第二章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
結局あの後、その場で何をしていいのか誰も判断が出来なかった隠し達は、大急ぎで琴音を蝶屋敷へと搬送する事にした。
移動中も琴音の呼吸は微かなもので、今にも止まってしまいそうなそれに、
彼女を背負って蝶屋敷へ駆け抜けている隠しの男は、自身の足が千切れるのではと思う程、精一杯動かして、目的地まで急ぐのだった。
そんな彼の努力もあり、思ったより早く、蝶屋敷へと運び込まれた琴音。
先に鴉によって、伝達を受けていたしのぶが、慌てて彼女の診察を開始するも、、、
他の隠し達と同様に、眉を顰めるのだった。
確かに無傷とは言えないが、、、
肋が三本折れた状態で運ばれた琴音に、意識を失い、これ程までの呼吸困難を起こす原因が見当たらないのだ。
それに一番不可思議な点は、呼吸を誰よりも極めた琴音が、全集中常中どころか、普通の呼吸すら満足にできていない事だ。
原因が分からなければ打つ手もない、、、
今残された唯一のことは、彼女の症状が落ち着くまで、点滴を繋ぎ、脱水症状を防ぐことのみなのである。
今回ばかりは、琴音の生命力の強さに賭けるしかないのだった。
******
その後直ぐに、一人部屋へと移された琴音は、あれから目を覚ます事なく、今日で二日が経過していた。
そんな琴音は、運び込まれて半日たったところで、普通の呼吸ができるまでに回復していた。
呼吸さえ落ち着けば、琴音の怪我は骨折と打撲のみ。まだ目を覚ましていないが
〝もう心配いらないだろう〟
皆がそう思っていたが、そこから琴音は高熱にうなされ続けた。
しのぶは度重なる症状の変化に頭を悩ませたが
どうやら、全集中の常中が相変わらず出来ていない事に気がづいた。
普段の彼女なら全集中の呼吸を使い、怪我の治りを早める事ができるはず。
酸素さえ充分に取り込めるようになれば、と考えていたが、、、
呼吸で治癒できない様子からして、肋の骨折に伴い、高熱を出しているようだと結論づけた。
だが何をしたら、呼吸が出来なくなる程の重症になるのかは未だに分からなかった。
その場で彼女の戦いを見ていた、伊之助や炭治郎から聞いた話だけで判断すれば、、、
〝また彼女お得意の無茶をしたのだろう〟
もう何度目か分からないため息を吐き、しのぶは琴音の病室を後にした。
******
もう一人の重症者の診察へとやってきたしのぶは、中から聞こえた妹たちの悲鳴に、ため息を吐いた。
「煉獄さん、目が覚めたからといって動かないで下さい。貴方は一番重症なんですから」
病室へ足を踏み入れながら、しのぶが苦言を口にすれば、全くもって人の話を聞いていない同僚は、声のボリュームを抑える事なく口を開いた。
「胡蝶、琴音は何処にいる?無事なのか!?」
余りの声量に、杏寿郎を抑えていた三人娘は耳がキーンとしているのに対し、しのぶは少々苛立ちを募らせていた。
妹たちを退室させたしのぶが、徐に杏寿郎に近づいたかと思えば、彼の怪我をした箇所を、ぐっと押さえつける。
「う"っ」
さすがの杏寿郎も、そんな事をされれば痛みで息を詰まらせてしまうが、彼女はそんな杏寿郎に構う事なく言葉を発した。
「煉獄さん、いいですか?今は琴音の事より、自分の体を治す事に集中して下さい」
杏寿郎が頷くまで、怪我の箇所を押さえ続けた彼女は、
珍しく眉を下げ、しょんぼり頷いた杏寿郎を見届けた後、口を開いた。
「琴音は無事です。まだ眠っていますが、命に別状はありません」
「そうか、、、すまない胡蝶」
琴音の無事を伝えれば、杏寿郎はすぐに大人しくなる。
元々、動けるような軽い怪我では無い筈だし、今朝の診察時には、まだ意識は戻っていなかった筈。
寝起きでこの有様とは、、、
どいつもこいつも無茶ばかりするのである。
そりゃ、少しくらい苛立つのも、仕方のない事だろう。しのぶの怒りが伝わったのか、随分と大人しくなった杏寿郎に、しのぶは視線を合わる。
目覚めたのならば、彼の症状を伝えなければならない。本人も、もう薄々気づいているかもしれないが、しのぶは小さく息を吐き、口を開いた。
左目は完全に潰れてしまった事。
肋が数本折れて、臓器を気付けた事。
そこに打撃を喰らった事で、
肺が傷ついてしまった事、、、。
そこまで説明したしのぶは、意を決して口を開いた。
「肺が傷ついてしまっては、全集中の呼吸も上手く使えないでしょう。煉獄さんは、もう、、、」
杏寿郎は静かに目を閉じて「そうか」と、口にした。普段の彼より落ち着いた声色で呟かれたそれに、しのぶは悲しそうに目を伏せた。
だが、次に彼が口を開いた時には、いつもの笑顔に戻っていて
「胡蝶、命を助けてもらった事、感謝する!!もう暫く世話になるが、宜しく頼む!!」
そう言って笑った彼に、しのぶは何も言えなくなった。
いつも通り何を考えているのか分からない、笑顔を浮かべている同僚の
〝悔しい〟
押し殺した心の叫びが、聞こえてくるようで、、、
しのぶは拳を強く握りしめる。
自分が同じ立場だったら、、、と
しのぶも胸が張り裂けそうな痛みを感じたが
杏寿郎には気付かれぬよう、笑顔を貼り付け
「また、来ます」と、静かに病室を後にした。
杏寿郎の病室に背を向けて、廊下を歩き出したしのぶは、ふと思う。
〝こんな時こそ、琴音が彼を支えてやるべきだろうに〟
まだ眠っている友を思い、しのぶは小さくため息を漏らすのだった。