第一章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
杏寿郎は持てる全ての力を使い、
物凄い速さで蝶屋敷へと向かっていた。
何故、、、
琴音が怪我?
彼女程の実力者でも怪我を負うという事は
相当厄介な鬼だったのか、、、
いや、下級の隊士を庇って
怪我を負ったのかもしれない、、、
頭の中で何故だ、何故だ
と吐き捨てながら全速力で駆け抜けるのだった。
*****
夜明け間際の蝶屋敷に地響きが響き渡る。
何事かと思っていれば、
鼓膜が破れそうな程の大声が響き
続いて少女のキャーという叫び声が響く。
怪我を負って蝶屋敷で治療中だった隊士達は、
その叫び声に「何事だ!」と飛び起きる。
ドドド、バタン!ドドドドド、バタン!
という音が次第に近づいてきて
「琴音っ!」
名前を叫びながら
壊れそうな勢いで戸を開けた炎柱に
その場の者は硬直する。
が、ギョロリと部屋を見渡し
探し人が見当たらなかったのだろう、
また凄い勢いで何処かへ走って行った。
療養中の隊士達は顔を見合わせ
「なんだったんだ、、、」と呟いた。
******
片っ端から病室を明け
琴音の姿を探す杏寿郎の後ろに、
すっと人影が現れ口を開く。
「煉獄さん、屋敷を壊すおつもりですか?
もう少し時間と場所を考えてください」
だが、声をかけられた杏寿郎は
そんな事は聞こえていないように
「琴音は無事なのか?」
と背後に立っているしのぶに問いかける。
しのぶは、はぁとため息をついた後、
困ったように笑い「琴音ならこっちです」と彼に声をかけ病室を案内した。
しのぶが案内した部屋を開ければ
一人、琴音がベッドに寝かされていた。
ゆっくりとベッドに近づき、彼女の姿を確認する。
彼女の腕には沢山の管が伸びていて、顔色は血の気が全く感じられ無い程に青白い。
恐る恐る琴音の頬へ伸びた手が感じた暖かさがなければ、彼女は死んでしまっているかのように思えた。
「琴音は今回かなりの深傷を負ったせいで、顔色が優れていませんが、ここに運ばれる迄に自分で呼吸を使い止血したようで、何とか一命は取り止めました。
ただ、今回の傷、、、
鬼の爪によって、右側の首の付け根から左脇腹まで、斜めに負った傷はあまりにも大きなものだったので、血を失いすぎました。」
そこまで言って言葉を止めたしのぶは、悲しげに眉を顰め、言葉を続けた。
「報告によれば、幻術を使う鬼だったそうです。彼女は無抵抗で鬼の攻撃を食らい、同行した隊士がその首を斬り捨てた。
鬼は、彼女の弟さんの姿をしていたそうです。
煉獄さんは知ってまいましたか?
琴音が弟を亡くした事を、、、」
私には教えてくれませんでした、と呟いたしのぶに
「弟を亡くした、、、?」
杏寿郎も驚いて口を開く。
その時、静かに病室の扉が開く。
自ずと部屋の中にいた二人はそちらへ視線を向けた。
扉を開けた張本人、頭に包帯を巻いた少年はオロオロと慌てて口を開く。
「すみません、炎柱様。
いらっしゃるとは知らず、また時間を改めます」
そう口にした彼に、しのぶが
「川上君を呼んだのは私なのですよ」と杏寿郎へと説明する。
なんでも昨日の合同任務の相手が彼で、彼自身手負の状態であったにもかかわらず琴音を背負って此処へ駆け込んできたという。
それがなければ、いくら呼吸で止血していたとしても手遅れだったかもしれない、としのぶは言った。
だが、それを黙って聞いていた隊士は、
小さな声で「違う、違うんです、、、」と呟いた。
隊士の声に、改めて二人が視線を移すと
悔しそうに顔を歪めた彼がいて
「琴音さんを追いつめてしまったのは俺なんです」とまた小さな声で呟いた。
どういう事だと顔を顰めた二人は、先を話せと言わんばかりに少年隊士を見つめる。
その視線に怯えながらも彼はぽつり、ぽつりと話しだした。
******
昨日の任務は二人での合同任務だった。
聞き込み調査を行なった結果、その町の人がいなくなった場所は、ある二箇所に固まっていたと言う。
どちらに鬼が現れるか分からないため、二人は別々に待機していたが、鬼はどうやら彼の方に現れたらしい。
その鬼は幻術を使う類のものだったらしく、彼の前には恋仲の少女の顔をした鬼が現れた。
鬼だと分かっていても、好いた相手に上手く刀が振れず翻弄されている時に琴音が駆けつけた。
彼女は一瞬で鬼と少年の間合いに入り、攻撃を繰り出し少し距離を取った。
その際、頬にかすり傷を負ったが大して気にする者はいなかった、、、鬼以外は。
