第二章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
暗闇を物凄い勢いで駆け抜ける人影が、今まさに少年へと振り下ろそうとしていた鬼の腕を切り落とした。
ぎゃーーー
耳を塞ぎたくなるような叫び声をあげる鬼を前にひっ、と後退りする少年。震える手でなんとか刀を握りしめ、足を踏み出そうとした
その瞬間、、、
鬼と少年の間にふわっと突然降り立った目の前の女性によって鬼の首は斬り落とされた。
灰に変わっていく鬼の姿を呆然と少年が眺めていれば、ゆっくりと振り返った女性。いや、まだ少女といったところだろうか。
全身真っ黒の服装に、整った顔立ちの少女がにこりと笑って口を開いた。
「遅くなってごめんなさい、大丈夫?」
「は、はい。すみません、琴音さん。助かりました」
そう言って一言二言、会話を交わしていた彼ら。
だが後方から近づいてくる気配に気づいた少女は小さくため息を漏らし、目の前の隊士に優しく語りかける。
「君は怪我の手当てをしてもらったら、後は私に任せて下山してね。」
そう言うや否や、鬼の気配がする方へ走り去って行った。彼女が一瞬で姿を消した事に気づいた隊士は呆気に取られてしまうのだった。
最近、鬼の動きが各地で活発になってきている。
今回も、この山だけでもう六体もの鬼を討伐しているというのに、、、
「何体いるのよ」と琴音は心底嫌そうに呟いて、また駆け出すのだった。
******
彼女、春野 琴音が炎柱の継ぐ子になってから早いもので一年以上もの時が経過していた。
あの大怪我を負った任務以降、着々と力を伸ばしていった琴音は階級こそ変わりはしないものの、後輩からは絶大な信頼を得るほどにまで成長していた。
もともと呼吸の使い方が人より優れていた事もあるが、やはり炎の呼吸を極めた師範についた事で格段にその成果が現れる様になっていた。
そして、彼女がつく任務では圧倒的に〝死傷者が少ない〟事から、こうして後輩達の援護に当たる任務も多くこなすのだがー。
〝それにしてもこの数は異常だ〟と琴音は思った。
朝が来るまでに彼女が対峙した鬼は全部で七体。その全てをきっちり討伐した琴音は、杏寿郎に帰還する報告を鴉に伝言として託していた。
鴉が飛んでいく姿を確認した琴音は、先日杏寿郎から聞かされた〝那谷蜘蛛山での一件〟を思い出し、考えを巡らせた。
******
「鬼を連れた隊士?」
そう聞き返す琴音に杏寿郎は難しい顔で
「うむ。なんでも人を襲わない鬼だそうだ」と返事をした。
杏寿郎の話では、那谷蜘蛛山で鬼の討伐に当たった隊士にかなりの被害が出たらしい。
なんでも下弦の鬼が他の鬼を率いていたらしく、柱が二人駆り出されるほど大掛かりな任務だったそうだ。勿論、鬼達は全て柱の手によって討伐されたのだが。話はそこで終わる事はなかった。
その中にいた隊士が、どうやら鬼にされた妹を庇っていたらしく、気絶させられ本部に連行されたのち、柱合会議で裁判にかけられたのだ。
柱達の中でも意見は二分し、大半が隊士とその妹である鬼の「斬首」を望んだと言うが。
結果としては、お館様の配慮と庇い立てする者達の存在で、なんとかその隊士は処分を免れたらしいー、、、。
正直長年、鬼と対峙してきた琴音にとっても〝人を食べない鬼〟というのは俄には信じられない話ではあった。
だが柱合会議で決定した案件であれば、自分が口出しできる事ではないと結論付けて、その会話はそこで終わったのだ。
あの時、隊士の話で内容の大半が飛んでしまった
が〝鬼が群れる〟など、今まではあまり考えられない状況だった。
だが今回の任務でもこれだけの数が現れた辺り、何かよくない方向に鬼舞辻無惨が動き出している様な、そんな気がしてならない。
力はどれだけつけても足りないな、とため息を一つ落として彼女は帰路に着くのであった。
******
やっとの思いで帰路についた琴音が、煉獄家に着いたのは昼過ぎだった。
明け方まで山の中を走り回っていたのだから、当たり前といえば当たり前なのだが、体は心底疲れていた。
だが風呂に入り少し仮眠を取った彼女は、徐に隊服へと着替え日課である鍛錬に打ち込むのであった。
こうして直向きに、己を磨き続けれる事が琴音の強みでもあるのだが、同時に一人で抱え込んでしまう所が彼女の欠点でもあった。
だがあの大怪我を負った任務以降、彼女の中で何かが変わったのだ。
今まで全くと言っていいほど泣き事を漏らした事がない琴音が、ごく稀にだが杏寿郎や愼寿郎相手にぽつりと呟く事がある。
それは、弟の事だったり。育てへの思いだったり。はたまた救えなかった仲間への懺悔だったり。
口にするのは、たった一言二言だけだが、杏寿郎は琴音がそうやって自分を頼りにしてくれている事が嬉しかった。
だから、杏寿郎も母との思い出や、諭してもらった己の使命の話などを、よく彼女には話していた。
そんな風にして過ごしてきた琴音は、もはや煉獄家には欠かせないほど、この家に溶け込んでいた。
そんな事を考えながら、杏寿郎は一人黙々と素振りを行う琴音の後ろ姿に声をかけた。
「お館様から呼び出しがあった。明日、本部へ顔を出して来る!」
「了解しました。、、、新しい任務でしょうか?最近鬼の動きが活発になってきたように感じますし、お館様も何かお考えがあるのやもしれませんね。」
手を止め、うーん。と考え出した琴音に、「そうかも知れんな!」と笑った杏寿郎。
この時の二人はまだ呑気なもので、、、
この先の任務で死闘を繰り広げるなど想像もしていないのだった。