第一章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
〝え、何?……なんて言ったの、今?〟
琴音は随分と混乱していた。
先程までいくら待っても現れない天元に苛立っていた筈なのに、今は目の前に立つ男に冷や汗をかいて固まっている。
そんな彼女に男はもう一度声をかける。
「随分待たせてしまったようで、すまない!!宇髄からこちらの任務に応援に行くよう指示があったのだが、些か急だったもので……少し遅くなってしまった!!」
先程と同じような内容を大声で伝えてくる男に、琴音はハッとして勢いよく頭を下げる。
「炎柱様、大変申し訳ございません。てんげ……、音柱様かと思い失礼な態度を取ってしまいました」
他の隊士がいれば、音柱にだってそんな態度は駄目だろうと突っ込まれそうなものなのだが……そんな事など知った事ではない彼女は、心の中で天元への不満をぶつぶつ唱えていた。
そんな琴音に笑顔を向けたまま、男は再び口を開いた。
「ハハハッ気にするな!そもそもはいきなり過ぎる宇髄に非があるからな!この話はこれでしまいだな!」
そう言って豪快に笑う目の前の男に、琴音は瞬きをパチパチと繰り返した。
******
『炎柱の煉獄』といえば、言わずと知れた名家出身の隊士である。
代々柱を受け継ぐその実力は相当なもので、任務を共にした事もない琴音ですら、その噂の数々に会う前から密かに尊敬を寄せている隊士である。
噂では彼は人柄もとても良く、後輩思いの熱い男………らしいのだが。
目の前で笑顔を貼り付け、明後日の方向を見てハキハキ大声で喋る男に〝え?この人が煉獄さん……だよね?合ってるよね?〟と琴音は何故だか不安を覚えた。
柱と任務というのは、普段から合同任務を主にこなす彼女でもそんなに多いものではない。
実弥や天元のように、お互い戦いにおいて相性がいい彼らとは度々同じ任務につくのだが、彼女が入隊してから2年。合同で任務についた柱は彼らだけだった。
……まぁ、天元にせよ。実弥にせよ。
柱は随分と個性豊かな人が多いようで、彼女に言わせれば皆第一印象は「何この人?」となんとも失礼なものである。
きっと今目の前のこの人も、どうせその類だろう……なんて、かなり失礼な事を考えながら琴音は徐に口を開く。
「なるほど、了解しました。……遅くなりましたが、今日任務に同行させて頂く春野 琴音です。よろしくお願いします」
「む?春野……?」
そう言って深く頭を下げた彼女に、今度は煉獄が固まる番だった。
〝まさか昨日の今日で、例の隊士に会う事になろうとは……よもやよもやだ……〟
そんな彼は、つい昨日の柱合会議でのやり取りを思い出し、小さく苦笑いを浮かべるのだった。
******
昨日ーー。
あれから柱合会議も無事に終わりを迎え、柱達は解散するようにぞろぞろと産屋敷邸を後にしていた。
そんな中、杏寿郎は今にも帰路に着こうとしていた天元を呼び止め、もう一度例の隊士について口を開いたのだ。
「宇髄!!先程の話の少女……同じ炎の呼吸の使い手として興味がある!!不死川にあそこまで言わせる隊士となれば尚更だ!!もしその少女に会う事があれば、俺のところで鍛えてやると伝えてくれ!」
そんな会話を確かにした覚えはあるが、まさかこんなに早く噂の隊士と会う事になろうとは……と、さすがの杏寿郎も驚いてしまった。
しかし大変
目の前で眉を下げ困った顔をしている少女に視線を移すと、むう?と唸りながら首を傾げた。
「ところで春野君!!どうしてそのような格好をしている?」
杏寿郎はそれはもう大きな声で、彼女に問いかけるのであった。
******
そのあと彼女から、今回の任務の情報をある程度聞き出した杏寿郎は改めて琴音をじっと観察する。
〝確かに宇髄が言っていたように随分と整った顔立ちをしている少女だな〟と杏寿郎は関心する。
目はくりくりしているし鼻筋もすっと通った美人顔で、色も白い為随分とはっきりした顔立ちにみえる。
このような着物を着ていれば、誰もが美しい町娘としか見ないだろう。
しかし、やはり長年刀を振り続けているその掌は、自分と同じようにゴツゴツとした豆が出来ていて……
なんだか少し不釣り合いのような……
鬼を知らずに生きていればきっとまた違う道があったろうにと思わず眉を下げて考え込む。
しかし、任務の内容を聞くや否や突然口を閉ざした杏寿郎に、琴音が不安を覚えるのは至極当然で……オロオロと困ったように視線を彷徨わせた琴音は、勇気を振り絞り問いかける。
「今回の任務、赤い着物の女性ばかりが狙われているとの事でしたので、囮役として着物を着てきましたが………隊服の方が良かったでしょうか?」
「いや!大変似合っている!!安心しろ!!」
「……え?あ、ありがとうございます?」
「うむ!!では、鬼から俺が春野君を必ず守るから、囮役任せたぞ!!」
予想外の返答に琴音が戸惑いながら口を開けば、杏寿郎はそれだけいい残して近くの路地にさっと身を隠してしまう。
「……了解」
あまりの展開の速さに、あっという間に置いていかれていた琴音だが、顔を引き締め街中へと歩みを進めていく。
日が落ちてしまえば連日の神隠しを恐れてか、若い女性どころか人っ子一人見当たらない。そんな街を歩く赤い着物の美しい少女は、傍目から見てもかなり目立っていた。
そんな中少しずつ近づいてくる鬼の気配に、煉獄も琴音も気づいてはいたがまだ姿は捉えれていなかった。
……いったいどこに?
