第一章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
暫く談笑していた二人だが、夜が近づきしのぶが担当地区の警備に向かう為、今日はそこでお開きとなった。
しのぶは部屋を出る間際、琴音に向かって口を開く。
「言い忘れていましたが、琴音は明日で退院です。もう傷も塞がっていますし、検査も寝ている間に済ませてありますので。、、、これ以上、屋敷が甘味で溢れては困りますので、機能回復訓練は煉獄さんにお願いして下さい。」
そう言い残して部屋を出て行った彼女に、
〝そんな風に追い出さなくてもいいじゃない〟
と琴音は少し膨れていた。
しのぶの言う通り、確かに傷はもう塞がってはいる。流石に二週間近く寝たきりだったのだから、体は重いが動かせない程でもない。自分の体の丈夫さに、少し呆れてしまう琴音だが、、、
それにしても〝甘味で溢れるなど大袈裟な〟と先程の友の言葉に苦笑いを浮かべた。
だが実際の所は琴音が思う以上に、蝶屋敷の者は迷惑を被っていたのだが。
******
ある時は、しのぶの同僚でもある実弥が、おはぎを持参して見舞いにやってきた。そんな彼に
「風柱様、申し訳ありません。日持ちしない物は、置いて置けない決まりなんです」
と声をかけた三人娘のきよに向かって
「あァ"?これはこいつの好物だァ」
と睨みをきかせて泣かせた事もあった、、、
またある時は、これまた同僚の天元が勝手に病室に忍び込み、三人の嫁といきなり宴会を始めた事もあった。
所狭しと団子やら酒やらベッドの上まで広げて盛り上がる彼らに、アオイが声をかければ
「ド派手に騒げば琴音も起きるだろ」
とけろっと言ってのけたのだ。
それには、流石のしのぶも顔を引き攣らせた。
勿論それだけではない。これ見よがしに、琴音の喜びそうな甘味を持ち寄る隊士が後を立たなかったのだ。
そして一番困ったのは、その光景を目にしたこれまた同僚の杏寿郎だ。
彼はただでさえ大きな目を更に見開いて、来る者全てに大声で言ってのけるのだ。
「琴音の見舞いに来てくれて、師範として感謝する!ところで、琴音とはどのような関係だろうか?」
そう言って詰め寄る彼に、
ひっ!と悲鳴をあげて甘味だけ置いて帰っていく者や、屋敷の娘達に泣きつく者が相次ぎ、この二週間しのぶの悩みは尽きなかったのである。特に柱達の対応に、それはそれは手を焼いたのだ。
〝そんな彼女が目を覚ましたと知れば〟
しのぶは想像しただけで頭が痛くなったというのに。
当の本人は先程まで何も知らず寝こけていた挙句、起きたら起きたで〝こんなに甘いものがあるから明日皆で食べようと思ったのに〜〟と頬を膨らましていた。
琴音は暫く「むぅ〜」と不機嫌そうに唸ってはいたが、そこはやはり真面目な彼女だ。
〝しのぶが言う通り、元気な癖にいつまでも呑気に休んではいられないな〜〟と琴音は思い直し、ゆっくりと立ち上がる。
〝そうと決まれば〟と窓の外で様子を伺っていた自身の鎹鴉を呼びつけ、杏寿郎に明日退院できる旨を伝えるよう伝言を託し、琴音は蝶屋敷の娘達を探しに病室を後にした。
琴音が皆を探して台所を覗けば、アオイ達は皆、晩御飯の準備などで忙しなくしていた。
なんとも働き者の彼女達に
「手が空いたら皆で甘いものを食べに来て」
と一言残して、琴音は療養中の隊士の元へと足を運ぶ。
甘いものが大好きな彼女だが、流石に机の上いっぱいに置かれた甘味を明日までに食べきる事など出来るはずもなく、たまたま居合わせた隊士達にお裾分けして回る琴音。
「体はもう大丈夫?甘いものでも食べて、疲れを吹き飛ばしてね」とニコニコと菓子を配っていけば、頬を赤らめてしまう隊士が続出する。
こうして密かに彼女を慕う者が増えていくのだが、彼らはまだ知らないのだ、、、
琴音の後ろには燃えるような闘争心を持った炎柱がいる事を。そして想いを告げようものなら、地獄を思わせるような厳しい稽古をつけられる事も。そして勿論、琴音もそんな事想像もしてはいないのだった。
そんなこんなで隊士達に甘味を無事に配り終えた琴音は、今度は世話になった蝶屋敷の娘達と一緒に、自身も甘いものに手を伸ばしていた。
「二週間ぶりの食事だから、流石にこれは、、、」
と、初めはアオイに注意された琴音だったが、余りにも食べたそうにしている彼女に、結局はアオイも許可を出したのだ。
〝やっぱり皆で食べる甘味は格別だな〟と久々の至福のひと時を琴音は過ごすのだった。
******
翌朝、杏寿郎はいつもより少し遅めに、蝶屋敷に現れた。どうやら、任務終わりに家へ寄ってから来たようで、屋敷に着いて早々に
「琴音が世話になったな!」
と挨拶をすませて、早速帰路に着こうとしている。
そんな彼を、しのぶは苦笑いで見つめ口を開く。
「煉獄さん、分かってはいると思いますが琴音は二週間も寝たきりでしたので、いきなり長時間の稽古をつけたりしないようにして下さいね。」
「うむ!無茶をさせないよう気をつけよう!胡蝶、あとは任せてくれ!」
そう返事をする同僚は、以前の彼に戻っていてクスリと笑う。〝琴音が目覚める前はあんなに落ち込んでたというのに、なんとも分かりやすい人だな〟と笑っていれば
杏寿郎からは「なんだ?」という視線が返ってくる。そんな彼が面白くて、しのぶがクスクスと笑っていれば琴音が徐に口を開いた。
「しのぶ、今回は色々とありがとね。」
「そんな事いいんですよ、気にしないでください。ですが、これからは怪我をしたら必ず蝶屋敷に寄るようにして下さい」
しのぶがそう返したところで、琴音は恥ずかしそうに視線を彷徨わせた後、静かに口を開いた。
「私、決めたの。皆を守って戦うのは勿論大切だけど、、、私には〝庇われて目の前で命を失う者の辛さ〟が分かるから」
そこで区切った彼女は、ゆっくりと視線を目の前の友へと移し言葉を続けた。
「だから私は絶対死ねない。足が折れても、腕が千切れても、這ってでも此処に返って来るから、、、、その時はお願いね?」
そう言ってえへへ、と笑う琴音にしのぶは一瞬、目を見開いて固まった。
彼女から伝わる〝前を向いて生きていく〟という決意が嬉しかったのだ。
勿論、「足が折れたり、手がちぎれるなんて物騒な事を言わないでください」とすかさず突っ込んでおくのだが。
そんな二人を後ろで見守っていた杏寿郎も、それには笑顔を浮かべ
「うむ!いい心がけだ!」
と口を開いてワハハ、と笑うのだった。