第二章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ぐずぐずと鼻を啜る音だけが聞こえる室内で
天元は子供にするように、琴音の頭を優しく撫でてやっていた。
ぽんぽん、と一定のリズムを刻むそれに、余程安心したのだろう。無限列車での任務を思い出し、琴音の目からは、溜め込んでいた涙が止めどなく流れていった。
******
漸く涙が収まって来た時には、琴音は恥ずかしさで居た堪れなくなっていた。
人前で泣くなんて……
師範の前で泣いた時ですら恥ずかしかったのに、
久々に会った天元さんの前で泣いちゃうなんて〜……
軽くパニック状態の琴音だったが、突然顎を掴まれて、上を向かされた事で、無理やり天元と目を合わせる事となる。
眉を下げて、顔を赤らめた琴音と目が合うなり
「ぶっ」
いきなり吹き出し、ゲラゲラ笑いだした天元に、わなわなと震えながら琴音は口を開いた。
「天元さん!!」
「くくっ……いや、お前可愛い所あるじゃねえか!」
そう言ってニヤと笑う天元に「忘れてください!」と琴音は顔を真っ赤にさせた。
それに「悪かったな」と謝った天元は、まだ楽しそうに笑っていたが
「琴音もやっと弱音が吐けるようになったな!ちょっと安心したわ」
そうやって、優しい声色で呟くもんだから、琴音の怒りも一瞬で何処かへいってしまった。
普段、琴音を揶揄って遊んでいるように見えて、案外面倒見のいい彼は、なんだかんだで、こうやって琴音を気にかけているのだ。
今だって、いきなりそんな事言うもんだから、琴音は思わず天元をじっと見つめてしまう。
だがそんな彼はといえば、やっぱり楽しそうに笑っている訳で。その笑顔に釣られて、琴音も口元に弧を描く。
「天元さん、いつもありがとうございます」
「ああ?俺は何もしちゃいねえよ!」
「そんな事ないですよ。いつも感謝しっぱなしです」
そう言って、ふふっと笑みを浮かべる琴音に
「なんだ琴音!この宇髄天元様に派手に惚れたか!?漸く、嫁に来る決心がついたのか?」
と天元も笑って返す。
なんだか懐かしさを感じるそのやり取りに、二人は思わず顔を見合わせて吹き出した。
それはよく任務を共にこなしていた頃のお決まりのセリフで……いつも嫁になれ、継ぐ子になれ、と揶揄われていた事を思い出す。
琴音が炎柱の継ぐ子になってからは、同じ任務に着く事もなくなってしまったが……
こうして減らず口を叩ける関係は相変わらずで、お互いに自然と口角を上げる。
「天元さんとの任務、懐かしくなっちゃいました」
「お前が煉獄の継ぐ子になってから、こっちは弱っちそうな奴と組まされたり、新人の尻拭いさせられたり……散々だわ」
なんて会話をしていれば、ふと天元が
「そういえば、お前らには借りがあったじゃねえか」
と呟いた。
何となく察した琴音の頭の中では、以前天元からの手紙に書いてあった言葉が蘇る。
確かあれには〝
今頃になって取り立てるのか、その借りを……と琴音は苦笑いを浮かべながら口を開いた。
「勿論借りは返しますよ!もしも私が必要な任務があれば、この春野 琴音。天元さんの為に人肌脱ぎます!」
そう言って、琴音が胸をドンと叩けば
「おっ!いいねぇ!じゃあ、派手にドンパチ繰り広げる時はお前に頼むとするわ!」
天元もそれに応えるように、ニカッと笑った。
「でもまあ、任務は怪我を治してからな!」と
琴音の頭をガシガシ撫でつけた後、徐ろに立ち上がった天元は
「また来るわ」と言葉を残し
さすが忍びだな、と思って感心する反面、
やっぱり窓から入って来てたんだ、あの人……
と若干呆れて笑ってしまう。
天元が去っていった窓を眺めながら、琴音はふと、不安で潰されそうだった胸が、少し軽くなっているような気がした。
相変わらず突然現れ、突然去っていく彼の身のこなしには驚かされるが
わざわざ忙しい任務の合間に見舞いに来てくれたのかと、嬉しく思う。
〝期待に応えなきゃね〟
いつかまた任務を共にする事を思って、静かに目を閉じた琴音は、再び全集中の呼吸を開始するのだった。