考えを巡らせながら辺りに集中している琴音の足元の砂が盛り上がり…
次の瞬間、その場から飛び退いた彼女を、穴の中へ引きずりこもうとした鬼が土の中から顔を出す。
「炎の呼吸 壱ノ型 不知火」
そこへすかさず杏寿郎が刀を振るうが、すばしっこい鬼は地面の中へと身を隠してしまう。
だがまた直ぐに、今度は琴音の後ろの地面から鬼が飛び出し彼女に攻撃を繰り出した。琴音は太ももに隠した日輪刀を素早く取り出し、それを軽く受け流す。
杏寿郎は日輪刀を隠し持っていたことや、それが短刀だった事に一瞬驚いたが、直ぐに我に帰り彼女のもとへ加勢に入る。
……が、またすごい勢いで地面に潜る鬼に、杏寿郎は策を巡らせる。
〝異様に早い、土に潜られるのは厄介だ……地面から引きずり出す他あるまい〟
それには彼女を囮にする他ない……か、と杏寿郎が難しい顔をしていれば、当の本人は大したことないとでも言うように平然と口を開いた。
「私があの鬼の動きを止めるので、炎柱様は首を斬り落として下さい」
「ギャハハ……俺を止める?お前土の中で戦えるのか?俺のように上手く地面を掘って進めるのか?」
琴音の言葉を聞いた鬼は、土の中から馬鹿にしたように笑い声を上げた。だが彼女はそんな鬼に構う事なく淡々と言葉を続けていく。
「行方不明の女性達はどうしたの?」
「そんなものすぐに食ったに決まっているだろう!!俺は女が泣き叫ぶ姿が好きなんだ〜……鮮やかな赤い着物を、どす黒い血の赤が染め上げていく瞬間にゾクゾクするんだよっ!!どの女も美味かったが……お前は一等美味そうだっ!!」
そう口にするや否や、鬼は琴音の足元からまた素早く飛び出した。
「……っ、」
反応が遅れた琴音は最初の攻撃のように上手く飛び退く事が出来ず、鬼が穴から体を出せば、彼女を簡単に土の中へと引きずり込める距離にしか後退できていなかった。
……かのように鬼にも、杏寿郎にも見えていたのだが。
「はい、鬼さん捕まえた」
可愛らしい少女の声が聞こえると同時に、鬼の手足から一斉に血が噴き出した。一瞬の出来事で何が起きたのか理解していなかった鬼も、両手が肩から先を斬り取られ、両足も深くえぐられた状態に、思わず汚い悲鳴をあげる。
「ぎゃーっ、痛ぇーーっ!何しやがった女っ!」
「何って……土に潜るのが得意そうだったから、そのモグラみたいな手を斬ってあげただけ。土の中じゃないと、ただの雑魚なくせにまんまと釣られて飛び出してくるなんて随分貧相な頭ね」
「な、何だとっ!!黙って聞いてれば……この糞女がァァー!!」
平然と鬼を挑発する姿に、ここは彼女に任せて大丈夫だと判断した杏寿郎は「春野君!そのまま鬼の頸も頼む!」と声をかけた。
そんな彼をチラリと横目で確認した琴音は、苦笑いを浮かべながらそれに大きく頷いた。
随分前から此方を伺うような杏寿郎の視線には気づいていたが、この試されているような反応は大方天元から何か伝えられていたのだろう。
……いや、そもそもこの任務自体琴音のためにと仕組んでくれたのだろうな、との考えに至った。
〝まぁ、なんだかんだ天元さんは優しいからな〜〟
なんて考えながら、琴音は目の前の鬼に視線を移した。
琴音と目があった鬼は慌てて地面に潜ろうともがくが、足は言う事を聞かず手に至ってはまだ再生すら出来ずもげたままである。
鬼が頸を斬られると構えるよりもずっと早く
「炎の呼吸 壱ノ型 不知火」
「ゥギャーッ………」
彼女は渾身の一撃で首を斬り落とした。
危なげなく一撃で仕留めた琴音の実力に、杏寿郎は自然と口角を上げた。
だが、くるりと振り返った琴音が「炎柱様、今の攻撃はどうでしたでしょうか?」と満面の笑みで聞いてくるものだから、さすがの彼も思わず噴き出して笑ってしまう。
「ハハハッ……なるほど!!宇髄や不死川が言っていた通り、君は随分面白い戦い方をするようだ!!」
……そこでなぜ、実弥さんがでてくるの?ときょとんとしている彼女に、杏寿郎は簡単に昨日の柱合会議でのやり取りを伝えた。
「……そうだったのですね」
「うむ!!時に春野君、君はかなりの実力を持ち合わせているようだが、やはり炎の呼吸の威力は少し弱いように感じた!!」
それに少しシュンと肩を落とした琴音に、杏寿郎はふっと笑みを漏らした。
「もし春野君さえよければ、俺のところで鍛えてあげよう!!どうだ、俺の継ぐ子にならないか!?」
「継ぐ子……?」
「うむ!!強い剣士に育ててあげよう!!」
安心しろ!と杏寿郎が豪快に言い放つものだから琴音は一瞬呆気に取られた。パチクリと瞬きを繰り返し目の前の彼を見つめた琴音だったのだが、
噂通り……後輩思いの面倒見がいい彼の姿に思わず笑みを深くして、彼の申し出に頭を下げた。
「よろしくお願いします」
「ああ!!こちらこそ宜しく頼む!!」