第二章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
結局あの後、中々姿を現さない鬼に、三日間も足止めを食らってしまった琴音。
やっとの事で、杏寿郎と合流する予定の駅まで到着したのだが、、、
遠目にでも誰か分かってしまう、派手な髪色の男が
「この弁当を11、、、いや連れも来るはずだから12個貰おう!」
と大声で注文している姿に、顔を引き攣らせる。
琴音が〝そんなに食べて動けるの?〟と少し呆れながら彼に近づけば、山盛りの弁当を抱えた杏寿郎も、此方へ気づいたようだ。
「琴音、よく来たな!」と笑った後
「とても美味そうな弁当を見つけたので、琴音の分も買っておいた。一緒に頂こう!」
と口にして、汽車へと早速歩き出した。
弁当を山盛り抱える杏寿郎の後ろ姿が、
なんだか可愛らしくて
〝きっともう、弁当の事で頭がいっぱいなんだろうな〟
とクスクス笑いを堪えながら、琴音は杏寿郎を追いかけるのだった。
******
汽車に乗り込み、杏寿郎の隣に腰を下ろした琴音。
それを視界の端に確認した杏寿郎は、弁当へと手を伸ばしながら口を開く。
「例の隊士達への訓練はどうだった?」
杏寿郎から弁当を一つ受け取って、お礼を述べた琴音は笑顔で出会った隊士達の話を始める。
「しのぶが期待するだけあって、中々見込みのある少年達でした」
そう話だした彼女は、とても楽しそうで
〝三人の隊士にはこんな訓練をつけました。とか
三人とも個性は強いけど、
とってもいい子でした。とか
鬼にされた女の子は、ぐっすり眠っていて、、、
鬼って寝るんですね?びっくりしました。とか〟
にこにこと話をする琴音の声に、耳を傾けながら、杏寿郎も自分の弁当に手をつけるのであった。
******
静まり返った車内に
「うまい!」
と大きな声が響き渡り、乗客達は苦笑いを浮かべる。
その現況を作り出している声の主、、、
杏寿郎の隣に座る琴音もまた、他の乗客達と同じ表情を浮かべていた。
そんな琴音が、ふと視線を隣にやれば、彼は新たな弁当へと手を伸ばしていて、、、
もぐもぐと口を動かしたかと思えば「うまい!」とまた、大声を上げていた。
その光景を、呆然と眺めている彼女は思うのだ。
〝何故こうなってしまったんだろう〟と。
そもそも、一つ目の弁当を食べている時は、まだ良かったのだ。
第一声こそ「うまい」と大声だったが、琴音の話を聞いていたのか、相槌もしっかり打ってくれていた、、、気がする。
だが先に琴音が弁当を食べ終わり、丁度そこで、隊士達の訓練の報告も終わりを迎えた。
そろそろ今回の任務について、もう一度確認をしようか、と琴音が口を開こうとすれば
それよりも先に「うまい!」と大きな声が鳴り響く。
一瞬、驚きで動きを止めた琴音だったが
また隣から上がる大きな声に、慌てて口を開く。
「あのっ、師範!」
「ん?まだ食べ足りないのであれば、もう一つ食べるか?」
「い、いえ。お腹はいっぱいなのですが、、、」
「うむ!それはよかったな!」
そんな会話が繰り広げられた後、また大きな声で「うまい!」と口を開いた杏寿郎に、琴音の心は簡単に折れた。
〝あ〜、これは無理だわ〟
早々に諦めた彼女が、静かに隣の男から窓の外へ視線を移せば、そこからは、弁当を一口食べては「うまい!」と叫ぶ杏寿郎の声だけが車内に響いた。
杏寿郎がこのように〝それはそれは美味しそうにご飯を食べる〟事くらい、もう慣れてしまった彼女だったのだが、こうして注目を浴びれば、勿論恥ずかしくもなってしまう、、、
未だに弁当に夢中な杏寿郎は、全く気にしていないのだが、ここは汽車の中なのだ。
こんな狭い空間で、こんな大声を、しかも何度も出されたら、、、注目の的になってしまう筈だ。
窓の外を見ながらも、乗客達の好奇な目に気付いている彼女は、元々小さな体を、これでもかと言う程小さくさせて、恥ずかしさを我慢するのだった。
******
そんな中響いた、ガラッと扉が開く音。
見知った気配が近づいて来たことに安堵して、琴音は小さく息を吐いた。
〝やっと、この恥ずかしさから解放される!〟
琴音はキラキラした顔で、そちらへと振り返り、扉を開けた体勢のまま、固まる炭治郎達を視界に捉えた。
まさか別れて三日で再開するとは、全く想像もしていなかったのだが、、、
このタイミングで現れてくれた少年達が、彼女には救世主の様に見えたのだ。
そんな彼らは、まだ琴音には気づいていないようで、その手前に座っている男に驚いて固まっていた。
そして、杏寿郎もそんな彼らに気づいていない、、、訳ではなく、どうやら気にしていないようで、未だに弁当を食べ続けている。
「あ、あの〜、、、煉獄さん?」
となんとか勇気を振り絞り、炭治郎が声をかけても
彼から返ってくるのは「うまい!」の一言。
炭治郎はこの状況に困惑して、オロオロと周りを見回していたが、突然、彼の隣にいた人影が、すくっと立ち上がった事により、彼女の存在にやっと気づいたようだ。
それは、勿論炭治郎の側にいた善逸も同じようで
「琴音さん!まさか、こんなにすぐ会うなんて、、、もしかして俺を待っていてくれたんですか?嘘?これってもしかして結婚?そうなの?」
そう言って炭治郎を押し除け、琴音の前で取り乱している善逸に
眉を下げ、心なしかうるうると瞳に涙を溜めた彼女が近寄り、ガシッと手を掴む。
「私は今、君たちに会えて本当に嬉しい。」
そんな事を言って、掴んだ手をブンブンと上下に振る琴音に、善逸はとうとう真っ赤になって奇声を発した。
「きいやぁぁああ〜、幸せ!幸せ〜」
だが次の瞬間、それまで何も反応を見せていなかった杏寿郎が、いきなり立ち上がり二人を引き離した。
驚いて見上げた先の杏寿郎の真顔に、、、
彼から聞こえる〝嫉妬の音〟に、善逸は気絶しそうになる。
〝彼女に指一本でも触れた事を知られれば、君の命はありませんよ〟
そんな彼の脳裏には、数日前の楽しげなしのぶの声が鳴り響くのだった。