第二章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ぎょろりと大きな眼に見つめられた善逸は、冷や汗を流し固まっていた。
まさに蛇に睨まれたカエル状態である。
そんな善逸に全く気づかぬ琴音は、嬉しそうに杏寿郎へと口を開いた。
「師範!私が蝶屋敷で訓練をつけていた隊士達です」
にこにこと笑う彼女に反して、「むう」と考え込んだ杏寿郎はどんどん不機嫌になっていっている気がする。
そして、そんな杏寿郎に見つめられている善逸は、どんどん顔色が悪くなっていく。
それを遠目に見ていた乗客達は、皆一様に思うのである〝いい加減にしてくれ〟と。
******
その後、少年隊士達の紹介をし始めた琴音を、さりげなく自分と向かい合う席に誘導した杏寿郎。
未だに少し不機嫌ではあるが、少年を問いただすより前に、琴音を少年から遠ざける事を優先したようである。
そんな杏寿郎は、自分の隣には炭治郎を。琴音の隣には、鬼の妹が入った木箱を置き、黄色い少年の排除に成功したのだった。
ちなみに杏寿郎の被害を受けた善逸は、通路を挟んだ反対側で、初めての汽車にはしゃぐ伊之助を必死に宥めていた。
「ぬはっぬはっ、すげぇ!主の中すっげえ!!ぬはははっ」
「割れるだろ!ガラス!」
「ぬはははは」
「少しは落ち着けよ」
なんだかんだ言って、人がいい善逸はとても大変そうである。
そんな彼らを気にする事なく、杏寿郎は口を開いた。
「君たちはどうしてここにいる。任務か?」
「はい。鎹鴉からの伝達で、無限列車の被害が拡大した、現地にいる煉獄さんと合流するようにと、命じられました」
そう返事を返した炭治郎に琴音は視線を移し、二人が目の前で繰り広げる会話に耳を傾ける。
「うむ!そういうことか!承知した」
杏寿郎があっさり納得して頷いてみせれば、炭治郎も「はい」と頷き返す。そして、やや緊張気味に言葉を続けた。
「それともう一つ、、、煉獄さんに聞きたい事があって」
「なんだ!?言ってみろ!」
「俺の父のことなんですが」
「君の父がどうした!!」
食い気味で問いかける杏寿郎に、炭治郎は話しづらそうである。少し気の毒にすら思ってしまう状況だが、琴音は口を挟むことはせず、そのまま彼らの話に考えを巡らせていた。
炭治郎の話では、幼少期に彼の父が見せた神楽に、戦いに生かせるような身のこなしがあったと言う。
〝神楽とは神に捧げる舞や歌をいう筈。
下弦の鬼相手に咄嗟に出して応用するなど、そんな事が可能だろうか?
『ヒノカミ神楽』聞いた事もない名前だけど〟
炭治郎の問いかけに、うーん、と考え込んでいた琴音と同じように、杏寿郎も熟考するように押し黙る。
しかし次の瞬間、「だが知らん!」と杏寿郎はきっぱり言い放った。勿論、向かいで考え込んでいた琴音もその一言に驚き、思考をストップさせてしまう。
「この話はこれで終いだな!!」
「え?ちょっともう少し、、、」
困惑する炭治郎は尤もだろう。
琴音も少し同情してしまうほどだ。
困惑する二人を他所に
「炎の呼吸は歴史が古い」
杏寿郎がまたしても唐突に語り始めた。
相変わらず切り替えの早い杏寿郎に、琴音は小さく苦笑いを漏らし、その姿を見つめる。
淡々と語り始めた杏寿郎は、先程の様にピシャリと会話を終わらせたり、思った事をキッパリと言い切るところがある。
今だって固まる炭治郎を他所に
「黒刀か!それはきついな。ハハハ!!」
などと、豪快に笑っている。
だが琴音が知る彼は、面倒見のいい男なのだ。自分だけでなく他人を思いやれる優しい人だからこそ、琴音だって杏寿郎に憧れ、杏寿郎の力に少しでもなりたいと思うのだ。そんな事を考えていれば、耳に届いた杏寿郎の声。
「俺の所で鍛えてあげよう!!もう安心だ!」
目の前でそれを聞いていた琴音は、自分の口角が自然と上がっていくのが分かった。
杏寿郎の目は炭治郎ではなく明後日の方向を見ているから
「いや!いや!!そして何処を見ているんですか!?」
と炭治郎は少し困り気味だが、後輩思いの優しい杏寿郎の一面に、琴音は嬉しくなってしまう。
「炭治郎君、私と一緒に師範の元で頑張ろう!」
機嫌を良くした琴音が、冗談半分で炭治郎の勧誘をすれば「琴音さんまで、、、」と眉を下げる炭治郎。
それが余りにも面白くて、琴音はついに笑いが堪えきれず噴き出すのだった。
そんな時、ガラッと窓が開く音が響き、伊之助の楽しそうな声が聞こえて、琴音達はそちらに視線を向ける。
「危ない、馬鹿この!」
「俺、外に出て走るから!!どっちが速いか競争するっ!!」
「馬鹿にも程があるだろう!!」
伊之助が窓から身を乗り出していて、善逸がそれを必死に止めようとしている姿を見て「危険だぞ」と杏寿郎が声をかける。
「いつ鬼が出てくるかわからないんだぞ」
「嘘でしょ!?鬼出るんですか、この汽車!」
「出る!」
「出んのかい!!」
嫌ァーッ!!俺、降りるぅ〜!!そう喚き出した善逸に、琴音はため息を漏らす。
彼はどうも臆病すぎる気がする。
確かに、この汽車には鬼が出るだろう。
というか、そういう報告があったから、私たちは来たというのに、彼らは聞かされていなかったのだろうか、、、
ただ、もしそうだとしても、彼がここまで脅えなる必要もない筈だ。まだまだ発展途上ではあるが、彼は充分才能に満ちた隊士なのだから、もう少し自信を持ってもいいのに、、、
琴音は一人そんな事を思うのだった。
******
暫くすると車両の扉が開き、
随分と顔色が悪い車掌が入ってきた。
「切符、、、拝見、、、致します、、、」
と乗客に声をかけながら此方へと歩みを進めてきた男性を見て「なんですか?」と炭治郎が口を開く。
「車掌さんが切符を確認して切り込みを入れてくれるんだ」
杏寿郎が説明している声を聞きながら、琴音は男性に目を向ける。
男性が喋る言葉には覇気が感じられない、それどころか顔色は病的にも見える。
此方が〝大丈夫だろうか〟と心配する程だ。
そして、何故かはわからないが、琴音は彼が一歩、また一歩と近づくにつれて、嫌な気配が近づいてくるような、、、胸騒ぎをかんじていた。
〝なんだろう?この嫌な感じ〟
男性に気づかれぬように、彼の様子をじっと盗み見ていた琴音だが、幾ら観察しようとも、目の前の男性は、顔色こそ悪いだけで普通の人の気配しか感じられない。
男性は皆の切符に切り込みを入れ、最後に琴音が持っている切符へと手を伸ばす。
琴音は多少の違和感を感じながらも〝思い違いか〟と、皆に従い自分の切符も彼へと差し出すのだった。
パチン
「拝見しました、、、」