第一章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
琴音は眉を下げ、困り果てていた。
彼女の前には、大きな目からボロボロと涙を流す千寿郎と、彼とは対照的に腕を組み険しい顔をして琴音を見下ろす愼寿郎が立っていた。
そんな三人を後ろから眺めていた杏寿郎は
「今回は琴音に非があるのだから、早く謝った方がいいだろうな!」と何故か笑っている。
〝何故、こんな事になったんだ〟と頭を抱える彼女が、このような状況に追い込まれたのは
遡ること数刻前、、、。
******
しのぶ達に見送られ、蝶屋敷を後にした二人。
琴音を気遣い、いつもよりゆっくり歩く杏寿郎に気づいた琴音は嬉しそうに口を開く。
「久しぶりに煉獄家に帰ると思うと、なんだか嬉しくなりますね。、、、と言っても昨日起きたばかりで、久しいという実感はあまり湧いてきませんが」
そう言ってクスクスと笑いながら「皆さんお変わりないですか?」と口にする琴音に、杏寿郎は彼女がいない間の煉獄家を思い出していた。
変わりないといえば変わりないのだが、、、
やはり琴音がいないだけで何処となく寂しい気がしてしまうのは、彼だけではなかった筈だ。
父は琴音の名前こそ出しはしなかったが、杏寿郎が家へ帰れば「今日はどうだった?」と任務の事なのか、彼女の容態の事なのか分からないような曖昧な質問を毎日寄越してきていたし
優しい弟に至っては、何をするにも心ここに在らずといったような様子で、大きなため息をついているのを何度も見かけた程だ。何回か彼女の病室に荷物を届けに来てくれた弟が、目覚めぬ琴音の姿に落胆して帰っていく姿は今でも忘れられない。そんな事を頭の中で巡らせながら杏寿郎は口を開く。
「父上も千寿郎も琴音の事をとても心配していたから、早く元気になった姿を見せてやってほしい!」
「勿論です。、、、それに千寿郎君には家事を任せっきりにしてしまいましたので、私もお手伝いしなくては!師範は今日のお食事で何か食べたいものはありますか?腕によりをかけてお作りしますよ?」
「琴音が作ってくれるのか?それは楽しみだな!」
そう言って笑った彼は
「やはり、ここは薩摩芋の味噌汁だろうか?」
と続けるのだった。
そんな話をしながら、歩いていれば煉獄家が見えてきて、琴音は嬉しそうに微笑んだ。
隣でその表情の変化に気づいた杏寿郎も、彼女につられるように笑顔になり、ご機嫌なまま家の戸を開ける。
「父上、千寿郎、ただいま戻りました」
そして、今に至るのだった。
******
家の奥からバタバタと足音が聞こえたと思ったら、千寿郎だけでなく、普段出迎える事など滅多にない愼寿郎までもが顔を出し、琴音はびっくりしてしまう。
だがそれも一瞬で、気を取り直した彼女はふわりと笑い「愼寿郎様、千寿郎君、ただいま戻りました」と頭を下げ、口にするのだった。
琴音としては、千寿郎君の可愛いらしい
「おかえりなさいませ」が返ってくると思っていたのだが、一向に誰の声も聞こえない。
〝あれ?〟と不思議に思い、彼女が顔を上げれば
大きな目からボロボロと涙を流す千寿郎と、彼とは対照的に腕を組み険しい顔をして琴音を見下ろす愼寿郎が立っていたのだ。
驚きで動きを止めた彼女に、千寿郎が口を開く。
「琴音さん、、、体はもう大丈夫なのですか?大怪我を負ってから、ずっと目を覚まされないと聞いて、、、心配していました」
そう言ってボロボロと泣く千寿郎を琴音が慰めようと口を開くより前に、息子の隣で険しい顔をした愼寿郎が口を開く。
「お前は初めて会った時から生意気な小娘だと思っていたが、、、こんなじゃじゃ馬娘だったとは。自分の事は棚に上げて、他人の体はお節介な程に気遣うなどお前は大馬鹿者なのか?」
そう吐き捨てた愼寿郎は、じとりと琴音を睨みつける。
まさか千寿郎を、泣くほど心配をさせてしまったとは思っても見なかったし、愼寿郎にこんなお説教を食らうとも思ってはいなかった琴音は、眉を下げオロオロと慌て出す。
〝琴音がいなくて寂しく感じていたのは、自分だけではなかったのだな。彼女は、こんなにも煉獄家に必要とされていたのか〟
そんな彼女の一歩後ろで、皆のやり取りを眺めていた杏寿郎はそんな事を思い、嬉しそうに笑って口を開く。
「今回は琴音に非があるのだから、早く謝った方がいいだろうな!」
何故か振り返らなくても、杏寿郎が笑っているのが分かってしまった琴音は、顔を引き攣らせ思ったのだ。
〝何故こんな事になった〟と。
一瞬現実逃避しかけてしまったが、琴音はこの場を収めなければと何とか思考を呼び覚まし、土下座するほどの勢いで頭を下げる。
「この度は、皆様にご心配とご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありません。これからは怪我などせぬよう鍛錬により打ち込みますので、、、今回はお許しくださいっ」
そう言って顔を上げた琴音は、泣きそうなほど眉を下げて、、、なんとも間抜けな顔をしていた。
それには愼寿郎も思わず笑ってしまう。
いつも減らず口を叩く少女だが、なんだかんだ真面目で優しいことを知っている彼は
大きなため息を吐いた後〝今日はこの辺にしてやるか〟と思い立ち「とりあえず家の中に入りさない」と声をかけるのだった。
******
〝とりあえず家の中に入りなさい〟
愼寿郎はたった一言でその場を収め、
「千寿郎、昼飯にするのだろう?」
と居間へ向かうため、一人家の中へと足を向けた。
流石は彼らのお父上様なのである。
そんな父を慌てて、皆が追いかけ歩き出す。
そんな気配を背中ごしに感じながら、ふと愼寿郎は先程の息子の姿を思い出していた。
目の前でオロオロしていた少女を、愛おしそうに見つめる杏寿郎の姿に気づいていた愼寿郎は、先程同様ため息を漏らしてしまう。
〝そんなに大切なら口に出してしまえばいいものを〟
そんな事を思いながらも、それを伝える事をしない辺り、なんだかんだ似たもの親子なのだが。
〝真っ直ぐで、やたらと頑固な息子に惚れられてしまっては、もう逃げられないだろうな〟と琴音を少し気の毒に思いながらも
なんだかんだ琴音の事を気に入っている愼寿郎は
〝杏寿郎の嫁もいいかもしれんな〟
と彼にしては珍しく、お節介な事を考えていた事は誰も知らない。