にいる間は暇さえあれば、彼の部屋に顔を出していた分、先に退院する事に少し寂しさを感じてしまう。
想いが通じ合えただけで幸せだと思っていたのに。
もっと触れて欲しい、ずっとそばに居たい……と、どんどんその思いが大きくなっていく。
随分と我儘になったものだ。
琴音は苦笑いを漏らし
〝千寿郎君と……だけじゃなく、任務に行く前にも顔を出そう〟と、一人自分に言い聞かせるのだった。
そんな事を琴音が考えていれば、杏寿郎からそういえば、と声がかかる。それに首を傾げた琴音だったが、彼からの一言にピシリと動きが固まった。
「お館様から聞いたが、琴音は次の炎柱の話を断ったそうだな」
どうしてそれを?と固まる琴音は、先日の鎹鴉とのやり取りを思い出した。
******
あれは……確か、しのぶと鍛錬を始めて二日たった頃、琴音の病室に一羽の鎹鴉が降りたった。
琴音に着いている鴉ではないが、その子を知っている琴音は「久しぶりだね」と呟きながら、鴉の頭を撫でてやる。
以前、杏寿郎の継ぐ子になる前に、たまに自分の所へやって来ていた鴉……
お館様直属の鴉である。
当時は「琴音は援護が得意みたいだから、合同任務をこなしながら、後輩隊士を育ててやってほしい」等々、
お館様からのお手紙を何度か届けてくれた鴉である。
杏寿郎の継ぐ子になった時には「おめでとう」と言伝を届けてくれたが、それを最後に久しく見かけなくなっていた。
きっとお館様が柱の継ぐ子に専念できるようにと気を利かせてくれたのだろう。その当時は、そう考えていたのだが。
そんな鴉が口を開く。
『お館様からの言伝を伝える。
次期、炎柱は琴音に頼みたい。お願いできるかな?
以上だ』
他の鎹鴉とは違い、流暢に話す鴉は、さすがお館様直属と言った所だろうか。
少しだけ考える素振りを見せた琴音は
「すぐ返事を書くから待ってね?」
と鴉に呟き、スラスラと手紙を書き上げた。
それを鴉に渡して
「お館様に、ごめんなさいと伝えて?」
と琴音が言伝を頼めば、鴉は一度頷いてから、空へと飛びたっていった。
〝私では杏寿郎さんの様な柱にはなれそうもありません。ご期待に添えず、申し訳ありません〟
そう手紙には書いたはずだった。
だが今朝方、琴音の病室に再びあの鴉が降り立ち、こう言ったのだ。
『お館様からの言伝を伝える。
琴音が柱になる決心がつくまで、柱のお試し期間として、杏寿郎の地区の警備をお願いできないかな?
以上だ』
今までこんな一隊士の自分に、度々こうして声をかけてくれたお館様を、今回の件で落胆させてしまった罪悪感があった琴音。
それを知ってかは知らないが、まさか〝お試し〟とくるなんて……思わず、苦笑いを浮かべてしまう。
だがさすがに、お館様にそう言われてしまっては、断る事は出来ないだろう。
そう思い至った琴音は、渋々ではあったがその提案に頷いたのだった。
杏寿郎に問いかけられて、咄嗟に思い出したやり取りだが。
何故彼は知っているのだろう……。
琴音は、杏寿郎を目の前に項垂れるのであった。