第一章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
琴音はあの日から、
幼き頃の幸せな記憶を夢の中でずっと見ていた。
******
「姉さん、旅人さん何もなくなっちゃったよ。可哀想だね」
「ふふ。さぁ、それはどうかな?」
そう笑って少女は絵本のページを開く。
横に座るのは弟だろうか、
絵本を覗き込む幼き少年に少女は続きを読んでいく。
〝 旅人の手元にはもう何もありません。
綺麗な石も、花の種も、食べ物も。
み〜んな困っていた人たちに
渡してしまったからです。
彼に残ったのは空っぽになったかばんだけ。
けれども、旅人は嬉しそうに笑うのです。
「みんなが笑ってくれてよかった」
彼は空っぽのかばんを見ても
ちっとも悲しくはありませんでした。
それどころか、沢山の人から貰った
「ありがとう」の言葉に
幸せな気持ちでいっぱいになったのです。
旅人はまた新しい旅へと出かけます。
沢山のありがとうの笑顔を探して。〟
にこにこと聞いていた少年は「旅人さんはありがとうが欲しかったの?」と首を傾げる。
それに少女は「そうよ?私も旅人さんと一緒。優斗にありがとうって言われたら、嬉しくなっちゃうもの!」と無邪気に笑う。
そんな二人に後ろから声がかかる。
「琴音は優斗が本当に大好きね」
クスクス笑う母の声に振り返れば、こちらを優しい笑顔で見守る両親の姿。
えへへ、と嬉しそうに笑う少女の頭に大きな父の手が乗り、優しくなでられて頬を赤く染める。
とても幸せな時間が流れていた。
でも幸せな筈なのに、、、
ずっと続いていくと思っているのに、、、
琴音はその終わりが来る事にいつも怯えていた。
夜が近づけば何故か琴音は不安になった。
何に怯えているのか、幼い少女には分からなかったが、漠然と〝何か〟が怖かった。
そうして暗闇を耐え、朝日が顔を出すとほっと胸を撫で下ろすのだ。そうやって、毎日を過ごしていた。
だから今日も、いつものように目を固く瞑り、
恐怖に耐えれば朝になると思っていたのだが、、、
恐る恐る目を開けた少女は息を呑んだ。
ひっ、と小さく悲鳴を上げた琴音は、怯えながらあたりを見回す。何もない暗闇が何処までも続き、そこに自分だけぽつんといる事に気づく。
「父さん、、、母さん、、、優斗っ、」
恐る恐る家族の名を呼んでみても、それに応える者はいない。その恐怖に小さく蹲り、震え出す。
だが、そんな空間に突如、誰かの悲鳴が鳴り響いた。
ビクッと顔を上げた琴音は視界の先に、自分の両親の姿を見つけ泣きそうになる。
〝なんだ、こんなに近くにいたんだ〟と
安心した少女は走ってそちらに向かうが、何故か両親の元へ全然辿り着けないのだ。
〝なんで?なんでなの?〟それでも少女は必死に走り続ける
そんな琴音に気づいていないのか、父親が口を開く
「叫び声が聞こえなかったか?」
駄目!琴音は叫びたかったが何故か声が出ない。
何が起きるか分からないはずなのに、この先を知っているような恐怖に震えが止まらない。
〝お願い、父さん行かないで〟必死に父に向かって手を伸ばす。
だがその想いは届かない。
父が叫び声の方へ足を進めれば
〝何か〟がいきなり父目掛けて飛びかかる。
一瞬で当たり一面が赤く染まる。
それを呆然と眺める事しかできない琴音の耳に、今度は母の叫び声が響いた。
首元から血を流し倒れた父に
母が慌てて駆け寄れば、次はそれが母に飛びかかる。
〝駄目、やだ、やめて〟と目の前の光景から目を背けたいのに、体が凍りついたかのように動かない。
だが両親を襲った、その〝何か〟と目があった瞬間
弾かれたように思い立つ。〝優斗を守らなきゃ!〟
慌てて、弟を探そうと振り返った少女の先には
真っ黒の隊服を来た優斗の姿があった。
先程まで8歳ほどの幼き少年だった筈の彼は、
見間違えるほどに成長しており15歳ほどだろう青年になっていた。
驚く少女の前に出て刀を構えた青年は、
此方に向かって振り返り口を開く。
「俺が〝鬼〟から姉さんを守るよ」
そう言って鬼に向かって走り出す弟の背中。
その背中に、琴音は目を見開く。
全部、、、全部思い出したのだ。
両親が鬼に殺された事。
残された弟を守るため鬼殺隊になった事。
そんな自分を追うように弟も鬼殺隊に入った事。
、、、そして弟が私の前からいなくなった事。
「優斗、行かないで!駄目っ」
琴音は慌てて手を伸ばすのだった
******
杏寿郎は今日も任務後に蝶屋敷に足を運んでいた。
いつもの様に寝台の上で眠る琴音の隣に座り、彼女の寝顔を眺めてから、自分も軽く仮眠をとる。
そうやって時間を過ごし、眠りから覚めた杏寿郎は、〝眠り続ける少女〟の姿に小さくため息を漏らして立ちあがる。
「任務に行ってくる」
そう言って、彼が琴音に背を向け歩き出した時
「ゆ、と、、、、」
と小さな声が後ろから聞こえた気がした。
驚いて振り返れば、琴音の手が少し動いているような気がして、杏寿郎は慌てて彼女の側に近寄り、迷う事なくその手をぎゅっと握りしめ「琴音!」と声をかけた。
祈るような想いで彼女を見つめれば、少ししてからゆっくりと目が開く。
ぼーっと天井を見あげた琴音は、瞬きを数回繰り返してから
「夢か、、、」と掠れた声で呟いた。