彼女の血に触れた鬼はニタリと笑い言ったのだ「お前の心はボロボロだな」と。
その直後だった、鬼の姿が可愛らしい少女の姿から隊服を纏った琴音の弟の姿に変わったのは。
驚いて動きを止める二人に、その姿のまま嬉しそうに鬼は語り出す。
「俺の血鬼術は相手の心を覗き、その者が一番心に思う人の姿を映すこと。たった一滴でいい、そいつの血に触れればどんな奴の心だって覗けるんだ。
みんな喜んで死んでいったよ。愛した者と一緒になれるんだ。嬉しくて涙を流す者もいた」
ニタァと嫌な笑顔で鬼が笑えば、
「弟の顔でそんな言葉使わないで!」と彼女は怒鳴り、鬼に向かって駆け出した。
だがその瞬間、
「姉さん、何で助けてくれなかったの?」と弟の顔をした鬼がぽつりと呟いた。
鬼へと駆け出していた琴音の足がゆっくりと止まり、構えていた刀が小刻みに震えだす。
目を見開き、動きを止めた彼女に
鬼が一歩、また一歩と近づきながら
「姉さん、誰の為に鬼殺隊になったの?」
「俺、本当は鬼殺隊になんか入りたくなかったんだ」と呟く。
次第に二人の距離は縮まり
彼女まで、あと一歩というところまで来た鬼は
「姉さんが俺を鬼殺隊にしたから、俺は死んだんじゃないか!」と叫びながら、無抵抗の琴音に向かって手を振り上げる。
まずいと思った隊士が慌てて駆け出した時には、琴音は鬼に攻撃を受けた所で、振り抜いた刀が鬼の首を斬ったのはその直後だった。
そこまで黙って聞いていた杏寿郎は、どこに彼が自分を責める原因があるのだろうと思った。
今の話の通りなら、彼がいなければ彼女は死んでいただろう、、、と。
そう思っていれば、しのぶも同じ考えだったのだろう「川上君が責任を感じる必要はありません」と口を開いた。
けれど、少年はその言葉に
突然ボロボロと泣き出し「違うっ、違うんです、、、」とまた口にした。
さっきから何が違うというのか、と二人が彼を見つめて入れば、消え入りそうな声で呟いた。
「琴音さんの弟が命を落とした日、、、
一緒にその任務に同行していたのは俺なんです」
拳を握りしめて、俯いた彼は震えた声でこう続けた。
「彼が亡くなる前に琴音さん宛の手紙を託されて、、、罵倒される覚悟で俺、彼女に会いに行ったんです。
だけど琴音さんは怒るどころか〝辛い想いをさせてごめんね〟って笑ったんです。
一番辛いのは彼女のはずなのに、、、俺が彼女に慰められた。
俺の存在が彼女を追いつめた、本当は俺が死んだら良かったんです。」
だから、俺のせいなんです、、、彼はそう言った。
少年がすすり泣く音だけが部屋に響き、重い空気が漂い始めた時だった。
「そんな事はないだろう!」と杏寿郎は声を上げる。
驚いた少年が顔を上げれば、そんな彼を見つめてまた杏寿郎は口を開く。
「琴音はそんな娘ではない!
人の心に寄り添える、優しい心を持った娘なんだ。
だから彼女が君にかけた言葉は、嘘偽りない本心だと俺は思う!
君が死んだほうが良かったなど琴音が思う筈がない!
それに琴音の弟は君の所為で死んだわけじゃない、鬼に殺されたのだろう?
、、、目の前で仲間を失う辛さは俺にも分かる。
己の弱さや不甲斐なさに心が打ちのめされるだろう。でも君は、またこうして刀を握って前を向いた。そのおかげで彼女を失わずに済んだんだ!
君は立派な鬼殺隊士だ!胸を張れ!」
それを聞いていたしのぶも、少年に向かって優しく話しかける。
「煉獄さんの言う通りです。
君がいたから琴音は、まだここにいられるんです。
それに君が出会うより前から
彼女は無茶をするところがあったので、今回の怪我も君が責任を感じる必要はないのですよ?」
そこまで言って言葉を区切ったしのぶは、改めて少年に笑いかける。
「さぁ、川上君!
状況報告はして頂きましたので、君も病室に戻りましょう。琴音のお説教なら、私が代わりにしておきますので安心して下さいね?」
柱二人にそこまで言われてしまえば、彼もこれ以上今回の件について口を開く事はなかった。
******
しのぶに促され、少年が部屋を出ていけば
残された杏寿郎は改めて琴音を見る。
いつも笑顔で支えていてくれた彼女が、苦しんでいた事に気づきもしなかった。
自分への不甲斐なさや、同時に自分を大切にしない彼女への怒りが込み上げてきて小さくため息を漏らす。
これは琴音が起きたら説教だな!そして、落ち込んだ彼女のご機嫌を取る為に甘味も欠かせないだろう!そこまで考え小さく笑った杏寿郎は
「早く目を覚ましてくれ、、、」
と一人呟くのだった。