第二章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
翌朝、アオイは琴音の病室へと足を運んでいた。
手に持っているトレーには、琴音の手に繋がっている点滴の替えが乗っている。
未だに目を覚さない琴音は、二日間高熱にうなされ続けているため、こうして蝶屋敷の娘たちが甲斐甲斐しく世話を焼いていたのだ。
数時間置きに様子を見に来ては、氷枕を変え、汗を拭ってやり、こうして点滴交換をしてやる。
そして今朝はたまたまアオイが担当だった。
普段の彼女は、眉を吊り上げ、患者を叱りつけたりと、少々気が強い少女なのである。だが責任感と患者を思う気持ちは人一倍強い、優しい心の持ち主で。
そんな彼女は、未だに目を覚さない琴音を思い、無意識にトレーを持つ手に力を入れた。
普段ニコニコと能天気に笑いながら、持参したお菓子を振る舞いに、よく蝶屋敷へ遊びに来ていた琴音。
そんな琴音は女であるにも関わらず階級は〝甲〟。
かなりの実力者で、彼女がつく任務は死傷者が少ない事で有名だった。
別にそれ自体に何か不満がある訳ではなかった。
アオイの周りには、しのぶやカナヲの様な実力者がいるから、甲だからどうと言う訳ではない。
だけどいつも呑気に、ケラケラ笑っている所しか見た事がない琴音に、、、
自分と体格も然程変わらないのに、才能がある琴音に、、、アオイは勝手に劣等感を感じていた。
そんなある日。
琴音とたまたま二人きりになる事があった。
相変わらず呑気に「昨日の任務で天元さんたらね〜」とケラケラ笑いながら話を始めた琴音に
「自分は戦いにも出れない負け犬ですから!」
とついつい、八つ当たりをしてしまったのだ。
だがそれに対し「負け犬?」と、キョトンと首を傾げた琴音は、笑うのをやめて静かに口を開いた。
「アオイちゃんは逃げずに、今もこうして戦っているじゃない。私達が全力で戦えるのは、貴方達がいてくれるからでしょう?」
「、、、ですがそれは私でなくても、誰にでもできる事です」
「そんな事はないでしょう?私も医者の父から処置の仕方を教わっていたから分かる。努力無くして、人の命は救えない筈。貴方じゃなきゃ救えない命もあるはずよ?」
そう言って笑った琴音は、アオイが知るいつもの彼女とは少し違っていて。
きっと才能があると持て囃される彼女でも、沢山の努力をしたからこそ、今の強さを手に入れたのかと、その時初めて気づいたのだ。
だがそんなアオイに気付く事もなく、最後には
「それにしのぶに小言が言える子が、負け犬だなんて可笑しいじゃない?」
と口にした琴音。にしし、と悪戯に笑っている彼女に、思わず〝敵わないな〟と眉を下げ笑ってしまったのは、今でも忘れられない。
いつでも優しく明るい琴音を思い出し〝早く目を覚ましてほしい〟と思いながら、アオイは病室の扉に手をかけた。
「あ、おはよう。アオイちゃん」
扉を開けたそこには、寝台の上に状態を起こしている琴音がいて、呆気にとられたアオイは一瞬固まってしまった。
だがすぐに我に帰り、眉を吊り上げ口を開いた。
「琴音さん、起きたなら起きたと人を呼んで下さい!」
「ごめんね!その、、、今!今起きたのっ!!」
「だとしてもです!だいたい貴方は今、肋が三本も折れているのですから、勝手に起き上がらないで下さい!!」
「えっ、起き上がるのも駄目なのっ!?」
なんかアオイちゃんも、しのぶに似てきたんじゃない?と口にした琴音。
目覚めて間もないにも関わらず、相変わらず呑気な彼女に、大きなため息を吐いたアオイは
「しのぶ様を呼んできます!!」
と一言残して、部屋を立ち去るのだった。
憎まれ口を叩いてはいたが、内心安心したアオイは
〝しのぶ様に沢山叱って貰わなければ!〟
と、廊下を走りながら思うのだった。
******
一方病室に残された琴音は、静かに目を瞑り、あの列車での任務を思い出していた。
確かに上弦と対峙し、時間を稼いだ所までは覚えている。
あの時、、、杏寿郎を上弦の攻撃から庇った際に、チラリと確認した彼の傷は、相当なものだった。
左目は潰れ、口から血を流していた姿を思い出し、一気に体が冷えていく様な感覚を覚えた。
〝あれから師範はどうなった?無事なのだろうか?〟
どんなに考えても、思い出せるのは上弦が姿を消した所までで、その後の記憶は曖昧なのだ。
どんどんと悪い方向へと思考は進み、震え出す体に唇を噛み締める。
先程だって、アオイを心配させまいと明るく振る舞っていただけで
本当は彼のことが、心配で心配で気が気じゃなかった。
いつのまにか彼が、こんなにも大切な存在になっていた事に、今更気づいた琴音は、それを失う事に脅えていたのだ。
「なんて情けないのだろう」と自傷気味に呟いた彼女の元に、再び扉を開く音が届いた。