第二章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
想いが通じ合っても、彼らのやり取りは、相変わらずだ。
「なるほど、それを聞いて安心しました」
「うむ。胡蝶が言っていたから、まず間違いないだろうが…… 琴音には、何かと面倒をかけてしまうな」
「ふふ。そう思うなら、しっかり療養して下さいね」
あれから二人は、お互いの情報を共有すべく、さまざまな会話を交わしていた。
例えば、炭治郎達の怪我の具合や、上弦の鬼と対峙したお互いの見解。
あの時琴音が使った呼吸について説明すれば、むう!と杏寿郎から説教が入ったりと
ありとあらゆる報告をしていく二人。
もともと師弟関係であった為、想いが通じ合い、世間でいう〝恋仲〟になったとしても、何かが特別変わる事はないのだろう。
そしてある程度話をし終えた所で、一番気にしていた事を、琴音は杏寿郎に問い掛けた。
「あの……師範?先程、怪我の為に隊士には戻れないとおっしゃっていましたが……
師範の怪我の具合を聞いてもいいですか?」
眉を下げ、心配そうに此方を伺う琴音に、杏寿郎は安心させるように笑いかける。
「うむ。まず上弦から、受けたこの左目の傷は…」
と話し出した。そんな彼の話によれば、杏寿郎の怪我は彼の体力を持ってしても、完治するまでに三ヶ月もの時間がかかるようだ。
想像していた通り、傷ついた左目が視力を取り戻す事もなければ、損傷を負った肺では全集中の呼吸も使えないとの事……
だが幸いだったのは、剣士の道こそ絶たれてしまったが、しっかり療養さえすれば日常生活には支障をきたさないらしい。
「なるほど、それを聞いて安心しました」
「うむ。胡蝶が言っていたから、まず間違いないだろうが…… 琴音には、何かと面倒をかけてしまうな」
「ふふ。そう思うなら、しっかり療養して下さいね」
そして冒頭の台詞である。杏寿郎を見つめながら、ほっと琴音が胸を撫で下ろしていれば「そういえば」と彼から声がかかる。
その声に、まだ何か報告しなければならない事があっただろうか、と琴音が首を傾げれば
「もう杏寿郎とは呼んでもらえないのだろうか?」
と予想外の質問が投げかけられた。
その一言に、先程は彼を安心させたい一心で、思わず名前を呼んでしまったが、今思えばとても恥ずかしい事をしてしまったかも、と琴音は気づいた。
いきなりの変化球に、オロオロと慌て出した琴音。その顔は、それはもう見事に赤く染まっていたし、心臓の鼓動も〝目の前の彼に聞こえてしまうのでは?〟と思う程に、大きく刻みだす。
「え、えっと……
先程は、勢い余って呼んでしまっただけで、その少し、恥ずかしいと言いますか……」
「むう。千寿郎や父上の事は、名前で呼んでいるではないか!?」
「えっ?」
「ああ、確か不死川と宇髄。それから胡蝶もそうだったな。」
「えぇっ!?」
まさかの
チラリと彼に目をやれば、此方にキラキラと〝期待に満ちた目〟を向けており、琴音は少し後ずさる。
しかし、それを許さない様に、彼女の腕をすかさず掴んだ杏寿郎は「琴音?」と、追い討ちをかけるかの様に、彼女の名前を呟いた。
ピタっと動きを止めた琴音は、少し俯いてしまってはいるものの、耳まで真っ赤に染まっていて。
それを視界に捉えた杏寿郎は思わず吹き出しそうになってしまう。だがここで笑ってしまっては、彼女の機嫌を損ねてしまうだろ……そう考えた杏寿郎は、強靭な精神力でなんとか耐える。
そうこうしていれば、彼女がゆっくりと顔を上げ意を決して、口を開いた。
「きょ、杏寿郎… さん」
「……」
顔を上げた琴音は眉を下げ、頬を赤らめ、恥ずかしそうに名前を口にした。
そのあまりの破壊力に、杏寿郎は思わず自身の口に手をやり、にやける口元を覆い隠す。
〝ただ名前を呼ばれただけ……それだけなに、こんなにも嬉しく思ってしまうとは〟
恥ずかしそうに見上げてくる琴音が、余りにも可愛いらしくて、杏寿郎は彼女の腕を引いて、更に体を近づけた。
必然的に琴音は杏寿郎に抱きしめられる形になるが、先程のように暴れたりせず、大人しく彼の腕の中に収まった。
琴音は杏寿郎の胸元に、恥ずかしそうに手を添えながら〝一体どうしたのだろう〟と杏寿郎を見上げる。
それがまた愛らしくて、杏寿郎は我慢できず琴音に口付けた。
初めは軽く触れただけ。
次は先程よりも少し長く口付け、
その後は何度か軽く口付ける。
驚きで固まる琴音は、何度も降ってくる杏寿郎からの接吻に、されるがままになっていた。
最後に杏寿郎が、小さく音を立てて唇を離せば、真っ赤な顔で見上げる琴音が目に入り、杏寿郎は小さく笑みをこぼす。
そして愛おしそうに、目を細めるのだった。
想いが通じ合い、世間でいう〝恋仲〟になったとしても、何かが特別変わる事はないのだろう。
そう思っていた琴音だったが、認識を改めた方が良さそうだ。
目の前で柔らかく笑う杏寿郎を眺めながら、琴音は思うのだった。
〝私の心臓持つのかな……〟と。