第一章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「では琴音が起きた事を知らせてくる」
そう言って琴音の頭を
ぽんぽんと撫でた杏寿郎は、部屋を出て行った。
暫く彼が出て行った扉を見つめていた琴音は、静かに目を閉じて深呼吸を繰り返す。
そして先程まで杏寿郎が語りかけてくれた言葉を思い出し、自分一人の空間にぽつりと言葉を落としていく。
「優斗、ごめん。」
とても優しい穏やかな声が響いた。
もう届くはずないのに〝姉ちゃんは馬鹿だな〟なんて弟が笑っているような気がして、ゆっくりと目を開く。
勿論そこにいるのは自分だけ、弟はいないのだが。
彼女は、窓の外に広がる夕空に視線を移した。
「でも見てて。私は私のやり方で守って行くから、、、姉さん、結構強いんだから」
小さく呟いた言葉は誰が聞く訳でもない。
けれど弟を想い、優しい笑みを漏らした彼女の心はとても穏やかだった。
******
杏寿郎が出ていき少しすれば、
廊下から慌ただしい気配が近づいてくる。
〝彼女にしては珍しいな〟と少し罰の悪そうな顔を
琴音が浮かべていれば扉が乱暴に開き
「琴音!」
眉を下げ泣きそうな表情のしのぶが現れた。
その後ろには、彼女を呼んできてくれたのだろう。杏寿郎が立っており、琴音の顔を見て口を開いた。
「うむ!もう大丈夫そうだな。俺は任務に行って来るが、、、琴音。くれぐれも無茶はしない事!任務が終わったら、また顔を出すとしよう!」
、、、無茶はしないけど。というか、私の前にいる彼女のおかげでさせて貰えないだろうな。
と口に出かけた琴音だが、今回の怪我で沢山迷惑と心配をかけてしまったのを知っているからこそ、大人しく頷くしか出来なかった。
それを見届けた杏寿郎は嬉しそうに笑ったかと思うと「では、行ってくる!胡蝶、後は頼んだぞ!」と口にするや否や、もの凄い勢いで部屋を出て行った。
******
嵐が去った後のように静まり返った病室。
残された琴音は、俯いてしまった目の前の親友へ恐る恐る声をかける。
「しのぶ、、、色々とごめんね?」
琴音の言葉を聞いたしのぶは、俯いたまま大きめなため息を漏らす。その反応に〝怒られる〟と怯えた琴音は肩を震わせて身構える。
だが一向に話出さない彼女に、痺れを切らして恐る恐る「しのぶ?」と問いかけた。
「、、、琴音が死んでしまうかもと思いました」
やっと話しだしたしのぶは、予想外の弱々しい声で。いつもと違う彼女の反応に慌てて、琴音は口を開こうとした、、、のだが。
顔を上げたしのぶの絶対零度の笑顔を見て
〝あ、やっぱり?〟と覚悟を決めた。
「貴方は何度言えば分かるのですか?〝無理はするな。人を頼れ〟と今まで何度も伝えてきたはずです。それがなんですか?瀕死の状態で運ばれたかと思えば、二週間近く目も覚さない。挙げ句の果てに、見舞いに来る者たちは何故食べ物ばかり持参するのですか?腐る様な物は置いて置けないと、毎回伝える私の苦労はお分かりですか?」
、、、どいつもこいつも。と止まることのない
しのぶのお説教に琴音は眉を下げて苦笑を漏らした。
大体、琴音が眠っている間に見舞いに訪れた者への恨み言を言われても、、、と言う所ではあるのだが。
そんな琴音に〝まだ終わってない〟と、彼女が口を開こうとすれば、
「何を笑っ「しのぶ。」
まだまだ続く彼女の言葉を遮って、琴音は口を開いた。
「沢山心配かけてごめんなさい。しのぶ、助けてくれてありがとう」
そう言って嬉しそうに笑う琴音。
そんなふうに笑われてしまっては此方も毒気を抜かれてしまうというもので、、、
はぁ〜、としのぶはまた大きなため息をつく。
「本当ですよ。まだまだ言い足りないくらいですが、、、
そんなに目を腫らして、たっぷりと叱られた後なのでしょうね。彼は此方が心配する程に、貴方に付きっきりでしたので」
と口を開いた彼女は最後に「煉獄さんにいい所を取られてしまいましたか」と呟いた。
いい所、、、って何?そもそも叱られた訳では無いのだけど。とは思っても絶対に口を出さない。
これ以上彼女の怒りを買いたくない琴音は、しのぶに「ありがとう」とまたお礼を口にするのだった。
******
しのぶと琴音は、眠っていた時間を取り戻すかのように、お互いの話をした。
任務の事、怪我の事、見舞いに来た人達のこと、それから弟の事、、、。
今までしのぶに隠そうとしていた訳ではなく、弟の事で心配をかけたくなかったから伝えていなかった事も全て伝えた。
「琴音は本当に馬鹿ですね。そんな大怪我を負うくらいなら、あちこちに心配なんてかけまくればいいんですよ」
そう言ってのけるしのぶに、琴音は
、、、あちこちに。かけまくれ、だと?無理に決まっているだろう、と苦笑いを浮かべる。
まぁでも、結果的にさらなる心配を沢山の人にかけてしまった琴音には、反論なんてできる筈はないのだが。
そんな琴音に、しのぶは「それに」と言葉を続けた。
「琴音が頑張っているからこそ、私も頑張れるのですよ?一人で抱え込まず、頼って下さい。親友なんですから」
「へ?」
以前しのぶにそう諭した張本人に、同じように諭してやれば琴音はキョトンとした表情を見せる。
そんな彼女にくすりと笑みを深くして「貴方が言った言葉ですよ?忘れてしまいましたか?」と呟けば
じわじわとにやけ始める琴音。プルプルと震え出したかと思うと、本当に今まで寝たきりだったのかと思う程の力で、しのぶに抱きついた。
「ありがとう、、、しのぶ、大好き!」
がばりと抱きついて来た琴音に、「調子に乗らないでください」としのぶはぼやく。
でも実際はつれない返事をするものの、抱きついて来る彼女を引き剥がす事もなく、安心したように笑うしのぶがいるのだった。
「琴音は本当にどうしようもない人ですね」
「しのぶだって、私がいなきゃ駄目なんでしょ?」
とお互いに言い合い、ぷっと噴き出す二人。
病室には笑い合う彼女達の明るい声が響いていた。